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宝塚歌劇団員、事実上「阪急電鉄社員」でも業務委託契約で過重労働、死亡事故に

文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表
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宝塚大劇場(「Wikipedia」より/663highland

 宝塚歌劇団の劇団員、有愛(ありあ)きいさんが9月30日、兵庫県宝塚市の自宅マンションの屋外駐車場で死亡しているのが見つかった事件で今月14日、宝塚歌劇団が会見を行い、有愛さんに長時間労働などで強い心理的負荷がかかっていた可能性が否定できないとし、「安全配慮義務を果たせていなかった」と謝罪した。有愛さんは歌劇団と業務委託契約を締結していたが、有愛さんの遺族の代理人弁護士は「実質的には労働契約だった」と主張している点も焦点となっているが、歌劇団は阪急電鉄の創遊事業本部の一部署という位置づけであるため、もし有愛さんが事実上「阪急電鉄の社員」であったのだとすれば、阪急電鉄の責任が厳しく問われることになる。今回の不祥事を通じて阪急電鉄は表立った対応をみせておらず「雲隠れ」を続けているとの批判もあり、東証プライムに上場する大企業としての姿勢が問われている。

 騒動の発端は、2月発売の「週刊文春」(文藝春秋)の報道だった。歌劇団宙組の娘役、天彩峰里が後輩の額にヘアアイロンを押し当ててやけどさせたという内容で、記事では被害者は匿名になっていたが、「NEWSポストセブン」報道によると、被害者が有愛さんであることは容易に想像できたため歌劇団内では情報をリークした犯人捜しが始まり、有愛さんは気に病んでいたという。その上、有愛さんが亡くなる前日に始まった宙組の公演『Sky Fantasy!』は新トップ娘役のお披露目公演だったが、抜てきされたのは最有力候補だった天彩ではない別の団員で、「天彩はいじめ報道が響き、外された」といううわさが駆け巡り、有愛さんは「いじめ報道のせいで天彩がトップ娘役に就けなかったのではないか」と自分を責めていたという。

「常軌を逸した長時間労働」

 有愛さんの遺族の代理人は今月10日、会見を行い、遺族のコメントを発表。遺族はそのなかで有愛さんの死因について

「新人公演の責任者として押し付けられた膨大な仕事量により睡眠時間も取れず、その上、日に日に指導などという言葉は当てはまらない、強烈なパワハラを上級生から受けていたから」

「劇団は、娘が何度も何度も真実を訴え、助けを求めたにもかかわらず、それを無視し捏造隠蔽を繰り返しました」

と説明。また、

「常軌を逸した長時間労働により、娘を極度の疲労状態におきながら、これを見て見ぬふりをしてきた劇団が、その責任を認め謝罪すること、そして指導などという言葉では言い逃れできないパワハラを行った上級生が、その責任を認め謝罪することを求めます」

としていた。

 遺族の代理人は、有愛さんは上級生からヘアアイロンを額にあてられて火傷を負ったり、「下級生の失敗はすべてあんたのせい」「マインドがないのか」「うそつき野郎」などと暴言を浴びせられていたと主張しているが、14日の会見で歌劇団の木場健之理事長は

「故人へのいじめやハラスメントは確認できなかったとされており、『うそつき野郎』『やる気がない』の発言の有無は、すべて伝聞情報。実際にそのような発言があったことは確認されていない」

と否定している。これに対し遺族の代理人は、証拠となるLINEを提出したにもかかわらず報告書には記載されていないとし、「あまりにも遺族に対して失礼」「(調査報告書は)失当であり、劇団と上級生の責任を否定する方向に誘導している」と批判している。

 ちなみに歌劇団の専務理事で次期理事長、阪急電鉄の創遊事業本部副本部長でもある村上浩爾氏は会見で、パワハラやいじめがあったと主張する遺族側に対し、「そのように言われているのであれば、証拠となるものをお見せいただけるよう提案したい」と発言している。

 また、遺族側が主張している過重労働について「安全配慮義務を果たせていなかった」と認めた一方、遺族側が有愛さんが亡くなるまでの約1カ月間の時間外労働を約277時間と推計している点について、報告書は「118時間以上の時間外労働」と推計。これに対し遺族側の代理人は「実態よりも過少だ」と反論しており、有愛さんの一日あたりの睡眠時間は約3時間で、ひと月半、休日なしの連続勤務だったと主張している。

