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「しまむら」業績低迷から一転、過去最高益のワケ…主な要因は“偶然とコロナ禍”?

文=二階堂銀河/A4studio
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しまむらの公式インスタグラムより

 国内アパレル業界2位の郊外型衣料品チェーン「しまむら」。新型コロナウイルスが猛威を振るい始め、消費者の巣ごもりが定着し始めた影響から、2020年3~5月期決算では赤字になり、一時は業績低迷が叫ばれていた。だが今年度3~5月期決算では一転、過去最高益を更新するなどし、現在は業績回復しているのだ。

「しまむら」好調の要因は、いったいなんなのだろうか。今回は、年間400社の上場企業経営者とのミーティングを行うマーケットアナリスト・藤本誠之氏に話を聞いた。

テレビ局側の事情でメディア露出が増え、プライベートブランド売上増へ

「しまむら」は何を変えてここまで業績向上したのだろうか。

「今までは、大量に仕入れて売れ残ったらバーゲンで価格を下げて叩き売る、という商法をとっていた『しまむら』でしたが、今はできるだけ定価で売ろうとしています。その試みがうまくいっているといえるでしょう。

 従来のバーゲン商法では、一度に多く集客できても売れるのはセール品ばかり。お店としては、定価で出し続けて一定ペースで客に購入してもらうほうが儲かります。また、客にとっても、買った商品が後日半額などで売られて損した気分にならなくてすみますよね。ですからバーゲンをやらずに定価で売り続けることは、お店の売り上げとしても顧客満足度としても好循環を生み、プラスに働くんです。

 とはいえ、大手ではないアパレル店は簡単にそれができないからバーゲンせざるを得ないわけですし、『しまむら』ほどのスケールメリットがある大手でも、これまではなかなかできなかったのです。現在の『しまむら』がその試みに成功したのは、プライベートブランドの好調と、コロナ禍でひっ迫した製造業者側の事情に要因があります」(藤本氏)

 プライベートブランドが好調なのは、どの層に対してどのような商品を売っていくかの構想がきちんと描けていて実践できていることが前提にあるが、そのほかにも大きな理由があるという。

「コロナ禍以降、『しまむら』にテレビ出演のオファーが頻繁に来るようになったんです。その理由は、テレビ画面の中で三密を避けたいテレビスタッフにとってリスクが少なく低コストでできるから。

 例えばグルメレポート番組をやりたくても、ガラガラの飲食店を映してもはやってる感じがせずテレビ映えしないですよね。その点、“コーディネーターがモデルに『しまむら』の服を着せたらこんなにかわいくなりました”といった番組は映えるし、撮影が簡単。また、『しまむら』はハイブランドよりもロケの協力を得やすいため、オファーが集中したんです。

 そして、そういった番組を観た視聴者が、『しまむら』にも結構いい服あるじゃないかと思ってお店に足を運び、プライベートブランドの売り上げ上昇にもつながったのでしょう」(藤本氏)

「しまむら」にすがりつくしかなかった製造業者が、「しまむら」の悲願を後押し

 さらに、そのプライベートブランドの好調は、2つ目の要因ともリンクしているようだ。従来、製造業者に大量発注していた「しまむら」は、現在は期初の製造数を抑えて追加注文をその都度していくといった方法で、生産性を上げたそうだ。

「生産性が上がったのは、製造業者の製造効率の向上や『しまむら』内での発注のスピード感の上昇、在庫管理の徹底といった細かい部分の見直しと改善によるものも大きいでしょう。しかし、それ以外に製造業者が『しまむら』の意向通りに応じざるを得なかった理由があります。

 本来であれば、作り手側としては期初に大量に作って一気に納品してしまうほうが楽です。初期生産を抑えて残りは追加発注に応じて作るスタイルは、『しまむら』にとっては都合いいですが、製造業者にとっては大変ですからね」(藤本氏)

 では、なぜ仕入単価を下げることなく製造業者がその変更を受け入れたのか。

「それは結局、コロナ禍によって販売店が売れなくなることで、製造業者も同様に売り上げが上がらなくて困窮していたからなんです。そこで、販売店に大きな販売力があれば、販売店と相関関係にある製造業者は販売店の言うことを聞かざるを得なくなりますよね。ですから、『しまむら』から多少無茶な要求があったとしても、受け入れざるを得なかったのが実態でしょう。視点を変えれば、受け入れてくれる製造業者に集中的に発注が集まってしまう構図ともいえます。

 ただし、コロナ禍が収束して従来の市場に戻れば、製造業者が販売店の言うことを素直に聞いてくれる環境のままとは考えにくい。今は『しまむら』の販売力の大きさに頼らざるを得ず、割を食ってでも仕事をもらってるといった状況なのでしょう。

 反対に、『しまむら』としては以前から、できるだけ定価で売るようにシフトチェンジしたいと考えており、会社として体力のある『しまむら』に製造業者がすり寄ってきてくれたおかげで、結果的にそれが実現できたんでしょう。ですから、『しまむら』の戦略がうまくいったわけでも努力が実ったわけでもなく、コロナ禍の影響がたまたま『しまむら』にとって追い風になったというだけな気がしますね」(藤本氏)

 そんな「しまむら」は、ビジネスモデルの変更やターゲット拡大をすることなく、現スタイルのまま勢力を広げていく可能性が高いと藤本氏は説く。

「今のアパレル業界は二極化が進んでいます。お金のある人はハイブランド品を買い求め、そうでない人はファストファッションを買う。高いものは高く売られ続けるし、安いものはさらに安くなる。そうした状況で正規価格でもそこそこの品数が売れている『しまむら』は、ファストファッションブランドとして需要にマッチしているといえましょう。来期から『しまむら』は新規出店もすると思いますし、郊外型の大型店舗というビジネスモデルのまま国内事業に注力し続けるんじゃないでしょうか」(藤本氏)

 最後に藤本氏は、今後はアパレル業界全体もさらに売り上げが増していくと説明してくれた。

「昨年発令された1回目の緊急事態宣言のときと比べると今年は外出する方が増えたので、アパレルの売上高の前年同期比は当然上がります。外に出なければ服を買う必要はありませんでしたが、外出するようになればみなさん買いに行きますから。今後、秋以降のイベントが例年通り復活したら需要はさらに回帰するので、アパレル業界は全体的にさらに売り上げがアップするのではないでしょうか。そのあとの生き残り競争は、今よりもっと二極化が進むことになるかもしれませんね」(藤本氏)

 外出機会が増えて盛り返してきた衣料品需要。好調の「しまむら」も、アフターコロナで製造業者との力関係がまた変われば、仕入単価を調整せざるを得ないかもしれない。今後の動向に注目だ。

(文=二階堂銀河/A4studio)

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エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。
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Twitter:@a4studio_tokyo

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