焼き鳥店チェーン「鳥貴族」が実はハンバーガーチェーン「TORIKI BURGER(トリキバーガー)」を展開していることは、あまり知られていない。現在はまだ2店舗のみの営業だが、焼き鳥をメインに据える鳥貴族が手掛けるハンバーガーとは、いったいどのようなメニューなのか。また、今後店舗数が増えメジャーなハンバーガーチェーンとしての地位を確立することはできるのか。実際に店舗を訪問した際のレポートも交え、専門家に検証してもらった。
大倉忠司氏が1985年に創業した鳥貴族は、現在約600店舗を全国に展開。その特徴として有名なのは全品同一価格という点。1989年から280円均一を維持していたが、2017年に298円へ値上げを実施。実に28年ぶりの価格改定が話題となり、同年には店舗数が600店を超えたものの、18年頃から徐々に客数が減少し、19年7月期決算で上場来初の赤字(純損益)に陥った。その後も値上げが行われ昨年4月からは350円均一に、今年5月からは360円均一となっている。
値上げの背景には、飲食・食品業界を苦しめる昨今の原材料価格とエネルギーコストの高騰がある。実際に鳥貴族も苦しい経営を強いられており、運営会社の鳥貴族ホールディングス(HD)の19年~21年7月期の最終損益は3期連続の赤字となり、22年7月期は黒字に転換したものの、営業損益ベースでは依然として赤字が続いている。
価格ばかりが注目される鳥貴族だが、品質へのこだわりは強い。使用される鶏肉や野菜は国産品で、タレは本社工場で丸どりや野菜、果物をブレンドして一日かけて煮込み手づくりされている。
<鶏は、おおよそ50日前後飼育された「若鶏(プロイラー)」を使用しています。健康な若鶏を育てるために、良質な水(水質検査を実施)と、トウモロコシ・大豆を多く含んだ配合飼料を給餌して病気を予防し、安心安全の若鶏を調達しています>(同社HPより)
<鳥貴族では約30道府県の養鶏場産地と約40の鶏肉生産工場より鶏肉の供給を行い、安定供給を頂いています。お取引のある鶏肉生産工場より、産地証明書と細菌検査を定期的に実施して頂くことで鶏肉の品質確認を行っています。また、年間を通じて鶏肉生産工場の定期的な衛生検査を行い、鳥貴族で定めている50項目の品質チェックをします>(同)
マクドナルドは「チキンクリスプ」を、モスバーガーは「チキンバーガー」を提供
そんな鳥貴族HDが実はハンバーガーチェーン「TORIKI BURGER」を展開していることは、意外にもあまり知られていない。パティは鶏肉で、ハンバーガーは400円の「トリキバーガー」「チキンカツ」「つくねチーズバーガー」「サラダチキン 〜バジル〜」「サラダチキン 〜柚子胡椒マヨ〜」「やわらかチキンドッグ ~塩~」「やわらかチキンドッグ ~たれ~」、300円の「とりコロッケバーガー」がラインナップ。現在は期間限定で「ヤンニョムチキンカツ」も販売されている。また、ハンバーガー類にプラス350円で「国産ポテト(S)」とドリンク類(M)を付けられる「トリキセット」のほか、200円のサイドメニューとして「トリキプリン」や「クリスピーチキン」なども用意。すべての素材が国産であることがウリだ。
店舗は現時点では東京の大井町店、渋谷井の頭通り店の2店舗のみだが、ネット上では、
「席はほぼ満席」
「トマト、玉子、チーズを任意にトッピングできるのが個人的に嬉しい」
「チキンカツバーガーはモスのチキンバーガーと違いソース味でなかなか良かったです」
などと高評価の口コミも目立つ。外食業界関係者はいう。
「1号店がオープンしたのが2021年で、2年でわずか2店舗しか展開しておらず、HPを見ても力を入れているという印象は受けない。鳥貴族ほどの資本力を持つチェーンであれば、新業態店の展開としてもっと大々的な取り組みをみせてもおかしくはないが、どこを目指しているのかイマイチつかめない。鳥貴族はコロナが始まる前から客数減という変調に見舞われ、そのなかでハンバーガー事業という新業態への参入の準備を進めてきたものの、タイミング的にオープンがコロナの真っただ中となってしまい、鳥貴族の苦境も重なり、まずは鳥貴族の立て直しを優先してハンバーガー事業のほうは様子見というステータスになっているのかもしれない。
