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湯之上隆「電機・半導体業界こぼれ話」

TSMCショック、突然の減収減益を分析、衝撃の事実判明…ウエハ出荷100万枚減

文=湯之上隆/微細加工研究所所長
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TSMCのHPより

2023年Q2のTSMCの決算発表

 2023年7月20日に行われた台湾積体電路製造(TSMC)の2023年第2四半期(Q2)の決算発表が、半導体業界に衝撃を与えた。TSMCは四半期として2019年Q1以来、4年ぶりに減収減益となったからだ(図1)。

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 その決算発表を詳しく見てみると、2023年Q2の売上高は、前年同期の181.6億ドルから13.7%低下し、前期2023年Q1の167.2億ドルからも6.2%低下して、156.8億ドルに落ち込んだ。また、営業利益率も前年同期の49.1%から7.1ポイント低下し、前期の45.5%より3.5ポイント低下して42.0%に減少した。

「営業利益率が42%もあるのに業績悪化というのか?」という疑問が聞こえてきそうだ。というのは、同じ時期にプロセッサメーカーの米インテルやメモリメーカーの韓国サムスン、SKハイニックスなどが軒並み大赤字に転落しているからだ。

 一方、TSMCは4年前から売上高が右肩上がりに成長していた。そして、営業利益率は常に50%前後を叩き出していた。要するに、ここ4年間のTSMCの業績があまりにも凄すぎたため、今回の減収減益が際立って悪化しているように見えるのだ。

 本稿では、今回のTSMCの業績について、どこがどれだけ悪化したのかを詳細に分析してみることにする。その結果から、TSMCの業績悪化は2023年Q2に留まらず、Q3~Q4まで長引く可能性があることを導く。つまり、TSMCの業績回復は、来年2024年以降になると推測する。

激減したウエハ出荷枚数

 図2にTSMCの四半期ごとのウエハ(半導体製品の基板)出荷枚数を示す。グラフの単位は、12インチ換算のウエハ枚数でK(1,000枚)である。

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 TSMCのウエハ出荷枚数は、概ね右肩上がりに増大しているが、2000年のITバブル後、2008年のリーマン・ショック後、2018年のメモリバブル崩壊後に大きく低下していることがわかる。しかしそれらと比較しても、2021~22年のコロナ特需後の低下は、今までのなかで最もひどい。実際に、2022年Q3に397.4万枚だったウエハ出荷枚数は、2023年Q2に105.8万枚少ない291.6万枚まで落ち込んでいる。ざっくりいうと、ウエハ出荷枚数が約100万枚減って、4分の3になってしまったのである。約100万枚もウエハ出荷が減って、どうして営業利益率が42%になるのか不思議に思うほどである。次にTSMCの売上高を見てみよう。

テクノロジーノード別の売上高

 図3に、テクノロジーノード(技術世代)別の四半期ごとの売上高を示す。TSMCは2019年Q3に7nm+のロジック半導体の孔パタンなどに、世界で初めて最先端露光装置EUVを量産適用した。その頃のTSMCの四半期の売上高は100億ドル強だった。翌2020年Q3には、孔だけでなく配線パタンにもEUVを合計14層適用した5nmの量産が始まった。すると、TSMCの四半期の売上高は急激に増大していき、2022年Q3には202億ドルを記録した。これは、3年前の2019年の約2倍の売上高である。つまり、TSMCの売上高は7nmおよび5nmの最先端半導体が牽引して、右肩上がりに増大したといえる。

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 ところが、2022年Q4以降、TSMCの売上高が急激に減少している。しかし、このグラフでは、どのテクノロジーノードの売上高が大きく減少しているかわからない。そこで、2022年Q4と2023年Q2について、テクノロジーノードごとの売上高を比較してみた。

テクノロジーノード別の売上高比較

 図4に2022年Q4と2023年Q2におけるテクノロジーノード別の売上高の比較を示す。TSMCは、0.18μmと10nmは製造しなくなったので、この2つのノードの売上高は図から削除した。

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 改めて図4を見てみると、ほとんどのテクノロジーノードの売上高が、2022年Q4から2023年Q2にかけて減少していることがわかる。正確にいうと、この期間に売上高が増えたのは65nmだけであり、それ以外のすべての半導体の売上高が減少している。その減少率は、最もレガシーな0.25μm以上が▲19.7%、0.15μmが▲21.7%、0.11/0.13μmが▲48.2%、90nmが▲22.2%、65nmだけはプラス10.4%、40/45nmが▲21.2%、28nmが▲21.5%、16/20nmが▲21.4%、7nmが▲17.7%、最先端の5nmが▲26.3%と惨憺たるありさまだ。

 このなかでも先端の7nmと5nmは売上高の規模が大きいだけに、全体の減少に占めるインパクトも大きい。この期間に、7nmは7.7億ドル、5nmに至っては16.8億ドルも減少している。つまり、TSMCは7nmと5nmの先端半導体の合計で24.5億ドルも減少した。この金額は、全体の減少42.6億ドルの58%を占めている。要するに、TSMCは2019年Q3以降、7nmと5nmの先端半導体で急成長したが、2022年Q4以降は特に先端半導体の業績不振で失速したといえるだろう。

