感じのいい東大生が実はモンスターだった――。そういったケースはどれぐらいあるのだろうか。高偏差値大学の学生の就活というと、銀行や総合商社、メーカーなどの大企業を目指す学生が多いが、中小企業を受ける学生もおり、そのなかにはモンスター学生が紛れていると警鐘を鳴らす人もいる。
過去にネット上に投稿され話題となった書き込みでは、ある中小企業の新卒募集に応募してきた東京大学の学生の話が紹介されていた。その東大生は真面目な好青年でインテリぶっている印象もなく、かなり好印象だったとのこと。この会社の社員も、恐らく採用されると見込んでいたのだが、「高いレベルの教育を受けた人間は、それを社会に還元するべきだと思う」という社長の一存で不採用に。すると、なんとその東大生から何度も会社に不採用に対する抗議のメールが届いたという。極めつけは「私は御社に応募し、無駄な時間を費やしたことを大変後悔していますが、御社もいずれ、私を不採用にしたことを後悔するでしょう」というメールが送り付けられたというのである。
東大に限らず高偏差値大学の学生がほしいという中小企業も少なくないが、採用選考時の注意点などについて、就活や人事に詳しい株式会社人材研究所の曽和利光氏に話を聞いた。
内定が決まらないと焦りが出てくるエリート学生たち
「前提として、採用の合否にケチをつける学生の数自体はそこまで多くないので、この体験談は珍しいケースではあるでしょう。ただし東大などの高偏差値大学の学生だと、同期が続々と有名企業に内定が決まっていくなかで、自分だけなかなか内定が出ない時期が続いてしまうと焦りは出てくるかと思います。実際、そんな時期に滑り止めで受けた中小企業から不採用通知が届き、結果に納得できないと憤慨する学生をこの目で何度か見たことがあります。
一流企業となると100倍、200倍といった高い倍率が普通になってくるので、一流大学の学生でも容赦なく落とされます。けれど一部の高偏差値大学の学生は、『自分は有名大なのだから何社か大企業にも受かるはず』と思い込んでおり、不採用が続くと自暴自棄になってしまうのかもしれません。そして、中小企業は一流の大企業ほど倍率は高くないとはいえ、就活というのは落ちて当たり前の世界なので、当然、一流大学の学生が中小企業で落とされることも多々あるのですが、その現実を受け入れがたいと感じるのでしょう」(同)
今回の事例のように、「高レベルの教育を受けたんだから、もっとよい企業に行くべき」という理由で、高偏差値大学の学生が中小企業で不採用になるケースも少なくないそうだ。背景には、過去に高偏差値大学の学生を採用した会社側が、苦い経験をしている可能性もあるのだという。
「求める以上の能力を持つ学生を中小企業はあまり採用したがりません。企業の競争原理的にいえば、優秀な人材を現場にどんどん投入することが是とされるものの、有能で頭が切れる人材はそこまで必要としないという企業は意外に多いんです。特に東大クラスの学生となると、中小企業側がオーバースペックだと感じて、不採用にするというケースは珍しくありません。
高偏差値大学の学生は、当たり前ですが頭がよく、論理的に思考しながら話せるタイプが多いです。そのため、上司とのそりが合わないと仕事のやり方をめぐってトラブルに発展しやすいですし、最悪の場合だとすぐに退職してしまうこともあるので、中小企業は慎重に採用を検討しているのだと考えられます。もちろん、高学歴か否かにかかわらず若者を中心に似たような衝突は増えているようですが、高偏差値大学卒という肩書がある分、中小企業の採用担当者のなかには、余計に『高学歴=面倒くさい』とレッテル貼りをしている側面もあるのかもしれません」(同)
中小企業でも高偏差値大学の学生を採用する価値アリ
高偏差値大学の学生のなかには、残念ながら中小企業を下に見ている者も一定数いるそうだ。
「大企業志向の学生であればあるほど、中小企業の面接を練習台として利用することがあります。大学のキャリアセンターでは、本命企業の面接のために中小企業を受けてみるとよいと指導することもあるのですが、練習台にされた企業からすると、ほぼ入社する気がない学生の選考に時間や労力を費やすというのは、心情としては複雑でしょう。
また、中小企業を下に見ているような学生が入社してきたとしても、正直迷惑。労働意欲もそこまでないでしょうし、先述したように上司や同期と問題を引き起こす可能性もあります。ですから中小企業側がそういったトラブルを未然に回避しようとして、書類選考の段階で不採用にすることもあるわけです」(同)
本人の希望にそぐわない就職先だと余計にミスマッチは起こり、入社したはいいがすぐに辞めてしまうということは充分考えられる。そうなると、学生側は「あんな会社に入らなければよかった」、企業側は「あんな学生を採用しなければよかった」と、双方がマイナス印象で終わって誰も得をしないという結果になりかねないだろう。
とはいえ、高偏差値大学の学生を入社させることは、中小企業の職場によい変化をもたらす可能性も高いと曾和氏は強調する。
「自分の意見をしっかりと言える優秀な学生は、社内に変化をもたらす存在ですし、新しいビジネスチャンスを掴んでくれることもあります。上司や会社の方針に従順な人材ではなく、もともといる社員の立場を脅かすような、思わず嫉妬してしまう人材が、会社に大きなメリットや利益をもたらしてくれるというケースも多いのです。中小企業としては採用前の見極めには注意が必要ですし、入社後に適応してくれるような配慮も必要ですが、基本的に優秀な学生の採用は避けないほうが企業の成長を促すことは間違いありません」(同)
では高偏差値大学の学生の採用を検討する場合、中小企業は就活生のどこに着目すべきなのだろうか。
「なぜ中小企業に面接しに来たのか、その真意を探りましょう。中小企業の面接にやってくる高偏差値大学の学生というのは主に2種類存在しています。内心では大企業を志望していて滑り止めや練習で受けに来る学生と、本当に中小企業で自分の力を遺憾なく発揮したいと考えている学生です。面接では当然後者の学生を採用したほうが中小企業としてはメリットがありリスクも少ないので、志望動機や経歴を聞き出し、社風と照らし合わせてマッチするようであればぜひ採用していくべきでしょう」(同)
――東大などの高偏差値大学の学生がモンスター化するケースがあるのは事実。しかし、その一部の事例をもってして、全ての高偏差値大学の学生が中小企業に合わないとレッテル貼りをするのは早計だし、そう決めつけて不採用にしていると組織としての成長のチャンスを逃すことになりかねないということだろう。
(取材・文=文月/A4studio、協力=曽和利光/人材研究所代表)