鳥貴族としては、牛肉や豚肉に比べてヘルシーというイメージが強いチキンのバーガーを訴求ポイントに据えたい考えだろうが、すでにマクドナルドは『チキンクリスプ』を180円で、モスバーガーは『チキンバーガー』を360円で提供しており、TORIKI BURGERのハンバーガー単品価格が400円というのは、かなり厳しい。店舗数やメニューのバラエティーの豊富さで圧倒的に上回る既存の大手ハンバーガーチェーンがひしめく市場に割り込んでいくのは、至難の業だろう」
果たしてTORIKI BURGERの今後はいかに。実際に店舗を訪問したフードアナリストの重盛高雄氏に解説してもらう。
メインとなるバーガー類に課題
「渋谷井の頭通り店」を訪問した。まずバーガー類を選びドリンクなどを追加するスタイルで、今回はトリキバーガーに国産ポテトSとドリンクMがつくトリキセット(計750円)を注文した。ドリンクは「おかわり無料」に魅かれてコーヒーを注文。新しく淹れてを提供してくれると言われ、出来上がるまでの飲料としてカップ入りの水を提供してくれた。このあたりの気配りはうれしい。店内は満席ではなく、他に5組の客がいた。各席にコンセントが設置され、後発店ゆえの設備の充実さを感じた。
淹れたてのコーヒーは、他のファストフード店と比べて酸味と苦みのバランスがよく、本格度合いは半端ない。特に国産ポテトとのマッチングは秀逸と感じた。某ハンバーガーチェーンのような塩まみれではなく、細切りだが素材の味わいを感じさせてくれる。控えめな塩味とポテトのほっこりした口触りが、ポテトフライの味わいを想起させてくれる。
課題はメインとなるバーガーだ。胸肉のチキンフィレは味が平坦で、レタスも芯の部分が多くサクサク感はない。サイドメニューの持つ個性に比べて、メインとなるバーガーにTORIKI BURGERならではという個性やこだわりを感じることはできなかった。店舗自体は路面店のため、歩道から店舗内が見渡せる設計。明るさも適度にあり、男性客も女性客も利用しやすい店舗といえる。
別の日に大井町店を訪問。1階がレジカウンター、2階が飲食スペースとなっている。1階にも数席あるが、テイクアウト客用と推測される。1階で注文した後の2階への移動は、狭い階段かエレベーターを利用。17時過ぎの訪問であったが、2階は学生や社会人などで席の3分の1ほど埋まっていた。ここではチキンカツバーガーのトリキセットを注文した。チキンカツはほのかに温かいが、冷めたバンズに挟まった状態で提供され、国産ポテトも温かくはない。時間帯によるのかもしれないが、やはりポテトは揚げたてとまではいかなくても温かいほうが好まれるだろう。
他のバーガーチェーンに比べて原価率は高く設定されていると想定され、商品のポテンシャルは高い。ただし、食べ応えや満足度は提供される時点の商品の温度に左右される面もあり、「また来よう」と考える客がどれだけいるのかといわれれば疑問だ。現在の鳥貴族グループの業績低迷の根本的原因が、ここにも現れていると感じた。
鳥貴族ホールディングスは23年7月期第2四半期決算説明会の資料において、TORIKI BURGERの今後の方針について次のように記述しており、現状に課題があるとの認識であることがうかがえる。
・チキンバーガー業態を確立・展開していく中長期的な方針に変更は無し
・既存モデルでの新規出店は保留、ビジネスモデル・ブランドの見直しに着手
・3号店は見直し後モデルでの出店を目指す
今後、消費者目線でTORIKI BURGERの運営方針・体制を再構築して、価値を創出してくれることに期待したい。
(文=Business Journal編集部、協力=重盛高雄/フードアナリスト)