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東大、今年の物理の入試問題「過去最高難度」と悲鳴…奇抜な問題に秘めた東大の意図

文=Business Journal編集部、協力=為近和彦/代々木ゼミナール物理科講師
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東大、今年の物理の入試問題「過去最高難度」と悲鳴…奇抜な問題に秘めた東大の意図の画像1
東京大学(「gettyimages」より)

 2月25~27日にかけて行われた東京大学の第2次学力試験の物理科目をめぐって、「東大入試の物理の問題としては過去最高水準の難度」「奇抜な問題」だとして話題を呼んでいる。いったいどれだけ難しいのか、そして問題を難化させた東大の意図とは何なのかを専門家に聞いてみた――。

 東大の理系学部(理科一~三類)の2次試験科目は国語、数学、理科2科目、外国語(英語)で構成され、医学部に当たる理科三類ではこれに面接が加わる。理科は物理・化学・生物・地学のなかから2科目を選択し、試験時間は2科目合計で150分となっており、物理は例年、大問3つで大問ごとに7~10問ほど小問が設定されている。単純計算すると大問1問当たりに費やせる時間は平均25分であり、ほとんどの問題がマークシート式ではなく論述式・記述式で解答を記入しなければならないことを考えると、かなり厳しい時間制限が課されていることがわかる。

 今年の物理の問題も同様の形態で、各大問の出題テーマは以下となっている。

・大問1
  力学・電磁気・原子
  (荷電粒子の運動、放射性崩壊)

・大問2
  電磁気・波動
  (電気回路を用いた物理量の測定、直流回路、マイケルソン干渉計)

・大問3
  熱力学 
  (風船内部の気体の状態変化)

(上記は代々木ゼミナールのHPより)

 例えば大問2をみてみると、滑車に糸で吊るされた円盤の上下に永久磁石が設置され、その円盤に水平方向にN回巻かれた導線が右側に伸び電気回路が形成され、その回路の左側に設置されたレーザー光源から出た光の一部がハーフミラーで反射し、一部は通過。反射した光は円盤に取り付けられた鏡1で反射し、通過した光は壁に固定された鏡2で反射し、この2つの光はハーフミラーで重ね合わされ、回路の可変電源と接続された光検出器に向かうという、複雑な図が掲載されている。

 物理の問題は全体的に例年に比べて難易度は大きく上昇したとされ、大手予備校各社の解答速報・講評は次のようになっている。

・代々木ゼミナール
「各大問で見られる標準的な設問は今年度は少なく、手強い設問が並んでおり難化した」

・駿台予備学校
「三題とも全てが難易度の高い問題で、それぞれ分量も多く、どの問題も一問25分で全ての設問に答えるのは難しい。試験時間を考えれば、各問題の3分の2くらいを解いていれば上出来、全体の半分くらいが正しく解けていれば、物理の得点に不足は無いだろう」

・河合塾
(大問3のⅢについて)「風船の半径r に対する圧力p(r)の関数のグラフの形状から考えるとよいが,かなり考えにくかっただろう」

 また、3予備校ともに、問題の分量は昨年比で「増加」、難易度は同「難化」となっており、各大問ごとの難易度も「難」「やや難」という評価が並んでいるが、複数の分野にまたがる複合問題もあり、大学入試指導のプロをもてこずらせるレベルのようで、たとえば東進ハイスクール物理科講師の三宅唯氏はTwitterで次のようにツイートしている。

<何だよ東大物理、心折れる…。解答速報を書く人のみになってくれ。こんなの解けないよ…。私は確実に満点は取れない>

<この急な難度と量の変化には違和感しかない。出題者は東大の入試をどう思っているのだろう。制限時間って何だろう>

問題の条件設定が複雑

 今年の東大物理はどれだけ難しかったのか。代々木ゼミナール物理科講師で長年にわたり「東大物理」「ハイレベル物理」などの講座を担当する為近和彦氏に聞いた。

 まず、今年の問題はやはり難しかったのか。

「例年の東大物理の問題は、ここ数年は難化傾向にあったものの良問が多いという印象です。東大を受験しようと考えて勉強してきた受験生の学力と思考力を的確に試すには適した問題が多く、きちんと物理を勉強して理解が深い受験生とそうではない受験生の間でうまく差がつくようにつくられていた。

 今年の入試問題は大問3のⅢのように難しい問題もあるが、全体的にはすごく難しいというよりは、解答の時間が足りない。問題の条件設定が複雑で時間がかかるため、75分で全問を解くのはとても無理なので、受験生を焦らせたでしょう。各設問別の配点は公表されないので、あくまで推察ですが、理三でも全体の半分が解ければ上等という印象です。

 たとえば大問2の図はワット天秤がモデルになっていると思われますが、解くためには電磁気・波動・力学の知識を使う必要があり、難問というよりは、内容の理解・把握にとても時間がかかります。また、大問3のⅢはどう答えたらよいのか迷う問題であり、大学側も採点が非常に大変ではないでしょうか。採点では公平性が重要なので、特に1~2点の差で合否が変わるといわれる理三もあるため、解答を選択肢形式にしてもよかったのではないかとも感じます」

 もし仮に今年の問題の傾向・難易度が来年以降も続くと仮定した場合、東大を受験予定の学生はどのような勉強・対策をすればよいのか。

「東大対策としてやるべき普通の勉強でかまわないと思います。一般的な高校生はワット天秤などは知らないわけですから、高校生にとっては特殊といえる内容について一つひとつ細かく勉強をしていては、他の分野のやるべき勉強をする時間がなくなってしまいます。ですので、実際の試験では見たことがない問題が出るということを覚悟しておき、びっくりしないという心構えが大切です。また、全問を解こうとはせず、まずは解ける問題だけをしっかりと解くようにするべきでしょう」

 では、東大が今回このような傾向の問題を出してきた意図は何なのだろうか。

「あくまで推察ですが、東大側は、より思考力がある学生、より地頭がよい学生を欲しいと考えたのかもしれません。ただ、そうであるならば、今回のようにより深く考える必要のある問題を出すのであれば、それ相応の解答時間を与えるべきではないでしょうか。複雑な問題を出題しても、それを解くのに十分な時間が与えられなければ、意味がなくなってしまいます」

(文=Business Journal編集部、協力=為近和彦/代々木ゼミナール物理科講師)

為近和彦/代々木ゼミナール物理科講師:取材協力

為近和彦/代々木ゼミナール物理科講師:取材協力

1958年生まれ。東京理科大学大学院理工学研究科物理学専攻修士課程修了。11年の高校教諭をへて、1996年より代々木ゼミナール講師となり、大学入試対策の講座を担当。著書に『解法と発想のルール』(学研)、『ビジュアルアプローチ力学』『ビジュアルアプローチ熱・統計力学』(森北出版)、『為近の物理ノート』(代々木ライブラリー)など多数。

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