ベルギーで有名なワインソムリエが「最悪」と評価したワインのラベルを張り替え、国際コンクールに応募したところ、金賞を受賞したというニュースが話題となっている。このニュースを報じたのはベルギーの公共放送局RTBF。過去にベルギーの最優秀ソムリエに選出されたことがあるエリック・ボッシュマン氏が「多額の参加費を要求する金稼ぎだけのコンクールがある」といった旨の話をしたことから検証を行ったもので、スーパーマーケットで購入した2.5ユーロ(約400円)のワインのラベルを架空の商品のものに貼り替えて、約50ユーロ(8000円ほど)の参加費を払って応募。結果、金賞を受賞し、金賞ラベル1000枚が送られてきて、ラベル代約60ユーロ(9000円ほど)を請求されたという。
この話題に対し、ネット上では「金で金賞がもらえるなんて」といった声も上がっている。確かにラベル代が参加費以上というコンクールはいかがわしい感じがする。そのあたりのコンクール事情はどうなっているのだろうか。ソムリエの牧野重希氏に話を聞いた。
「ヨーロッパには数多くのワインコンクールがあります。そのなかにはフランスで行われる『パリ農業コンクール』や、イギリスで行われる『デキャンタワールドワインアワード』、同じくイギリスの『インターナショナルワインチャレンジ』など有名なものもあります。そういった有名で権威のあるコンクールにはクオリティーの高いワインがエントリーされますが、今回話題となったような、年間に何回も審査が行われる小規模なコンクールには、いいワインがエントリーされるとは限りません。でもエントリーされたワインの中から金賞、銀賞、銅賞などを決めるというルールになっているなら、どれかを金賞にしなければならない。だから金賞に選ばれた、という可能性もあります」
出品されるのは「コンクールで評価されて知名度を上げたいワイン」
さらにコンクールにはこんな特徴も。
「コンクールにすでに売れているブランドがエントリーされることはありません。世界中からすでに高い評価を受けているので、コンクールでお墨付きをもらう必要がないからです。出品されるのは『コンクールで評価されて知名度を上げたいワイン』がメインとなります」
そのためワイン通の間では以前、こんなことが話題になったことも。
「2006年に亡くなったアンリ・ジャイエという有名なワイン醸造家が、1970年代にワインコンクールに出品していたのは通の間では有名な話です。『彼ほどの人がコンクールに出品していたなんて』とびっくりする話ですが、ジャイエは当時のワインの工業製品化に警鐘を鳴らし、品質の高いワイン造りを推し進めた方ですから、自らの高い品質のワインを回りに認めさせる意味があったのかもしれませんね。今回のコンクールについては、報じられたように金儲け目的だった可能性もありますが、実際どうなのかは情報だけでは断言できないですね。ちなみに私の知り合いがパリ農業コンクールの審査をしたのですが、審査で出てくるワインは、すべての無地のワインボトルに詰め替えられるそうです。ボトルには数字だけが書かれていて、5人ほどの審査員が試飲。自分が一番と思うワインはどれかを決めて、みんなの意見が出た後、ディスカッションをして金賞を決めるそうです」
最後に安くて美味いワインの見つけ方を聞いてみた。
「今は円安の影響でワインも高くなっており、1000円で購入できるワインのクオリティーも下がっています。価格は魅力的かもしれませんが、美味しさを求めるなら3000円ぐらいまで予算を上げてみることをお勧めします。そのぐらいのものであればクオリティーの高いものが増え、バリエーションも豊かです。そんな3000円のワインをお試しで飲んで『これは自分に合う味かも』と思ったら、それと同じ産地、同じ品種の葡萄を使っている安いワインを買ってみるといいでしょう」
チリ産のワインもオススメだという。
「現在、ヨーロッパ産のワインも関税が撤廃され安くなっていますが、昨今の円安の影響もありメリットが低下しています。チリのワインもヨーロッパと同じく関税がかかっていません。さらにヨーロッパに比べて気候が安定しています。チリは気候が乾燥していてブドウが病気にかかりにくい上、アンデスの雪解け水が豊富で水不足の心配もない。高いクオリティーのブドウを安定して生産できるのです。だから、同じクオリティーのものでも他の国のワインよりも安いです」
ワインライフを楽しむためには、3000円のチリ産ワインを飲むことから始めるのが良さそうだ。