菓子製造・販売の人気チェーン「シャトレーゼ」の運営会社が、雇用契約を結んだ特定技能の在留資格などを持つベトナム人労働者88人を約2カ月半にわたり無給で待機させ、休業補償を支給していなかった。山梨県の新工場の全面稼働が遅れたことが原因だが、なぜ同社は休業補償を支給しなかったのか。また、こうした行為は明確に違法だと判断されるのか。シャトレーゼと専門家の見解を交えて追ってみたい。
国内外に合計約1000店舗を展開するシャトレーゼ。「チョコバッキー」「ダブルシュークリーム」「うみたて卵のふんわり厚切りロール」「北海道産バターどらやき」をはじめとする定番商品で知られ、お手頃価格のケーキや洋菓子、和菓子、アイスといったスイーツ類のほか、パン、冷凍食品、ワイン、日本酒なども扱う人気チェーンだ。創業は昭和29年(1954年)。現在ではケーキなど洋菓子のイメージが強いが、今川焼き風のお菓子を販売する店舗「甘太郎」が発祥で、昭和42年(1967年)に社名をシャトレーゼに変更。現在のFC(フランチャイズチェーン)システムによる店舗展開を始めたのは昭和50年(1975年)のことだ。
持ち株会社のシャトレーゼホールディングスは洋菓子店のほか、ワイナリー、ホテル、ゴルフ場などを展開。2019年からは高級志向の都心型新ブランド「YATSUDOKI(ヤツドキ)」を展開。運営するシャトレーゼホテルなどの宿泊施設はスイーツバイキングが満喫できるとしてシャトレーゼファンから人気。グループの従業員数は約3700人、23年3月期の連結売上高は1327億円に上る大企業だ。
「シャトレーゼがオープンすると近くのスイーツ店の売上が目立って落ちるといわれるほど、集客力が高い。出店立地としては駅から比較的離れている店舗も多く、出店コストを抑えつつ住宅街で近隣住民のニーズをつかみ手堅く集客を維持していると思われる」(小売チェーン関係者)
一企業だけの問題ではなくなる
そんなシャトレーゼが、「特定技能」を持つベトナム人労働者を他社からの「転籍」というかたちで雇用し、会社側の事由で約2カ月半にわたり無給で待機させ、休業補償を支給していなかったことが発覚した。
特定技能制度とは、一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れる制度。人材を確保することが困難な状況にある産業として指定された「特定産業分野」が対象で、近年、介護や建設、宿泊、農業、飲食料品製造業、外食業など幅広い業界で同制度を使って働く外国人が増えている。特定技能外国人の受け入れ機関に当たる企業や個人事業主には、外国人労働者と結んだ雇用契約を確実に履行することが義務付けられている。
シャトレーゼはいう。
「休業手当につきましては当初より支給する方向で検討はしておりましたが、事務手続きの遅れによりこのような待機を発生させてしまいました。弊社としましては、この事態を受け、対象の方々に速やかに就業を開始いただくべく、既に順次手続を進めており、6月19日をもって対象の方々全員において、業務に従事いただく予定です。また、法令に基づき、就業を待機いただいた期間中の休業手当を速やかに支給いたします。
今回の事態を厳粛に受け止め、外部の有識者に対し、今回の事態が発生した原因の調査及び今後の再発防止策等につき検証を依頼するとともに、同様の事態が生じないよう、全社一丸となって取組みを進めてまいる所存です」
介護業界関係者はいう。
「受け入れ企業には、特定技能の外国人労働者の住居確保や日本語習得、行政手続きなど生活面のさまざまな支援をする義務も課されており、単に人手が足りないから雇いたいという思考だけで安易にこの制度を使ってはいけない。そもそも外国人か日本人かに関係なく、雇用契約を守らなかったり給与を払わないというのは許されることではない。
シャトレーゼが、もし相手が日本人労働者でも同じことをしたのか、『相手が外国人だから細かい雇用契約の条件や法律を知らないだろう』と考えて払わずに済ませようとしていたのだとしたら、外国人労働者の弱みにつけ込んでいたことになり、特定技能制度の悪用ということになる。介護のように外国人労働者なしでは成り立たない業界もあり、今回のような事態が相次いで日本に来てくれる人が減れば、日本全体が不利益を被ることになり、一企業だけの問題ではなくなる」
給与の不払いは罰金刑もある違法行為
「明らかに会社都合により待機させているので(会社の都合により仕事をさせない)、本来、全額を支払わなければなりませんし、就業規則などでこのような待機期間中の給与を定めている場合はその額(60%以下にはできません)を支払わなければなりません。なお、給与の不払いは罰金刑もある違法行為です」
別の弁護士はいう。
「この制度では日本は労働者を送り出す側の国と取り決めを締結しており、他の企業でも同様の事例が多数発覚する事態になれば、日本とベトナムの政府間の事案となる。ベトナム人労働者は勤勉だとして企業から人気が高いだけに、もし日本に来てくれる人が減るようなことになれば、多くの産業にとって損失となる。シャトレーゼも多くのベトナム人労働者を受け入れているようなので、困るだろうし、遡って休業補償を払いますよというだけで済む問題ではないだろう」
(文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)