カジュアル衣料のユニクロを運営するファーストリテイリングが、中国・新彊ウイグル自治区の人権侵害問題で、苦境に立たされている。欧米当局や人権団体から激しい批判を浴びている。
新彊ウイグル自治区の強制労働をめぐり、フランス検察当局は7月1日までにファストリなど4社を捜査した。「ZARA(ザラ)」などを展開するアパレル世界大手インディテックスと仏中堅アパレルSMCP、米靴大手スケッチャーズである。フランス刑法の「人道に対する罪の隠匿」の疑いがかけられていると、仏のメディアが報道した。
フランスは2017年、「企業注意義務法」を制定した。原料の調達先などを含めたサプライチェーン上の人権リスクを調査・対応する「人権デューデリジェンス(DD)」というプロセスを企業に義務付けた。取引先と児童労働をしないという内容の契約を結んだり、従業員の安全に配慮しているかなどを調査したりする取り組みが求められる。
フランスでは4月、2つの非政府組織(NGO)が新彊ウイグル自治区での強制労働や反人道行為にかかわったとされる複数の企業を告発。告発に基づいて反テロを担当する検察部門が動いた。ファストリは5月に出したプレスリリースで「製品の生産過程において強制労働が確認された事実はない」とした。
米国はユニクロの綿製シャツの輸入を差し止め
米国は人権をキーワードに中国への規制を強めている。米国務省など6省庁は7月13日、米政権がこれまで導入してきた新彊ウイグル自治区での人権侵害を理由とする対中制裁を列挙し、関連する法令の遵守を企業に促す勧告を出した。20年7月の勧告を改め、高いリスクに該当する分野の範囲を広げた。人権侵害に加担する中国企業との直接取引だけでなく、間接的な関与でも法令違反のリスクがあるとしている。
米国は20年12月、ウイグル産綿製品の一部を、さらに21年1月にはすべてを輸入禁止にした。日本企業ではユニクロの綿製シャツが輸入禁止措置に違反したとして、米税関・国境警備局(CBP)が今年1月、ロサンゼルス港で輸入を差し止めていたことが5月19日、明らかになった。
ロイター通信によると、ユニクロが米国に輸入しようとした綿シャツの原料に中国共産党の傘下組織で、綿花の主要生産団体である「新彊生産建設兵団(XPCC)」がかかわった綿が使われている疑いがあるという。米政府はXPCCが生産にかかわる綿製品の輸入を禁止している。ユニクロは4月19日までに「製品にはXPCCがかかわる綿は使用していない」とする反論の手続きをしたが、CBPは「証拠が十分に示されていない」として訴えを退けたとされている。
ファストリの岡﨑健取締役最高財務責任者(CFO)は7月15日の決算記者会見でユニクロの綿製シャツが米国で輸入差し止められたことに言及。「衣料品をつくる縫製工場は第三者の監査機関に入ってもらい人権問題がないことを確認している」「生産を委託している中国の工場で自治区に立地する施設はなく、綿も生産過程で労働環境が適正に守られたものだけを使っている」「シャツは米国、オーストラリア、ブラジル産のコットンを使い、中国の工場で縫製した。(米当局の)質問にも真摯に答えたが、最後の最後まで受け入れていただけなかった」と説明した。
新彊ウイグル自治区の人権問題が国際政治の争点に
新彊ウイグル地区で何が起きているかを把握することは難しい。米当局や世界のメディアでさえ、何が起こっているかを把握できていない。取引関係は複雑で情報統制が厳しい中国で詳細な実態をつかむことは困難であり、ファストリが人権問題はないと結論付けたことに疑問もあがっている。
また、ファストリのトップが新彊ウイグル自治区の人権問題自体に明確なメッセージを発していないという見方もある。米ナイキは「強制労働問題を懸念している」と表明した。
「ファストリの柳井正会長兼社長が、一歩踏み込んだ声明を出すべきだ。そうしないと社会の責任を果たさない企業と見られ、そのイメージが国際的に定着しかねない」(アナリスト)
新彊ウイグル自治区では少数民族が強制的に綿摘みや縫製工場の労働に従事させられているとして、国際人権団体などが問題視してきた。欧米各国や欧州連合(EU)は人権侵害に関与したとして中国の当局者らに制裁を発動した。中国外務省の趙立堅副報道局長は定例会見で、「新彊ウイグル自治区でいわゆる強制労働はなく、自主的な職業を選択している。米側のやり方はいじめそのものであり、関連企業は米国の無礼な行為に反対すべきだ」と米国を強く批判。中国政府は「人権侵害はない」と猛反発し、逆に対抗措置を打ち出して対立が激化している。
中国は米国に対抗し、6月に中国で「反外国制裁法」が施行された。中国企業に対する外国の差別的措置に協力することを禁止するものだ。違反した場合は外国企業であっても損害賠償の対象になる。
中国は世界第2位の綿花生産国であり、新彊産は中国産の8割強を占める。日本の繊維産業は中国の綿がなければ事実上、立ち行かない。日本企業は取引をやめて人権対応を優先するか、取引を続けるかの「踏み絵」を迫られている。
米中の溝が深まり続ける以上、どちらかの国の規制に抵触する事態は生じうる。綿以外でも中国に依存する産業は日本は多いが、人権軽視は許されない。個々の企業で対応が難しい場合、業界団体と政府が連携して取り組む必要がある。人権リスクへの対応は、日本企業が遅れている分野だとされる。