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しまむら、高収益企業へ変身の秘密…在庫回転日数の短さはファストリを凌駕

文=山口伸/ライター、協力=磯部孝/ファッションビジネス・コンサルタント
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「しまむら」のHPより

 カジュアル衣料大手「しまむら」の業績が好調だ。2018、19年度は業績が悪化したものの、その後は売上高が伸び続け、営業利益率も4.4%から8.5%へ大幅に改善している。この数字は、ユニクロやGU(ジーユー)を運営するファーストリテイリングよりは低いものの、無印良品を運営する良品計画や西松屋を上回る。消費行動が落ち込んだはずのコロナ禍で、なぜ「しまむら」の業績は向上したのだろうか。そして高収益体質に改善できた理由はどこにあるのだろうか。今回、アパレル業界でトレンドリサーチやコンサル事業などを手がけるココベイ社長の磯部孝氏に話を聞き、「しまむら」好調の背景について探ってみた。

コロナ禍でV字回復した「しまむら」

 運営会社「しまむら」の業績を振り返ると、2017年2月期の売上高は5655億円であり、その後は悪化に転じ20年2月期には5220億円にまで落ち込んでしまった。低価格を主とした戦略が限界を迎え、客足が遠のいてしまったためだ。しかしコロナ禍では売上高がV字回復し、利益も大幅に改善した。20年2月期から23年2月期までの業績は次の通りである。

売上高:5220億円→5426億円→5836億円→6161億円
営業利益:230億円→380億円→494億円→533億円
営業利益率:4.4%→7.0%→8.5%→8.7%

 営業利益率が2倍に迫る勢いで伸びており、24年2月期の連結純利益は3年連続で過去最高となる見通し。同社は現在、「しまむら」のほか「アベイル」や「バースデイ」などさまざまな業態を展開しているが、主力は「しまむら事業」(23年3月期売上高:4617億円)であり、同事業の好調が全社業績の改善に貢献したかたちだ。この間、「しまむら」の店舗数は1400台と横ばいに推移しているため、1店舗当たりの売上が伸びたことになる。とはいえ、消費が落ち込んだはずのコロナ禍で、なぜ業績を伸ばすことができたのだろうか。

PB商品・JB商品の売れ行きが好調

 決算資料によるとPB(プライベートブランド)商品・JB(ジョイント・ディベロップメント・ブランド)商品の売れ行きが好調だったようだ。PB商品は「しまむら」が企画開発、JB商品はサプライヤーと共同開発した商品を意味する。これら商品が好調だった理由について磯部氏は次のように話す。

「まず挙げられる要素として『お値打ち』感です。売価に対する値入高の割合である『値入れ率』の低さによって実現している売価構成(税抜き890円・990円・1290円・1490円・1790円)内におおよそ抑えられているのが、支持されている理由のひとつだと思います」

 やはり安さが決め手となっているようだ。その上でPB商品・JB商品は機能性やデザイン面でも特徴があるという。

「PB商品は単品機能強化型で、ファッションテイストを問わず着まわしやすいベーシックなデザインが多いと思います。JB商品はPBとは逆にファッションテイストを持たせた商品になります。例えば宝島社のファッション雑誌『InRed』と『リンネル』がプロデュースした『SEASON REASON』はナチュラルなテイストですし、『LOGOS DAYS』ではアウトドア、『HK WORKS LONDON』では英国カジュアルといった具合に、JBブランドでは明確なファッションテイストの打ち出しが、商品の選びやすさとして支持を集めているのだと思います」(同)

 安さを実現したうえでPB商品は機能性、JB商品はファッションテイストが売りとなったようだ。一定の品質があり安いともあれば消費者には受けがいいはずだ。

インフルエンサーとのコラボで集客

 商品が良いとはいえ業績が伸びたのは、消費活動が落ち込んだコロナ禍である。コロナ禍での好調についてどのような背景があるのだろうか。

「今日の『しまむら』売上伸長基調となったきっかけの一つは、コロナ期の対応にあったと思います。コロナ禍による緊急事態宣言のなか、休業店舗数を可能な限り少なくして営業を継続していたのは、『しまむら』とユニクロくらいだったのではないでしょうか。路面単独店舗の多い『しまむら』にとって、店単独での判断がつきやすかったのも影響していたのでしょう。その結果、今まで『しまむら』に行ったことのない人の来店もあり、その後のリピーター醸成につながったと思います。ちなみに数字的にも20年6月から既存店売上高が前年の数値を上回るようになり、今日の快進撃の始まりとなっています」(同)

