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三菱商事とワタミ、同じ東証プライム上場でも年収に4倍差…一人当たり利益が要因

取材・文=A4studio、協力=曽和利光/人材研究所代表
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三菱商事のHPより

 7月24日付日本経済新聞に、2023年3月期における上場企業の平均給与伸び率が掲載された。東証プライム1位を飾ったのは日本製鉄で、伸び率53.9%で平均給与824万円。ランキングでは製鉄業界や海運業界、総合商社が上位を占めており、5大商社のひとつである三菱商事に至っては伸び率24.4%で平均給与が1939万円だった。

 平均年収1000万円を超える企業が目立つ東証プライムだが、飲食業大手のワタミのみ485万円と500万円を切る結果に。三菱商事との平均年収の差はほぼ4倍となっているのだ。コロナ禍で飲食業界は壊滅的な打撃を受けたとはいえ、東証プライムに上場する企業間でこれほどの収入格差が生じているのは、いったいどのような要因によるものなのか。今回は就活や人事に詳しい株式会社人材研究所代表の曽和利光氏に話を聞いた。

年収に開きが出て当然、シンプルな構造と理由

 同じ東証プライムに属する企業でも、平均年収の開きがあることは特段珍しいことではないという。

「東証プライムは、多くの投資家からの投資対象となりうる時価総額が高めで、中長期的な成長が見込める企業が集まる市場です。上場の条件としては株主数800人以上、流通株式数2万単位以上、流通株式時価総額100億円以上などと厳しい条件が課せられています。ただ、規模が小さい企業でも社会的有用性が高く、サスティナブルな成長を期待できれば、投資家から多額の投資を受けられ、上場することも可能です。東証プライム上場企業は業界・業種もさまざまで企業規模も上下差が激しいので、従業員の年収に開きが発生するのは当然といえば当然でしょう」(曽和氏)

 では従業員の給与はどのように決まっていくのだろうか。

「給与は大きく2つの観点を基に決められます。1つめの観点は、従業員の市場価値が高いか低いか。たとえば、英語が話せる、プログラミングができるといった専門性の高いスキルを要する人材を求めている場合、同じように高いスキルを求めている競合の企業も多くなるため、おのずと市場価値が高まり年収も上がっていくわけです。競合他社に持っていかれないよう優秀な人材を確保するためには、高い報酬を提示するというのはごくごく当然のことでしょう。

 2つめの観点は、従業員一人当たりの利益額をどれぐらいに想定しているかということ。一人当たりの利益額はその企業の利益額を社員数で割った金額となるわけですが、社員一人ひとりがあげる利益額が高ければ年収も高くできますし、低ければ年収を高くできないということです」(同)

 では2023年度3月期の三菱商事とワタミの決算をもとに、両者の一人当たりの利益額を純利益換算してみよう。

「三菱商事は、グローバル市場を見据えた総合商社となりますので、従業員に求めるレベルも高く、語学力やマネジメント・ビジネス実務といったスキルの習得も必須。これは三菱商事のみならず、5大商社ではスタンダードに共通する条件です。そして一人当たりの純利益額は約1481万円と高水準を維持しています。

 対してワタミは、チェーンストアオペレーション方式で利益を最大限に高めるという経営で上場を果たしている企業です。飲食業はただでさえ低利益率の業界であり、社員に求めるスペックも基本的に高くはなく、ポテンシャル採用が大半。一人当たりの純利益額は約103万円と低い額。三菱商事は従業員一人ひとりが稼いでくる利益額がワタミの14倍以上となっていますので、収入に4倍ほどの差が開いてしまうのはおかしな話ではないわけです」(同)

飲食業界の賃金が上がっていく可能性はあるか

 総合商社、飲食業以外でも年収の開きが大きいことは珍しくはない。では年収の高い業界、低い業界の特徴とは何か。

「年収の高低を考えるうえで重要なポイントとなるのは、転職求人倍率です。求人倍率が高いのは人気の高い業界・業種ということになりますが、それはつまり、仕事内容に対して給与などの条件面で満足できると考えている人が多いということ。逆に求人倍率が低いのは、不人気でその給与などの条件で納得できる人が多くないということです。

 転職サイト『doda』にある7月の転職求人倍率を見ますと『人材サービス』『コンサルティング』『IT・通信』がそれぞれ6倍を超えており、人気の高さがうかがえます。しかも、高いスキルや専門性が必要な業種だとすると、応募してくる人材は市場価値が高めにもかかわらず、そのなかから6人に1人しか採用されないということですから、こういった業界の企業の年収は高い傾向にあるといえるでしょう。

 一方、『レジャー・外食』『小売・流通』といった業界は求人倍率が1を切っており、人気は低い。どちらも肉体労働という側面が強く、さほど高いスキルや専門性を必要としない業界ですので、市場価値が低い人でも求人要項の条件を満たしているケースは多い。わかりやすくいうと、誰にでも広く門戸を開いている業界というわけです。にもかかわらず転職求人倍率が1以下ということは、条件面で納得する人が多くないということであり、年収が低い傾向にあると考えられます」(同)

 求める人材の市場価値が低く、求人倍率も低いという負のスパイラルに陥っている業界では、賃金の上昇が見込めないのは自明の理。

「特に飲食業のような安い労働力を頼りにしているような業界ですと、よりいっそう厳しいでしょう。昨今では国による外国人労働者の雇用推進により、低賃金で外国人をどんどん採用しているので、業界全体で賃金が上がらない状況が続くと予想されます。また、飲食業界は人件費のコストカットにも積極的に乗り出しており、たとえば注文をタッチパネル化したり配膳ロボットを導入したりと、省人化を進めてなんとか利益率を上げていこうという流れがあります。こういった背景を考えると、飲食業界の賃金が今後、劇的に上がっていくということは考えづらいのです」(同)

(取材・文=A4studio、協力=曽和利光/人材研究所代表)

曽和利光/人材研究所代表

曽和利光/人材研究所代表

京都大学教育学部教育心理学科卒。新卒でリクルートに入社、2009年まで人事や人事コンサルティングを行う。人事GMとして、最終面接や人事担当者トレーニングなども担当。その後、ライフネット生命などのベンチャー企業の人事責任者を経て、現職。現在は、日系大手から外資、ベンチャー、中小企業様に至るまで、様々な会社の、人事や採用に関するコンサルティング、トレーニング、アウトソーシングの事業を推進中。
日本採用力検定協会理事/日本ビジネス心理学会理事/情報経営イノベーション専門職大学客員教授
株式会社人材研究所

Twitter:@toshimitsu_sowa

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