 次に、何用の半導体がどれだけ増減したのかを見てみよう。

プラットフォーム別の売上高

 図5に、プラットフォーム別の四半期ごとの売上高の推移を示す。2018~2019年以降、上下動はあるが、Smartphone(スマホ)用とHigh Performance Computing(HPC、高性能コンピュータ)用の半導体が急拡大していることがわかる。これら、スマホ用と高性能コンピュータ用が、TSMCのファウンドリビジネスの2本柱といえる。

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 ところが、高性能コンピュータ用は2022年Q3に82.9億ドルでピークアウトし、2023年Q2に31.2億ドル少ない51.7億ドルまで減少した。また、スマホ用も2022年Q4に83.7億ドルでピークアウトして、2023年Q2に14.7億ドル少ない69億ドルに減少してしまった。結局、図5からわかることは、TSMCのファウンドリのビジネスで今も成長し続けているのは、車載半導体(Automotive)しかないということである。車載半導体は、コロナ禍の2020年Q3に2.4億ドルに落ち込んだが、その後すぐに回復し、成長が続いている。そして2023年Q2には過去最大の12.5億ドルを記録した。

 しかし、車載半導体の成長だけでは、スマホ用や高性能コンピュータ用の巨大な落ち込みを補うことはできず、TSMC全体としては2022年Q4以降、減収が続くことになった。となると、スマホ用や高性能コンピュータ用が回復しない限り、TSMCの業績は向上しないだろう。最後に、TSMCの地域別の売上高を見てみよう。

地域別の売上高

 図6に、地域別の四半期毎の売上高の推移を示す。2019年以降、米国向けの売上高が急拡大していることがわかる。しかし、その米国向けは、2022年Q3に146億ドルでピークアウトし、2023年Q2に103億ドルに低下した。米国向け以外では、2019年Q3に中国向けが27億ドルあった。ところが、米国の圧力を受け、2019年9月14日以降、米アップルに次ぐ規模のカスタマーだった中国ファーウェイへの半導体の出荷が停止されることになった。その後、中国向けは20億ドル前後に低迷している。

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 さらに、中国を除くアジア、欧州、日本向けは、どこも10億ドル程度しかない。したがって、米国向けの減少を、他国・他地域向けで補うことができていない。ということは、米国向けが上向かない限り、TSMCの業績は回復しないということになる。

TSMCの業績の総括と今後の展望

 TSMCの2023年Q2までの業績を分析した。その結果、四半期のウエハ出荷枚数が、2022年Q3から2023年Q2にかけて約100万枚も減少していることがわかった。これにより、TSMCのウエハ出荷枚数は4分の3に激減した。次に売上高を見てみると、米国向けが大きく減少しており、その中身はスマホ用と高性能コンピュータ用で、特に7nmと5nmの最先端半導体の落ち込みが大きかった。

 では、TSMCの業績は、いつ回復するのだろうか。四半期のウエハ出荷枚数も、売上高も、まだ底を打っていない。そして、決算発表では、C.C.Wei CEOが、「2023年通期では10%の減益になる」と述べたという。ということは、2023年Q3とQ4も回復に期待が持てない。本格的な回復は、来年2024年に入ってからになるだろう。では、TSMCの業績を向上させるためのテクノロジードライバーは何になるのか。

ChatGPTなどの生成AIが爆発的に普及

 昨年2022年11月、オープンAIがChatGPTを公開し、対話型の生成AIが爆発的に普及し始めた。これら生成AIはクラウドのAIサーバー上で動作する。そのサーバーには、米エヌビディアのGPUや米AMDのCPUなどが多数必要になる。そのエヌビディアが2023年5月末に、GPUをTSMCに大量発注したと台湾メディアが報じた。しかし、これはすぐにはTSMCの業績向上にはつながらない。というのは、エヌビディアの発注を受けて、ウエハを工場に投入してから、前工程と後工程を経てGPUがつくられるには4~5カ月程度かかる。加えて、エヌビディアのGPUには、CoWoS(Chip-On-Wafer-On-Substrate)という3次元パッケージが使われるが、その生産能力がボトルネックになっているからだ。

 そのため、TSMCは慌てて2023年6月8日に、後工程の新工場「Advanced Backend Fab 6」を開設した(EE Times Japan、『TSMC、3D実装対応の先進後工程工場を開設』、2023年6月9日)。この新工場は、12インチウエハ換算で年間100万枚以上の後工程の処理能力があるという。

 TSMCの後工程の新工場がフル稼働して、3次元パッケージCoWoSを使ったTSMCのGPUが大量に市場に出るのは2024年になると思われる。そして、これらを起爆剤として、TSMCの業績が急回復していくと予測している。

(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)

お知らせ

8月21日(月)にサイエンス&テクノロジー主催で『ChatGPT(AI半導体)が巻き起こす半導体のビッグウエーブへの羅針盤』と題するセミナーを行います。

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詳細はこちらをご参照ください→https://www.science-t.com/seminar/A230821.html

湯之上隆/微細加工研究所所長

湯之上隆/微細加工研究所所長

1961年生まれ。静岡県出身。1987年に京大原子核工学修士課程を卒業後、日立製作所、エルピーダメモリ、半導体先端テクノロジーズにて16年半、半導体の微細加工技術開発に従事。日立を退職後、長岡技術科学大学客員教授を兼任しながら同志社大学の専任フェローとして、日本半導体産業が凋落した原因について研究した。現在は、微細加工研究所の所長として、コンサルタントおよび新聞・雑誌記事の執筆を行っている。工学博士。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『電機半導体大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北』(文春新書)。


・公式HPは 微細加工研究所

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