さすがに危機感を感じたのか、笹宏行社長は「前期も販売台数にこだわらない事業方針を打ち出したが、売上拡大を念頭に置いた事業展開が避けられなかった。今期こそ考え方を180度転換し、収益最優先の事業展開を図る」と同日の記者発表の席上で明言。低価格機の開発中止、デジカメ事業部門の人員3割削減など競合他社より厳しいリストラ策を提示し、デジカメ事業建て直しに不退転の決意を示した。
ところが、今年の11月8日に発表した14年3月期連結中間決算(13年4-9月期)でもデジカメ事業の営業損益は27億円の赤字。通期見通しも50億円の赤字へと下方修正する結果となり、株式市場では「下方修正した販売計画も未達は必至」(大手証券関係者)との見方が広がると共に、11年の多額粉飾決算発覚に絡む賠償請求の引当金170億円を特別損失に計上したことへの嫌気が加わり、投資家の「見限り売り」が続出、発表日週明けの11日は一時、6%強安まで株価が下落した。
デジカメ事業が営業赤字に陥って以来、同社は期初に赤字脱却を掲げては円高、競争激化など外部要因を理由に赤字を繰り返してきた。その累積営業赤字額はこの3期で489億円に達しているが、なぜ同社はデジカメ事業の悪化に歯止めをかけられないのか?
今回、関係者への取材を進めると「オリンパスの持病のような粉飾癖が根底にある。事業撤退は、もう時間の問題」との声すら聞こえてきた。
高コスト体質
高機能カメラ搭載のスマートフォン(スマホ)普及の影響で、デジカメ市場全体が縮小に向かっているのは周知の事実。ちなみに、カメラ映像機器工業会の出荷統計を見ても、12年の総出荷量は前年比15%減の9814万台と大きく減少している。カメラ業界担当の証券アナリストは、「この経営環境悪化を差し引いても、3期連続の営業赤字はオリンパスだけ。他社と比べても深刻」と指摘している。
このオリンパス苦境の第一要因が、同社の高コスト体質だといわれている。
例えば、同社のデジカメ事業売上高を業界双璧のキヤノンやニコンと比較すると(12年10-12月期ベース)、ほぼ10分の1しかない。キヤノン2792億円、ニコン2073億円に対してオリンパスは276億円と見劣りする。それにもかかわらず、デジカメ事業に従事するオリンパスの国内人員は約1000人で、売上高が同社の7倍以上もあるニコンの約1200人に匹敵する人員数だ。前出アナリストは「どう考えても多すぎる。生産効率はどうなっているのか」と疑問を投げかける。また前出の業界関係者は「オリンパスの生産性はキヤノンやニコンの3分の1程度」と推測している。
新需給予測システムがあだに
そして第二の要因は、在庫管理のずさんさといわれている。
前出アナリストによると、同社デジカメの在庫回転日数(在庫が1回転する日数)は、12年6月以降2.8-3.1カ月。業界の適正水準といわれる1.5カ月の倍近い長さだ。これは、キヤノンやニコンの半分程度の収益性しかないことを示している。
同社が適正な在庫管理ができない原因についてオリンパス関係者は「11年に新しく導入した需給予測システムの運用にある」と打ち明ける。この需給予測システムは、足掛け2年もの導入期間と約10億円を投入した在庫圧縮システムであり、営業現場の声が直ちに製造現場に反映され、在庫が半減されるはずだった。操作端末が国内外のデジカメ営業拠点とデジカメ事業子会社であるオリンパスイメージング社(イメージング社)の管理部門に設置された。
ところが、システムが本稼働すると、在庫は減少するどころか逆に膨れ上がっていった。各拠点の営業マネージャーが端末を通じてイメージング社に上げてきた販売計画を同社管理部門担当者が集計し、その結果を生産計画として工場に発注する仕組みになっていたからだ。前出のオリンパス関係者は「ノルマと願望がない交ぜになった営業現場の販売計画を足し算して生産量を決めているのだから、在庫が膨張し続けるのは当然。それをおかしいと思う雰囲気すら社内には希薄」と溜息をついている。
その上、イメージング社の経営企画部門は、営業拠点のそうした販売計画の粉飾を精査するどころか、逆に「努力が足りない。前年より売りまくれと尻を叩いていた」(同)という。
株式市場では「デジカメ事業の不振は、もう挽回不能の地点まで来てしまっている。売却余地がある今期中に事業撤退するのが上策」(大手証券関係者)との声も聞かれる。
11年の多額粉飾決算発覚で、一時は存続すら危ぶまれたオリンパス。あれから2年が経過した今、同社は新たな試練を迎えているといえよう。
(文=福井晋/フリーライター)