 コロナ期間中、他のアパレル大手は出店する商業施設やモールの休業に伴って休業となるケースが多かった。対して、『しまむら』は単独店舗が多く、自社の判断で営業を継続することができたのだろう。そして他にもインフルエンサーとのコラボなど、SNSの有効活用が集客につながったという。

「宣伝方法の変化としては、インフルエンサーコラボへの積極的な取り組みがあげられます。『しまむら』の公式X(旧Twitter)のフォロワー数は114万人とユニクロの173万人には及ばないものの、GUの83万人より多くのフォロワー数を獲得できています。公式フォロワー数のアップには発信力のあるインフルエンサーとのコラボは効果的であり、キャラクターコラボともなれば、それぞれのキャラクターファンからの支持も得られます。『しまむら』は年間約121回のチラシ(ウェブ版含む)のなかで、キャラクターを中心に特集したチラシを約24回も実施しました。大手衣料品チェーンのなかで取り扱うキャラクターの種類数では群を抜いています。このあたりの取り組みも『しまむら』からの発信力の強化と集客策として機能しているのだと思います。」(同)

 たび重なるキャラクターとのコラボがフォロワー数ひいてはファンの獲得につながり、集客に貢献したかたちである。

値下げ商品の減少が利益率改善に

 前述の通り「しまむら」の売上は伸び続けたのだが、同時に利益も大幅に改善した。利益率改善についてはどのような要因があるのだろうか。

「利益率の改善という視点で見ると、正価で販売される比率を示す建値消化率のアップと、値下げによって販売される値下げ消化商品の減少が挙げられると思います。全国約1400店舗を有する『しまむら』では、地域内での売れ残り商品を販売力の高い店舗へ移動し、再販しています。こうした取り組みが利益率改善の一因として考えられます。

 また、全国の店舗では均一な施策をしていません。若い人をターゲットにしたトレンド商品は大型店とウェブ限定とし、地域性を考えてお年寄り向けの商品も投入しています。そして寒い地域・暑い地域と、南北に伸びた地域性も考えた商品投入も行っています。それらの効果の程度は定量化できませんが、均一に商品投入するよりは明らかに販売ロスが少なくて済むと思われます」(同)

 地域性を考えたうえで投入する商品を変動させる、そのうえで売れ残ったものは他の店舗で売る。こうした施策が利益改善につながったという。ちなみに、商品をすぐに切り替える「売り切れ御免」の施策が在庫回転日数の改善につながったとも指摘されている。23年12月15日付け日本経済新聞記事によれば、直近通期決算の在庫回転日数は31日であり、ファストリや良品計画より短いという。だが、品揃えの頻繁な変更は客離れにつながらないのだろうか。

「品揃えの頻繁な変更は、リピート客へは飽きさせない売場として鮮度アピールが出来る反面、目的買い商品の欠品というリスクも介在します。事実、シーズン後半になるに従ってサイズ欠品やカラー欠品している状態が目立ちます。その結果、売上高ほどPBブランド『CLOSSHI』の知名度が浸透していないような気がします。生活者から安定した信頼がいまいち獲得しきれていない理由のひとつなのかもしれません」(同)

 安く機能・デザイン面で一定の品質があるPB商品・JB商品が消費者に受け、コロナ禍での営業継続やSNSの有効活用もあって増収につながった。そのうえで地域性を考えた商品投入や他店舗での再販、品揃えの頻繁な変更により在庫を改善し、営業利益率を8.5%まで向上させたかたちだ。一方でPBブランド自体の知名度はあまり高くない印象がある。この点を改善できれば、さらなる業績アップにつながるかもしれない。

(文=山口伸/ライター、協力=磯部孝/ファッションビジネス・コンサルタント)

磯部孝/ファッションビジネス・コンサルタント

磯部孝/ファッションビジネス・コンサルタント

ベビー製造卸メーカー、国内アパレル会社にて衣料品の企画、生産、営業の実務を経験。 2003年ココベイにて、大手流通チェーンや、ブランド、商社、大手アパレルメーカー向けにコンサルティングを手掛ける。 2009年上海進出を機に上海ココベイの業務と兼任、国内外に業務を広げた。2020年ココベイの代表取締役社長に就任。
ココベイ株式会社のHP

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