「劇団の業務に専念」との誓約書も

 本事案を通じ問題視されているのが、有愛が宝塚歌劇団と取り交わしていたのが業務委託契約であったという点だ。歌劇団に入団するには、劇団付属の宝塚音楽学校で予科1年・本科1年の計2年間の教育を受け、卒業認定と入団式を経て、正式に歌劇団の研究科1年になる。入団後は研究科生と呼ばれ、5年目までは固定給とボーナスが支払われる。その後は1年ごとの業務委託契約へと切り替えられ、有愛さんは昨年に業務委託契約となっていた。遺族の代理人によれば、その契約内容は次のようなもので、「劇団の業務に専念すること」との誓約書も交わされていたという。

・劇団が行うレッスンへの参加や自己鍛錬により技能の向上・容姿の管理を求められる。
・劇団が決定した組所属・出演作品・配役・出演劇場・出演期間などについて一切方針に従わなければならない。
・劇団の定めた稽古に参加し演出家などの指示に従わなければいけない。
・劇団の許諾を得ずに劇団以外で演技・歌唱などを行ってはいけない。

 これについて遺族の代理人は、実質的には労働契約だったと主張している。

 そこで焦点となっているのが、歌劇団の劇団員の位置づけだ。歌劇団はあくまで阪急電鉄の創遊事業本部の一部署であり、独立した一法人ではない。以前、歌劇団は当サイトの取材に対し次の回答を寄せていた。

「宝塚歌劇団の団員は『宝塚歌劇団』という任意団体と雇用契約を結んでいるので、『阪急電鉄の社員』とは言い切れません。ただ『宝塚歌劇団』自体は阪急電鉄創遊事業本部の一部署という扱いであり、『阪急電鉄の社員』という表現はあながち間違えでもない、といったところで明言は避けています」

 もし仮に有愛さんが事実上の阪急電鉄の社員であったということになれば、同社自身の責任となるが、一連の不祥事をめぐり阪急電鉄が表に出て対応にあたった形跡はない。

「内部の過重労働やいじめ、パワハラの実態に加え、劇団員を事実上の労働契約のかたちで自社社員同然の働かせ方をしているにもかかわらず、あたかも個人事業主扱いのタレント契約をしているという事実がバレたことは、歌劇団としては大きな痛手だ。また、歌劇団はあくまで阪急電鉄という会社の一部門なので、阪急電鉄が大手を振って違法な労働形態を継続していたということになる。その点を掘り返されたくないがために阪急電鉄は頑なに表に出てこず、歌劇団が前面に立って対応にあたっているが、不祥事に際して一部門にすぎない歌劇団があたかも独立した一法人のように振る舞っているのは不適切だ」(全国紙記者)

かなりの高い確率で「労働者」と判断される

 14日の会見で歌劇団の木場健之理事長は「個人との契約はタレント契約、業務委託契約ではあります」と強調していたが、山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士はいう。

「雇用契約(労働契約)を締結すると、業務の成功や完成に関係なく『給与』を支払わなければなりませんし、雇い主にとっては職場環境配慮義務、安全衛生義務などめんどうな義務が課されますし、社会保険なども加入しなければなりません。そこで、古くから『業務委託』という“工夫”がされてきたわけですが、そう簡単に脱法ができるわけもなく、過去、劇団員、配送ドライバー、塾講師など、さまざまな職種の方について『実質は雇用契約(労働契約)である』と判断されてきております。

 ここで労働者性があるかどうかについては、『指揮監督下で仕事をしているか』、すなわち、(1)仕事の遂行について指揮監督があるのか、(2)時間的・場所的拘束があるのか、を総合的に判断するとされています。

 宝塚の劇団員の場合、『演じる』という仕事をする場所、時間について拘束されているし、練習や出演について指揮命令にあるわけですから、かなりの高い確率で『労働者』と判断されます。とすると、実は宝塚の劇団員はいわば『阪急電鉄の社員(従業員)』と考えることもできます」

(文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)

山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

時事ネタや芸能ニュースを、法律という観点からわかりやすく解説することを目指し、日々研鑽を重ね、各種メディアで活躍している。芸能などのニュースに関して、テレビやラジオなど各種メディアに多数出演。また、企業向け労務問題、民泊ビジネス、PTA関連問題など、注目度の高いセミナーにて講師を務める。労務関連の書籍では、寄せられる質問に対する回答・解説を定期的に行っている。現在、神谷町にオフィスを構え、企業法務、交通事故問題、離婚、相続、刑事弁護など幅広い分野を扱い、特に訴訟等の紛争業務にて培った経験をさまざまな方面で活かしている。
山岸純法律事務所

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