おひとりさま向けの個食が、ブームを超えて定着しつつある。この現象は約15年前に湧き起こり、「おひとりさま」は商標登録された。シティホテルは次々と女性のひとり客向けに食事やエステ、スパなどのパッケージ商品を開発して、女性誌の誌面を賑わせた。
この時期、“ひとり焼肉”で話題を呼んだのが、元気ファクトリー(大阪・中央区)が仕掛けた「どん2」で、カウンターの各席に七輪が置かれて、客はひとりで焼肉を楽しめるようになった。同社は「どん2」を多店舗化して、東京都内にも出店した。歌舞伎町店では夜の仕事を終えた女性たちが、ひとりで立ち寄る光景が連夜見られた。
おひとりさま対応のサービスは、その後廃れたわけではないが、一時のブームは鎮静化した。この約15年前を第一次おひとりさまブームとすれば、今は第二次ブームといえるだろう。第一次ブームは働く女性が主なターゲットだったが、今は男女の各年齢層に広がっている。
ひとり対象の個食が各年齢層に広がったのは、大手コンビニチェーン・セブン-イレブンが開発した惣菜のプライベートブランド(PB)商品のヒットがきっかけだ。当初は単身高齢者を視野に開発されたが、その利便性から各年齢層に市場が広がり、セブンに新規大量出店を促す原動力にもなった。
個食需要を見込んで追随する動きも活発だ。例えば日本ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)は鶏の唐揚げ持ち帰り専門「鶏から亭」(東京・目黒区)を10月にオープン。吉野家ホールディングス(HD)傘下の牛丼チェーン吉野家も、9月にひとり鍋専門店「いちなべ家」(同・千代田区)をオープンした。
実際に「いちなべ家」の店舗を訪問してみると、入り口の右側には壁に向かって設けられたカウンターに12席がセットされ、左側はキッチンに向かったL字型のカウンターに11席。鍋メニューは「豚しゃぶ鍋」「牛すき鍋」「ちゃんこ鍋」「キムチチゲ」「きのこと鶏団子鍋」「豆乳鍋」「坦々餃子鍋」の7種類。料金は780~830円で、ランチタイムにはご飯(50円)が無料になる。
男性従業員によると「よく出るのは、豚しゃぶ鍋、牛すき鍋、ちゃんこ鍋です」という。そこで、ちゃんこ鍋を食べてみたが、程よい塩加減で具材のバリエーションもあり、780円にしてはお得な商品だ。また、従業員から特に説明はなかったが、レジ前に置かれた小冊子によると、好みに合わせて肉を牛、豚、鶏から選んでカスタマイズできるのだという。
「いちなべ家」は向こう3年間で10店舗を出店すると報じられているが、話を聞いた従業員によれば、「今後の出店計画はこの1号店の業績次第で、どうなるかわからない。オープンしたばかりなので、業績を見通せる状態ではない」とのことだ。
●参入する企業の狙い
おひとりさまサービスは、カラオケ店にも続々と登場した。コシダカ(群馬県前橋市)は「自分だけのステージ」と訴求して、ひとりカラオケ専門店「ワンカラ」を都内に6店舗展開している。セキュリティにも配慮して一部店舗を除いて女性専用ゾーンを設け、室内にはパウダースペースやオートロックが施されている。ちなみにこの女性専用ゾーンの開設は、カラオケ各社が実施している。
利用動機はさまざまで、リフレッシュだけとは限らない。都内の市民合唱グループに所属する30代女性は、月に数回、仕事帰りにひとりでカラオケに立ち寄って歌の練習をしているという。
「自宅だと近所が気になるが、カラオケルームなら何も気にしないで、思い切って発声できる。メンバーには私と同じように、ひとりカラオケで練習している人が何人かいるし、女性専用ゾーンなら安心できる」
おひとりさま向けビジネスの背景には、未婚者と高齢単身世帯の増加があるといわれている。
例えば国勢調査によると、65歳以上の単身世帯は約479万1000世帯で、高齢者人口の約16%となった。また、2013年版「少子化社会対策白書」によると、20~39歳の未婚率は男女ともに上昇し続けている。生涯未婚率は30年前に比べて、男性は2.60%から約10倍の20.14%に、女性は4.45%から10.61%と2倍強に上昇した。
だが、流通コンサルタントによれば、企業のおひとりさま向けビジネス参入の動機は、もっと近視眼的だという。
「ひとり対応の店の客は、未婚者や高齢単身者が多いとは限らない。要は、ひとり需要を掘り起こして客数の増加を狙って、サービス開発を競っているのだ。ただ、ひとりゆえに単価は低いが、オペレーションの手間はほとんど変わらないので、大量に提供できる商品やサービスでないと割に合わない」
つまり、ひとり対応は体力に恵まれた大手チェーン向けのビジネスといえるのかもしれない。
今後おひとりさま向けビジネスはどのように広がり、そして進化していくのか? 新たな業態の出現も含め、気になるところである。
(文=編集部)