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東洋建設と任天堂創業家ファンド、なぜ全面抗争に突入…門前払いと買収防衛策が仇に

文=松崎隆司/経済ジャーナリスト
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東洋建設のHPより

引き金となったのは前田建設の企業再編

 海洋土木(マリコン)大手の東洋建設の経営陣と筆頭株主との対立が続いている。筆頭株主が今年1月23日、定時株主総会で社長の武澤恭司氏をはじめ代表取締役の薮下貴弘氏、取締役の佐藤護氏の3人の取締役の再任に反対するとともに、東洋建設取締役会の再編を目指すことを明らかにした。

 取締役の再任に反対しているのは、任天堂創業家の資産を運用するYamauchi-No.10 Family Office(YFO)。任天堂の創業家で日本最大のゲーム会社へと育て上げた山内溥氏の孫、山内万丈氏が祖父から引き継いだ資産を元に立ち上げたファンドだ。2000億円近くの資金力があるという。

 YFOは東洋建設の武澤社長や事務局(薮下代表取締役、佐藤取締役、時田学執行役員)と2022年5月18日から250日にわたって20回、40時間以上、長期的な企業価値向上を実現するための買収について協議してきたという。ところが東洋建設側は買収提案の検討を行わず、この間、コーポレートガバナンス上の瑕疵も露呈したことから、経営体制の刷新を求めていくという。

 事の発端は、前田建設の持ち株会社による東洋建設のTOB(株式公開買付け)にさかのぼる。東洋建設がバブル崩壊後の建設不況のなかで経営危機に陥り、前田建設は2003年、第三社割当増資を引き受け22.18%(現在は20.18%)の株式を取得し筆頭株主に躍り出た。東洋建設からの経営支援の要請を受けてのものだった。それ以降、約20年間、役員を1人送り続けていた。ところが前田建設は自社グループの経営戦略を大きく見直し、グループ内での再編を進めた。2020年1月には持分法適用会社だった前田道路に敵対的TOBを仕掛け、猛烈に抵抗していた前田道路をグループの子会社化したことは大きな話題となった。

 その後、前田建設、前田道路、前田製作所は21年10月1日、共同持ち株会社インフロニア・ホールディングス(HD)を設立した。インフロニアHDは「脱請負」事業の拡大を旗印に、25年3月期までの中期経営計画では、グループ全体の売上高の目標は8750億円、売上総利益は1145億円、営業利益は590億円という目標を掲げた。さらにインフラ運営による売上総利益115億円を目指し、今後3年間で360億円投資するほか、M&A(合併・買収)に500億円、DX関連に80億円など全体で1050億~1100億円の投資をすることを明らかにしている。そのような中で浮上したのが、東洋建設の買収の動きだ。東洋建設は1927年7月に設立された中堅ゼネコンだが、海洋土木事業では定評のある3大マリコンの1社だ。

一株770円に対抗して1000円でオファー

 インフロニアHDがTOBをかけたのは2022年3月。TOB価格は一株770円だった。これに対して東洋建設は賛同し、株主に対してTOBに応じるよう推奨した。一方、YFOは、インフロニアHDによるTOB開始後、YFOグループの投資会社WK1、WK2、WK3を通して25.30%(現在は27.19%まで買い増し)の株式を市場取得し、筆頭株主に躍り出た。その後、YFOは4月15日に東洋建設に友好的な協議を申し入れた。

 YFOは、4月27日、5月10日と2度にわたって東洋建設と交渉し、市場価格よりも安いインフロニアHDのTOBへの賛同を取り消すよう要請。さらに東洋建設がインフロニアHDへの対抗提案を検討する機会を確保することを明示していたことから、インフロニアHDよりも有利な一株1000円で全株式を取得する選択肢も東洋建設に申し出たが、東洋建設側は真摯な提案とは受け止めず、それを事実上無視した。

 そのような中でYFOは、5月18日に法的拘束力のある正式な提案として、一株1000円でのTOBにより非公開化を提案したことを明らかにした。その後、インフロニアHDはTOB価格を引き上げることなく目標数の株式は集まらず、TOBは不成立となる。

 YFOの買収提案はインフロニアHD同様、株は全株を取得し非上場化するというものだ。インフロニアHDは持ち株会社の下に再編し直すという意味合いがあったが、YFOは非上場化によって東洋建設の企業価値の最大化を目指すとしていた。

 そして東洋建設は突如としてYFOの提案に対して買収防衛策を導入することを明らかにした。これに対してYFO側からは「買収防衛策の導入は株主の利益・目線といった観点から一切正当化できるような理由は示されておらず、 導入自体を見送るべき」との疑問の声があがった。

