コロナ禍が終わり、都内を歩いていると外国人観光客の姿が増えてきた。「観光立国」を掲げている日本の外国人観光客誘致は、コロナによる中断を経て、今後再び活発になっていくのだろう。そんな中で注目を集めているのが「食」の分野である。「ガストロノミーツーリズム」や「フーディー」という言葉をご存じだろうか。
美食のためにお金を惜しまないフーディーたちが日本に熱視線
「フーディー」とは一般的には「食通」「グルメ」と解説されるが、これだけでは彼らの食への熱意が伝わらない。彼らは旺盛な食への関心が高じて、世界中を股にかけて食べ歩く。海外旅行の楽しみの一つとして旅先で食べ歩きをするのではなく、食べ歩きのために海外旅行をする人々である。
当然、彼らの多くは富裕層であり、おいしいもののためには金を惜しまない。中にはプライベートジェットで世界中を回る人も。そんなフーディーたちが熱い視線を送っているのが日本なのだ。
人里離れた山の中にある知る人ぞ知る名店や、何年も予約が取れない超人気店など、日本の食資源は奥深い。インターネットやSNSの発展によって、これまでには伝わらなかった魅力的なお店やおいしい食べ物の情報が世界中に伝わるようになった。フーディーたちの日本への関心の背景にはこんな事情がある。
観光資源としての「食」に注目した『「フーディー」が日本を再生する! ニッポン美食立国論 ――時代はガストロノミーツーリズム――』(柏原光太郎著、日刊現代刊)はこんな例を取り上げている。福岡県北九州市の「照寿司」は、かつては飲み放題つきで一人5000円ほどのリーズナブルな寿司店だった。しかし2013年に父親の跡を継いで主となった渡邉貴義さんは、お店を高級志向にモデルチェンジ。扱う魚の質を上げ、極上の寿司を提供するようになった。
職人として技術を磨くこと、そして九州中から一流の食材を発掘する努力はもちろん、渡邉さんはSNSも活用した。Instagramへの投稿で、蝶ネクタイ姿でにらみをきかせる姿が話題となり、今、照寿司は一人3万円以上のコースを目当てに海外からひっきりなしに客が訪れる超人気店になっている。
お店のある北九州市戸畑区は、観光名所らしいものはほとんどない。こういった土地に外国人観光客が続々と訪れるなど、これまではなかったことだ。彼らはみな「照寿司」のためだけにこの土地を訪れたフーディーたちなのである。
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日本政府も外国人誘致のために「ガストロノミーツーリズム(食を中心としたツーリズム)」に注目している。おいしいもの、秘められた名店のためには惜しみなくお金を使うフーディーたちをいかに惹きつけるかがガストロノミーツーリズムの一つのポイント。この点で、日本は世界の中でもかなり有利な立場にいると言っていい。
本書では、食を軸にしつつさまざまな分野に展開するツーリズムの取り組みが紹介され、この分野での日本の大きな可能性が示されている。衰退しているとされる日本だが、秘められたポテンシャルもまだまだあることがわかるとともに、世界で戦うヒントやビジネスの差別化に必要なことが学べる一冊でもある。(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。