宝塚歌劇団の劇団員、有愛(ありあ)きいさん(25)が9月30日、兵庫県宝塚市の自宅マンションの屋外駐車場で死亡しているのが見つかった。地元警察は現場の状況から18階建てマンションの屋上から飛び降りた自殺とみているが、有愛さんの遺族の代理人弁護士は10日、会見を行い遺族のコメントを発表。遺族はコメントのなかで有愛さんの死因について
「新人公演の責任者として押し付けられた膨大な仕事量により睡眠時間も取れず、その上、日に日に指導などという言葉は当てはまらない、強烈なパワハラを上級生から受けていたから」
「劇団は、娘が何度も何度も真実を訴え、助けを求めたにもかかわらず、それを無視し捏造隠蔽を繰り返しました」
と説明。また、
「常軌を逸した長時間労働により、娘を極度の疲労状態におきながら、これを見て見ぬふりをしてきた劇団が、その責任を認め謝罪すること、そして指導などという言葉では言い逃れ出来ないパワハラを行った上級生が、その責任を認め謝罪することを求めます」
とした。自殺に追い込まれた背景として同僚のいじめを指摘する関係者は多い。宝塚歌劇団にはびこるいじめ体質はどういうものなのか。関係者の証言を基に真相を探る。
有愛さんは京都市の老舗商店に双子の姉として生まれ、中学卒業後の2015年、宝塚音楽学校に103期生として入学し、2年後に歌劇団に入り、タカラジェンヌの仲間入りを果たした。妹も前年の14年に1期上として入学している。有愛さんは17年に初舞台を踏み、宙(そら)組に娘役として所属し、順調にキャリアを積んだ。周囲からは「長身でスタイルがいい」と将来を嘱望されていたという。
そんな前途洋々の有愛さんに異変が見られたのは死の前日の9月29日だった。宙組の公演『PAGAD(パガド)』の初日の舞台に立ち、帰宅してからのことだった。「文春オンライン」報道によると、母親に事前に「精神的に崩壊している」という趣旨のメッセージを送っていたという。「宙組の上級生から集団リンチのような目にも遭っていた」という内部の声もささやかれているという。
有愛さんの自殺の8カ月前、「週刊文春」(2月9日号)にある記事が載った。宙組の娘役、天彩峰里が後輩の額にヘアアイロンを押し当ててやけどさせたという内容だった。記事では被害者は匿名になっていたが、「NEWSポストセブン」報道によると、被害者が有愛さんであることは容易に想像できたため歌劇団内では情報をリークした犯人捜しが始まり、有愛さんは気に病んでいたという。その上、有愛さんが自殺する前日に始まったPAGADと同時上演された宙組の『Sky Fantasy!』は新トップ娘役のお披露目公演だったが、抜てきされたのは最有力候補だった天彩ではない別の団員で、「天彩はいじめ報道が響き、外された」といううわさが駆け巡った。有愛さんは「いじめ報道のせいで天彩がトップ娘役に就けなかったのではないか」と自分を責めていたという。
宝塚ファン「重大性を受けとめなければならない」
「トップを目指すライバル同士の間では、嫉妬心から足の引っ張り合いが珍しくない」(長年の宝塚ファンを自認する女性)
宝塚出身の小柳ルミ子が後年に現役時代に受けたいじめを告発し、宝塚音楽学校の元生徒が2009年に学校を相手に起こした裁判でも、いじめ問題が明るみに出た。音楽学校は2年制の団員養成機関で、中学、高校卒業者ら毎年約40人が入校する。関係者の一人は「1年目の予科生が先輩の本科生に指導を受けると、当事者が反省文を書き、連帯責任で予科生全員で反省文を暗唱させられるペナルティーが科せられる」と養成段階からパワハラ体質が構造的に根付いている背景を明かす。
宝塚歌劇団の「隠ぺい体質」も指摘される。有愛さんの自殺翌日、木場健之理事長は開演前に観客に対し、個人のプライバシー保護を理由に「詳細は公表しない」と話したという。歌劇団がPAGADの公演中止を発表した際も「複数の出演者の体調不良が判明し、公演実施が困難になった」と述べるにとどめ、団員の自殺については触れなかった。
前述の宝塚ファンはいう。
「宝塚は歌劇団、音楽学校とも閉鎖的な上、興行的にもトップスターを抱え込む一部のパトロンが観覧席を買い占め、一般のファンは良席にはなかなか座れないなど不透明感がぬぐい切れない。ジャニーズ問題と構造的に似ていて外部の目を入れないと再生は難しいのではないか。歌劇団は有愛さんがトップ娘役のお披露目公演初日の翌日に自ら命を絶った重大性を受けとめなければならない」
(文=Business Journal編集部)