旭化成ホームズの戸建注文住宅「ヘーベルハウス」について、あるネットユーザーが「価格が高くても長期的に見るとコスパがいい」などと書き込んだことが話題になった。地震や火事、洪水などの災害に別格で強いといわれることから、ネット上では「ヘーベルハウス最強説」も流布されている。こうしたヘーベルハウスのコスパ面の評価や「最強説」の真偽について、専門家の見解を聞いた。
話題となったのは、7月2日にTwitterであるユーザーが書き込んだツイート。「実家が旭化成のヘーベルハウスで、築40年の点検に来てほぼ問題なしだった。建築時の図面なども完璧に保存され、担当者の名前もしっかりあった」とのことで、ユーザーの父親が「40年もよく来ますねえ」と言ったところ、担当者は当たり前のように「お約束ですから」と答えていたという。また、修繕などで担当者から紹介される業者についても「少し高いけどしっかりした丁寧なところばかり」だとし、ユーザーは「大企業はこういうところがすごい」「コスパ厨はこういうところ見てないと思う」と述べている。
これに対して、ネット上では「定期的に修繕費はかかるけどずっと面倒見てくれて管理してくれて、過去の記録も全部取っておいてくれるからへーベルハウスは安心」「うちもへーベルで建てて約30年だけど大きな問題はないし、今でも同じ担当者が点検に来てくれる」「40年も定期点検してくれるとか、こういう無形のサービスにお金かけるの大事」などと賛同の声が集まった。
また、2015年の記録的豪雨で鬼怒川の堤防が決壊した際、茨城県常総市で多くの家が濁流に飲み込まれていく中で2階建ての白い家が周囲で唯一残って住人が救助される映像がテレビで流れ、この家がへーベルハウスだったことが分かって「耐久性がすごすぎる」と話題になったが、それを思い起こした人も多いようだ。この白い家は濁流にびくともしなかったばかりか、屋根に住人や飼い犬が乗ったまま流されてきた2軒の家を食い止め、救助に一役買った。
へーベルハウスは、名称の由来にもなっている軽量気泡コンクリートパネル「ヘーベル」を建材として使用。軽量性と高強度を両立した建材で、耐火性、耐久性、断熱性、調湿力などに優れ、国内外で超高層ビルや公共施設などに使われており、日本では東京都庁、東京ミッドタウン、唐招堤寺の新宝蔵殿などに使用されている。一方、へーベルハウスは「高価格」というイメージが強く、ネット上では「ヘーベルハウスがいいのは分かるけど手が出ない」「高いからコスパ的にはどうなんだろう」といった声も散見される。
旭化成ホームズが公開している資料によると、2022年度の建築請負部門の戸建系の受注高は2247億円で受注戸数は5207戸となっており、1戸あたりの平均単価は約4315万円。2023年度予想は受注高2447億円、受注戸数5630戸と堅調だが、1戸あたりの平均単価は約4346万円と微増。この価格を見ると、やはり「高い」という印象がある。
長期的視点なら、大手のほうがコスパ的に割安
実際のところ、へーベルハウスは本当に「高い」のだろうか。住宅ジャーナリストの山下和之氏に見解を聞いた。
「大手住宅メーカーの注文住宅の1棟単価は、2020年度あたりまでは4000万円前後だったのが、21年度に4000万円台前半、22年度には4000万円台半ばから後半に入るケースがあるなど、このところ急激に上昇しています。たとえば、大手の積水ハウスは22年度の1棟あたりの平均単価が4619万円ですから、旭化成ホームズのヘーベルハウスが他の大手と比べて極端に高いわけではありません。ただ、タマホームが2023年5月期決算で1棟あたりの平均単価が約2092万円となっていたり、中堅の住宅メーカーなら大手の半額以下の2000万円前後で建ちますし、中小工務店なら1000万円台から可能ですから、へーベルハウスに限らず大手の注文住宅は高額化が進んでいるといえます」(山下氏)
