現役の東京大学学生や東大出身者と身近に接したことがないという人は案外多いのではないか。自ら想起しても、数人程度ではないかと思う。これも職業柄、金融や教育関連と接点が多かったためであり、そうでなれければ皆無だったかもしれない。特に一般的な勤め人の場合、中央官庁や重厚長大系の大企業などに在籍していない限り、日常的に東大出身者と交わることは多くあるまい。
一方で10代の早い時期から、自らを含めて未来の東大生とともに学園生活を送る若者たちは存在する。国内有数の進学校の生徒たちだ。毎春、「サンデー毎日」(毎日新聞出版)で発表される東大合格者ランキングは数ベースのものが中心になっているが、率のほうに目を向けてみると、興味深い事実が浮かび上がってくる。
東大合格率で見た上位校の顔ぶれは文末のとおりであり、すべて合格者数でも例年上位を占めるブランド校ばかりだ。なかでも驚異的と表すほかないのは、略称「筑駒(つくこま)」で知られる筑波大附属駒場高校だろう。合格者数ではトップを定位置にしている開成高校、西の代表的な進学校である灘高校をも引き離して、卒業生の6割近くは東大に合格していることになる。附属を冠した私立校でも母体の大学への入学率は半分程度のところもあるから、ほとんど「東大附属校」と呼んでも過大評価とはいえまい。
共学・公立が台頭
毎年安定した比率で東大合格者を生み出す高校に進学することのメリットは大きいようだ。
「学年でどの程度の成績であれば、東大を目指せるかの目標設定が立てやすい。学内に競争相手が多数いるので、モチベーションも自然に高まる。麻の中の蓬のように、入学当初は中位クラスであっても、化けることも起こり得る」(学習塾関係者)
ただ頂点を形成する進学校であっても、近年は変化も生じている。関係者は「私立かつ男女別の学校(男子校・女子高)が圧倒的に有利という、以前の常識が薄らいだ」と指摘する。現在でも合格者数および率ともに、私立・男女別の学校が数多く上位にランクインしているが、一方で久留米大附設高校のように男女別学から共学に転じた高校を含め、男女共学校も健闘している。また日比谷高校に象徴されるように、旧ナンバースクールである首都圏公立校の台頭も目立つ。
ちなみに昨年と今年の合格率では、小石川中等教育(東京・公立)、横浜翠嵐高校(神奈川・公立)の両校が合格率を10%台に乗せている。来春も同程度の合格率を維持するのならば、いずれも全国レベルのトップクラス校の仲間入りを果たすことになる。
受験生、保護者ともに志望校選びに悩む時期が近づいて来た。その際に留意すべきなのは、特に保護者が囚われがちな過去の実績やイメージが今の姿に必ずしもトレースされていないことだろうか。さすがにトップクラス校にはないが、これに次ぐクラスの進学校には、財務に問題のあるところも散見される。
過去3年間の東大平均合格率(●は共学校)
【合格率30%以上】
筑波大附属駒場(東京・国立)57.8%
開成(東京・私立)43.8%
灘(兵庫・私立)40.8%
桜蔭(東京・私立)34.0%
聖光学院(神奈川・私立)33.8%
栄光学園(神奈川・私立)30.8%
【合格率20%以上30%未満】
駒場東邦(東京・私立)26.4%
麻布(東京・私立)23.0%
【合格率10%以上20%未満】
渋谷教育学園幕張(千葉・私立)20.1%●
西大和学園(奈良・私立)18.9%●
久留米大附設(福岡・私立)18.6%●
日比谷(東京・公立)17.6%●
海城(東京・私立)17.2%
渋谷教育学園渋谷(東京・私立)16.4%●
浅野(神奈川・私立)15.6%
筑波大附属(東京・国立)15.2%●
東大寺学園(奈良・私立)14.4%
武蔵(東京・私立)13.2%
女子学院(東京・私立)12.9%
※各校ホームページ及び「サンデー毎日」の合格者数から筆者作成。対象は過去3年間の東大合格率が10%以上の高校。なおラ・サール(鹿児島・私立)はオフィシャルサイトに進学データの記載がないため除外した。
(文=島野清志/評論家)