 結局、買収防衛策はISSやグラスルイスなど議決権行使助言機関からも反対推奨がなされ、株主の間でも不評で、昨年の6月25日の定時株主総会の2日前に取り下げている。東洋建設はYFO側から買い増ししない(23年5月24日まで)など、一定の理解を得られたからだと説明しているが、機関投資家が反対して票が集まらなかったから取り下げたというのが実態だったのではないかと見られている。

東洋建設の対応に取締役の刷新を決意

 東洋建設はここから戦略を大きく変え、表面上は協議に応じる姿勢を見せるようになった。実際、両者は昨年8月には秘密保持契約を結んでいる。ところがその後も事実上協議の進展はなく、東洋建設は「海洋土木事業者以外の会社が東洋建設を非公開化した場合、事業基盤が崩壊し、会社の存続が危うくなる」と主張し続け、YFOは事実上の門前払いを食らったかたちとなっている。

 その後も膠着した状態が続き、両者のトップ協議では、東洋建設の取締役会での協議を経ることなく、武澤社長からYFOの提案には賛同できないとする書面が交付されるに至る。そこで、YFOは22年12月9日付けで東洋建設の取締役全員に買収提案の真摯な検討を依頼する書簡を送付。ところが、12日付で東洋建設代表取締役から「代表取締役社長及び事務局が当社買収提案に賛同できない旨の書面を交付するに至った事実経緯やその不賛同理由については削除すべきであり、開示が行われないようあらゆる法的措置を講じざるを得ない」と書かれた書簡が送りつけられたという。

 また、YFOによると、両社の協議において東洋建設からは、経営基盤が崩壊するという説明は「不賛同ないしは反対表明の理由として開示できないため、何らかの『他の理由』を作って開示しなければならない」「理由は色々練らないといけないが、外に出せる理由を書いて出すしかない」などと説明を受けてもいたという。

 こうした東洋建設側の態度をひとつの回答として受け止め、12月13日にYFOからは事実上の最後通牒となるプレスリリースが出された。すでに社長からの書面を受け取ったが、あくまで取締役会として結論を出してほしいということで、1月下旬までの猶予期間を設定した。東洋建設からは、1月下旬になっても取締役会での結論は示されず、YFOは冒頭の東洋建設取締役会の再編を目指す方針を公表。その後も、YFOは、インフロニアHDのTOBへの賛同表明に際して、東洋建設の役員がインフロニアHDの取締役となることの密約があったにもかかわらず意図的に開示せず隠匿した疑いがあるとして、東洋建設のガバナンス上の重大な問題点について全貌を解明するための調査者の選任を求めて臨時株主総会の招集を要請。会社側が臨時株主総会招集を拒否したため3月13日、大阪地方裁判所に臨時株主総会の招集許可の申し立てを提起した。

 こうしたYFO側の動きに対抗するため、東洋建設も反撃に出る。3月23日には、中期経営計画を公表。野心的な中期目標を掲げるとともに、配当政策を大幅に転換し、株主に向けた「大盤振る舞い」を表明。さらに、4月4日には配当性向を100%とすることを公表。YFOが提示するTOB価格1000円よりも株価を上げることを狙った対抗策であることは明らかだが、4月14日時点で株価は1000円を大きく下回っている。

 4月17日にYFOは現任の武澤社長、薮下代表取締役、佐藤取締役3人と社外取締役3人の代わりに、業務執行取締役候補として三菱商事の代表取締役常務執行役員を務めた吉田真也氏、ゴールドマン・サックスなどによる企業再生を経験し、準大手ゼネコン・フジタの建設本部副本部長経験者である登坂章氏、社外取締役にはコーポレートガバナンスやコンプライアンスの権威で弁護士の山口利昭氏など7人、さらに監査役1人を就任させる案を株主提案した。

 今後、株主提案に対して東洋建設がどのような意見を表明することになるか、また、ISSやグラスルイスなどの議決権行使助言機関がどのような推奨意見を出すのかが焦点となる。

 6月の定時株主総会に向けて東洋建設の経営権をめぐる争いは天王山を迎える。

(文=松崎隆司/経済ジャーナリスト)

松崎隆司/経済ジャーナリスト

松崎隆司/経済ジャーナリスト

1962年生まれ。中央大学法学部を卒業。経済出版社を退社後、パブリックリレーションのコンサルティング会社を経て、2000年1月、経済ジャーナリストとして独立。企業経営やM&A、雇用問題、事業継承、ビジネスモデルの研究、経済事件などを取材。エコノミスト、プレジデントなどの経済誌や総合雑誌、サンケイビジネスアイ、日刊ゲンダイなどで執筆している。主な著書には「ロッテを創った男 重光武雄論」(ダイヤモンド社)、「堤清二と昭和の大物」(光文社)、「東芝崩壊19万人の巨艦企業を沈めた真犯人」(宝島社)など多数。日本ペンクラブ会員。

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