大手メーカーの注文住宅が高額化している理由について、山下氏はこのように解説する。
「大きな理由としては、建築資材や人件費の高騰が価格を押し上げています。また、大手は基本性能を高めて中堅以下との差別化を図る方向に舵を切っており、断熱性能向上によるZEH(Net Zero Energy House)化、制震装置を組み込むことによる耐震性強化、200年住宅といわれる長期優良住宅を標準仕様にするといった動きが進んでいます。ほかにも、技術開発のコストがかさむなどの理由があるのですが、それでも顧客には大手志向が根強くあり、特に管理職クラスはプライドや安心感の観点から大手で建てたほうが満足度が向上する傾向があります」(同)
消費者にとって最も気になる、長期的な視点で見た時の「コスパ」はどうなのか。
「中堅以下のメーカーで注文住宅を2000万円で建てたとして、仮に50年持ったとすると1年あたりのコストは40万円ですが、子どもや孫の代で建て替えが必要になるでしょう。一方、大手で建てると100年以上の耐久性が期待できます。4000万円で建てて仮に100年持つとしたら1年あたりのコストは同じ40万円ですが、こちらは子どもや孫の代になっても設備の取り換え程度で住み続けることができる。100年、200年という長期的視点なら、大手のほうがコスパ的に割安という考え方ができます。国土交通省の発表では、日本の住宅の平均寿命は33年というデータがあり、それに対してアメリカは55年、イギリスは77年ともいわれています。日本では親が家を建てても子の代まで使えないことが多々あり、住宅費に追われる生活になりがちなため、この住宅費負担の差が日本と欧米の生活の豊かさの差につながっている面があります。ヘーベルハウスは、その状況を改善したいということで創業当初から『ロングライフ住宅』を標榜し、化学メーカーである旭化成の知見を活かして上質で長持ちする住宅を目指してきた経緯があります。二世帯住宅の先駆者になって何世代にもわたって使える住宅の普及を推進し、これまでに建てられた約29万棟のヘーベルハウス・ヘーベルメゾンの現存率が9割を超えるなど、現在は『長く使える住宅』という評価が定着しています」(同)
へーベルハウスは災害にとりわけ強いという「最強伝説」がネット上で流布されているが、山下氏はその真偽についてはこう語る。
「阪神淡路大震災の発生後、木造密集地帯が焼け野原になっている中、ヘーベルハウスの家だけが倒壊することなく、火災が起きても焼け残りました。もちろん建物の内部は燃えてしまったのですが、骨格はしっかり残り、地震の揺れにも火災にも強いことが実証されました。この家の住人が助かっただけでなく、ヘーベルハウスが壁になって隣家に延焼する時間を遅らせ、そちらに住んでいる人たちも火に巻き込まれずに済んだ。また、鬼怒川氾濫による水害時にヘーベルハウスが残り、流されてきた木造一戸建てを食い止め、そのおかげで逃げ遅れた人たちが助かったことも有名です。表立っては言っていませんが、旭化成ホームズの社員たちは『ヘーベルハウスは災害時に街の防波堤になる』と自負している。同社に取材に行くと、災害時のそうした事例を教えてくれるのですが、不幸な出来事を宣伝材料にはできないとしてPRには使ってこなかった。そのため、へーベルハウスの頑強さを実感したネットユーザーたちによって非公式の『伝説』として流布される形になったのかもしれません」(同)
大手メーカーの注文住宅は急激な価格上昇が続いているため、一般庶民にとってはなかなか手を出しにくいという現実はある。だが、100年以上の単位で子どもや孫の代まで安心して使うことができて、アフターフォローもしっかりしており、さらに命を守るために大事な「災害に強い」という特徴があるとなると、価格のハードルを越えることができればへーベルハウスは総合的に「コスパがいい」といえるかもしれない。
(文=佐藤勇馬、協力=山下和之/住宅ジャーナリスト)