鳥インフルエンザの蔓延によって卵が供給不足になり値段が高騰すると共に、「代替卵」が注目されている。代替卵は、卵を使わず植物油脂などで卵のような味・食感を生成した食品だ。
日本ではキユーピーが2021年6月に、豆乳加工品をベースとして大部分を植物由来の原材料を使ったスクランブルエッグ風の業務用商品「HOBOTAMA」を発売して以降、複数の大手企業が代替卵市場に参入している。
カゴメと、「2foods(トゥーフーズ)」というプラントベースフードブランドを手掛けるTWOは、2022年3月より「エバーエッグ」という代替卵商品を販売している。冷凍用のほか、常温保存できる商品もある。
近年、地球環境やアニマルウェルフェア(動物福祉)に対する関心が高まっており、サステナブル(持続可能)な食としてプラントベースフードが注目されている。
もうひとつ、プラントベースフードのメリットは、食料危機にも対応できるということだ。国連の世界人口推計2019年版によると、世界の人口は2030年には85億人、2050年に100億人近くに増えることが予測されるが、そうなると畜産動物などから摂取する動物性タンパク質が不足しまうため、肉や卵を植物性タンパク質等で代替したり、培養技術などを活用した新商品開発が推進されている。昨今話題の「昆虫食市場」もこの流れを組んでいる。
現在、プラントベースフードのなかでも代替卵は、特に市場拡大が著しい。世界のプラントベースエッグの市場は、2022年の約2600億円から、2030年には1兆2000億円に到達するとも予測されている。
カゴメもプラントベースフードで市場拡大を狙っているようだ。筆者の取材に対し、以下のように回答があった。
「当社では、プラントベースフードが拡大市場と考えており、現在積極的に商品開発を行っております。
エバーエッグは、『新しい食の選択肢』として、こだわりのふわとろ食感の『たまごじゃないたまご』をお楽しみいただきたいと考えております。特長やメリットとしては以下があります。
・コレステロール0
・卵ではないため、加熱しても固まらず、お店で食べるような“ふわとろ食感”がレンジでチンするだけで、ご家庭でどなたでも失敗なくお楽しみいただける点 (電子レンジ対応パウチを採用しております)
野菜の知見やノウハウを生かして、今後も卵に限らず、おいしく楽しい、さまざまなプラントベースフードを開発してまいります」
エバーエッグ130グラムあたりの栄養成分は、タンパク質が冷凍で1.4グラム、常温で1. 2グラムほど。カロリーは冷凍が161カロリー、常温は101カロリーとのこと。そしてコレステロールは0グラムだ。
卵より重量あたりのカロリーが低いが、タンパク質も少ない。また、ゲル化剤や増粘剤などの添加物も入っているようだ。エバーエッグは、栄養学的には問題ないのだろうか。薬学博士で「食と安全研究会」会長の宮本貴世絵氏は、以下のように説明する。
「エバーエッグは大手食品会社が開発し成分が表示されていますので、安全な商品だと思います。『添加物が入っている』という批判もあるようですが、通常の卵にも成分が表示されませんが入っていることがあります。ただし、まだ新しい商品ですし、卵に比べタンパク質などの栄養は少ないので、毎日食べるのではなく、食材の一つとして取り入れていけばよいのではないでしょうか」(宮本貴世絵氏)
畜産動物のアニマルウェルフェアを普及させようと活動しているアニマルライツセンターの岡田千尋氏は、日本の卵の過密な飼育環境(工場畜産)を批判すると共に、代替卵に強い関心を寄せている。
「代替卵が世界でも多く売られ始めた理由は、アニマルウェルフェアです。卵用の鶏は酷使され、なんの配慮もないケージに閉じ込められ、自分の体の大きさよりも小さな面積しか与えられないような狭さで飼育されてきました。400~600日間、卵を生んだ後、屠畜されますが、最後には鶏たちは羽が抜け落ち、とさかが真っ白になり、精神的にもダメージを負った状態になります。
効率化と量を追求する工場畜産の最たる畜産物が卵です。鶏をケージに閉じ込めない平飼い、放牧の飼育に切り替える流れも世界中で進んでいますが、同時に卵という動物の苦しみだけでなく環境負荷も高い動物性たんぱく質から脱却し、植物性などで代替していくことがトレンドになりつつあります。
日本人の卵消費量はメキシコに次ぐ世界2位で、一人当たり年間330個も食べています。卵は1日1個食べた時点で、厚生労働層が示すコレステロール摂取目安を超えてしまいます。そして、消費される卵の多くは、栄養として食べる卵ではなく、料理の補助的役割で使っています。くっつけるため、膨らませるため、乳化させるため、見栄えのためなどです。しかし、この役割は卵である必要はありません」(岡田千尋氏)
さらに、アニマルライツセンターによると過密飼育は鳥インフルエンザが蔓延しやくなる。鳥インフルエンザが発生した農場の鶏は全羽殺処分されてしまうため、卵は供給不足になり値段が高騰する結果となる。
「2022年10月末からたった3カ月半で殺処分数が1500万羽に迫る、大殺処分が日本中で行われました。その内、卵用の鶏=採卵鶏は1360万羽と大部分を占め、採卵鶏の10%が処分されました」(アニマルライツセンター)
これまで日本の卵が安かったのは過密飼育による大量生産のお陰だが、より安全に一羽一羽の採卵鶏をアニマルウェルフェアの方針に沿って放牧させて育てれば、バタリーゲージ(過密飼育)卵の値段ほど安くは仕入れられない。しかしそれは「命の値段」なので、値段の高騰は仕方ないことかもしれない。
そこで、代替卵が未来のタンパク質として脚光を浴びているというわけだ。
筆者がエバーエッグで夕飯としてオムライスをつくったところ、レンジでチンするだけなので、卵を割ってかき混ぜる手間がかからない分、調理が楽だった。味は卵とあまり変わらず、食感もとろっとしていて美味しかった。常温で保存できるタイプを購入したが、災害時に停電した際の非常食として活用できるのも魅力的だ。
カロリーが低く、卵より少しあっさりしているため、筆者は深夜にこの原稿を書いている途中で空腹になってしまったが、ダイエットにはピッタリの食品かもしれない。ただし、卵よりタンパク質など栄養価が少ない点や、エバーエッグのコスパを考えると、まださまざまな課題が残されている。
エバーエッグは130グラム398円で販売されているが、バタリーゲージの卵は10個(500グラムほど)250円くらい、アニマルウェルフェアを重視した放牧卵は6個(300グラムほど)400円くらいが平均価額だろう。
今後の課題は、どのように栄養価を高めていくか、そしていかに安く生産できるかだろう。市場が拡大すれば、さらなる研究・開発が進み、価格も下がることが期待される。
(文=深月ユリア/ジャーナリスト)