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三菱UFJ銀行「年10%」外貨定期優遇プランの罠…為替変動ゼロでも損のワケ

文=日野秀規/個人投資ジャーナリスト
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三菱UFJ銀行の店舗(※本稿内容の店舗とは無関係です)

 三菱UFJ銀行が7月3日から9月29日にかけて行っているキャンペーン「外貨定期優遇プラン」が注目を集めている。米ドル建ての外貨定期預金のうち、1カ月満期の金利が「年10%」という高金利で、しかもインターネットバンキングの利用で預入時の為替手数料が無料になる。国内定期預金金利が年0.002%の時代に、年10%金利は空前絶後の大盤振る舞いと思えてしまう。これははたして、約半世紀ぶりの物価上昇にあえぐ生活者にとっての福音と言える商品……なのだろうか。

外貨預金は日本円を外国の通貨に換えて預ける預金 外貨建てでは元本保証だけど、実際は……

 まずは「外貨預金とは何か?」という基本からおさらいしておこう。日本円を外国の通貨に換えて預ける預金が外貨預金で、米ドルのほかにも豪ドル、ユーロ、英ポンド、NZドル、スイスフラン建てなどの外貨預金がある。三菱UFJ銀行をはじめとするメガバンクだけでなく、地方銀行や信用金庫でも提供されている。

 預け入れ・払い出し自由の普通預金と満期を選ぶ定期預金があるのは一般的な預金と同じだが、外貨預金は預金保険制度の対象とならない。国内の預貯金は、預入先の金融機関が破綻しても1行につき1000万円までは全額保証されるが、外貨預金は全額返還されない可能性がある点に注意しよう。とはいえ、特にアクシデントがなければ外貨預金は外貨建てでは元本保証のある商品だ。解約した時には元本に金利を加えた額が返還される。

 外貨預金を利用する際は預入時に円を外貨に換え、解約して使う際に外貨を円転するので、為替レートの変動が運用結果を大きく左右する。外貨預金を解約して、外貨を円に換える時の為替レートが預け入れた時より円安になっていれば、金利収入に加えて為替差益を受けることができ、利用者は得をする。反対に、預け入れた時より円高になった場合は、為替差損を負担する羽目になる。金利収入に所得税と住民税がかかるのは通常の預金と同じだが、為替差益は「雑所得」として総合課税の対象となる。

なぜ三菱UFJ銀行は年利10%という高金利を実現できるのか?

 三菱UFJ銀行の「スーパー定期」1カ月物の金利は年0.002%で、同じく外貨定期預金「ホット定期」(1カ月物)の金利は年0.01%である。なぜ今、同社は通常商品の1000倍ものキャンペーン金利を提供することができるのだろうか。

 米国では昨年から金利が駆け足で上昇しており、この7月末に5.25%~5.5%に達した。三菱UFJ銀行をはじめとする邦銀は、米国の短期債を購入することで、米ドル建てではほぼノーリスクで年5.5%相当の資金運用が可能。つまり10%のキャンペーン金利を提供しても、実質的に負担するコストは4.5%にとどまる。

 そして肝心要のもう1点が、利用者が年10%の高金利を享受できるのは1カ月満期の定期預金に限られるということ。満期が来れば解約か、継続する場合は1カ月物米ドル建て定期預金の通常金利に切り替わることになっている。年10%の金利収入といっても、12等分して1カ月分に換算すれば約0.83%(税引き前)でしかない。通常金利との差分は0.82%で、この半分が資金運用でカバーできるとなれば、新規顧客を呼び込むための販促コストとしては穏当という構造が見えてくるだろう。

年10%金利は「1か月0.83%金利」と同じこと、そこに為替変動が直撃すると……

 1カ月で約0.83%の米ドル建て金利収入は、日本の低金利環境においてはもちろん小さくはない。とはいえ利用者にとってみれば、為替変動の大きさに比べれば微々たる収入でしかない、というのが現実だ。たとえば、このキャンペーンを利用して1万5000ドルの米ドル建て定期預金を組むとしよう。1ドル=145円で換算すると、日本円で217万5000円となる。満期である1カ月後に得られる金利は税引き後で99.61ドル。ドル建てで0.66%の金利収入が得られる。

 解約後、ドルを円に換える際には為替手数料が片道1円かかる。1カ月の間に為替変動がなかったとしても、1万5099.61ドルを1ドル=144円で円換算すると217万4343円となる。年10%の高金利をあてにしていたはずが、為替がまったく動かなかったとしても、657円のマイナスになってしまうのだ。開始以降、多少なりとも円安に振れなければ儲からないのが外貨預金という商品の宿命である。

 過去の歴史をおさらいしておこう。2022年10月21日から11月15日にかけてのわずか1カ月足らずで、ドル円レートは150.14円から137.67円へと急速に円高が進んだ。これを上の例に当てはめて、1ドル=150.14円で1万5000ドルの米ドル建て外貨定期預金を組むと、225万2100円かかる。満期後、年10%金利の1カ月分の収入から税金を引いた手取りを足して、1ドル=137.67円のレートで円転すると、為替手数料が引かれて手取りは206万3663円となる。円高が進んだ結果、差し引き18万8437円ものマイナスになっても驚けないということだ。

 そして残念なことに、1カ月後の為替レートを正確に予測できる人はこの世に存在しない。つまり、1カ月物の外貨定期預金を利用して金利収入で儲けようとするのは、実質的には、ほぼほぼ丁半バクチをしているのと変わらないと言える。

外貨預金は「この先円安が進むという確信がある人」限定のお勧め(?)商品

 同じ丁半バクチなら、FX(為替証拠金取引)業者を利用するほうが為替手数料が少なく済むのでお勧めだ。口座に保有する現金の最大25倍(国内業者の場合)の金額まで取引することができるので、外貨預金より脳汁がドバドバ出て楽しめるだろう。もちろん負けも大きくなる点は覚悟すべし。手堅く金利収入を得たいなら、個人向け国債(変動10年)が、金融機関のキャンペーン商品を除いて、元本保証のある金融商品のなかで最も高い金利が得られる。最新の発行分の金利は年率0.39%だ。

 この先も円安が進むという確信がある人限定で、三菱UFJ銀行の「外貨定期優遇プラン」はお勧め商品といえる。ただし繰り返しになるが、世界中の金融のプロを見渡しても、1カ月後の為替レートを正確に予測できる人はこの世に存在しないことは付け加えておきたい。

(文=日野秀規/個人投資ジャーナリスト)

日野秀規/フリーライター、個人投資ジャーナリスト

日野秀規/フリーライター、個人投資ジャーナリスト

社会経済やトレンドについて、20年にわたる出版編集経験を活かし幅広く執筆活動を行っている。専門は投資信託や ETF を利用した個人の資産形成。

Twitter:@kujiraya_fp

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