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山崎製パン、工場で違法行為が蔓延、ケガや死亡事故…コンベアー停止を禁止か

文=Business Journal編集部、協力=川村遼平/弁護士
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山崎製パンの公式サイトより

 16日発売の「週刊新潮」(新潮社)は、大手製パン・山崎製パンの工場で骨折などのケガをした従業員が出社を命じられたり、現場責任者からベルトコンベヤーを停止しないよう言われていたため稼働させたまま危険な作業をして指が切断される事故が発生していると報じている。2月に同社の千葉工場(千葉市美浜区新港)で女性アルバイト従業員(61)がベルトコンベヤーに胸部を挟まれ死亡した事故も含めて、同社工場では過去10数年で4件もの死亡事故が起きているが、「新潮」によれば、事故で勤務中にケガをした際に通院費用を従業員に保険証を使っていったん立て替えさせて、その後に会社の経費として精算して従業員に支払う「労災隠し」といった不正行為も行われているという。さらに23日発売の「新潮」によれば、 1月には飯島延浩社長の次男で副社長を務めていた飯島佐知彦氏が本社で急死し、佐知彦氏は以前からメンタルの不調を訴えていたという。食品工場をはじめとする工場では、このように従業員が危険な環境、条件のもとで労働に従事させられるケースは少なくないのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

「ダブルソフト」「薄皮シリーズ」「ランチパック」「ナイススティック」「ホワイトデニッシュショコラ」「ミニスナックゴールド」など長寿シリーズを多数抱える山崎製パン。手掛ける商品は食パン、菓子パン、サンドイッチなどのパン類に加え、菓子類、飲料類など幅広い。このほか、コンビニエンスストア「デイリーヤマザキ」やベーカリーショップの運営なども行っている。そのため企業規模は大きい。年間売上高は1兆円、従業員数は1万9000人を超え、全国に計28の工場・生地事業所を擁している。

 そんな山崎製パンが抱える問題が、にわかに世間の関心を集め始めている。こうした工場における労働実態は、同社に限ったものなのだろうか。弁護士法人古川・片田総合法律事務所所属で過労死問題に詳しい川村遼平弁護士はいう。

「会社側が安全配慮を怠っていたことが原因で工場の従業員がケガをする事故が発生することは、少なくありません。製造ラインを止めると稼働させるまでに時間がかかることも多く、会社側としては納品先への納期に間に合わなかったり、その日の予定生産数量に満たなかったりという事態が生じるため、問題が生じても製造ラインを稼働させ続けるケースは少なくなく、それが末端の作業員のケガを招くことにつながります。

 機械の清掃やメンテナンスをする際には機械を止める必要がありますが、機械を動かしたまま行ったり、不具合を修理しないまま製造を続けることもあります。たとえば、物を切断する機械の刃の部分にはヒトの体の一部が近づくと自動的に停止するためのセンサーが付いていますが、センサーが故障しているにもかかわらず修理せずそのまま稼働させ、作業員が指をケガするといった事例も起きています。

 こうした事故の発生は大手企業も例外ではなく、2010年にはプリントパックの26歳(当時)の社員が大型機械に頭を挟まれ死亡するという事故も起きています」(川村弁護士)

法的な問題点

 山崎製パンにおける、ケガをしているのに出社・勤務を強制するという行為や、トラブルが生じてもベルトコンベヤーを止めないよう指示するという行為は違法なのか。

「労働契約法第5条により、基本的に企業には従業員に対する安全配慮義務が課されており、同条項に違反するおそれがあります。また、安全配慮義務を怠ったことで実際に従業員がケガを負うなどすれば、企業が民事上の損害賠償責任を負うことも考えられます。加えて、労働安全衛生法の第20条などの法令に違反しているとして、企業が取り締まりの対象となり、刑事罰を科される可能性も出てきます」(川村弁護士)

 勤務中にケガをした際に通院費用を従業員に保険証を使っていったん立て替えさせて、その後に会社の経費として精算して従業員に支払う行為はどうか。

「まず、労働安全衛生法100条及び同規則97条では、労働者が業務中に負傷などを負った場合は事業場を管轄する労働基準監督署に『労働者死傷病報告』を提出するよう事業者は義務付けられており、これを行わずに『労災隠し』をはたらいていたと考えられるので、違法性が問われます。また、業務中のケガの治療には労災保険、業務外でのケガには健康保険が適用されるべきであり、山崎製パンの行為は、本来は労災保険から支出すべき治療費を不正に健康保険から支出させるものであり、健康保険に関する保険金詐欺だと評価される可能性もあります。さらにいえば、従業員にこうした犯罪的な行為の片棒を担がせているという問題も生じます」(川村弁護士)

人手作業が多い理由

 山崎製パンの工場の実態について、同社の元従業員はいう。

「他社と比べて多いのかどうかは、正直なところよく分かりませんが、指を切断してしまうといった事故はあります。食品工場と聞くと大部分が機械化・自動化されていて人間は機械の操作や管理をメインでやっていると想像されるかもしれませんが、山崎製パンに限っていえば、人手による作業が結構多い。たとえば大きな円形でグルグル巻き状の『ミニスナックゴールド』や、中に板状のチョコが入った白いデニッシュの『ホワイトデニッシュショコラ』も実は人手でパン生地を巻いています。

 人手作業が多い理由は、高い品質を維持するためです。そもそもパン生地は粘土より軟らかく、くっついたりするので扱いが難しく、またパンは生地を焼いて膨らませるという性格上、生地と生地の間の微妙な隙間の違いが食感の差を生み、生地を重ね合わせる際も硬く重ねるのか“ふんわり”重ねるのかで出来栄えが変わってきます。定番商品であればあるほど固定客がいるため、少しでも食感や味が変わると『あれ?』と不満を持たれてしまうので、その微妙な匙加減は人手に頼る必要があるのです。加えて、同じ商品は同じ見栄え、同じ量にそろえる必要があり、どうしても人手での調整が必要になってきます。

 このように非常に手間がかかる一方、1個100円そこそこで売らなければならず、利益を出すためには膨大な量を販売する必要があるため同社の工場は24時間稼働となっています。よりクオリティの高い商品をより安価に販売する努力というのは企業としては正しいのかもしれませんが、結果的にそれが異常なほどの効率優先主義を生み、ベルトコンベヤーを止めにくい空気やケガでも出社を余儀なくされるほどの人員逼迫を招いているのかもしれません」

(文=Business Journal編集部、協力=川村遼平/弁護士)

川村遼平弁護士

川村遼平弁護士

昭和61年(1986)千葉県生まれ
        千葉東高校、東京大学教養学部 卒業
平成24年(2012)東京大学大学院総合文化研究科修士課程 修了
        東京大学大学院総合文化研究科博士課程 進学
平成29年(2017)司法試験予備試験 合格
平成30年(2018)東京大学大学院博士課程 中退、司法試験 合格
令和元年(2019)弁護士 登録 (登録番号 59538)
        弁護士法人 古川・片田総合法律事務所 入所
【所属】
過労死弁護団全国連絡会議 所属
弁護士法人 古川・片田総合法律事務所の公式サイト

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