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日本人の「和牛」離れ深刻…価格は鶏肉の3倍、霜降りの脂が嫌われる傾向

文=Business Journal編集部、協力=稲田俊輔/「エリックサウス」総料理長
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「gettyimages」より

 精肉のなかで高価格食材に位置付けられる「和牛」。日本人にとっては「ハレの日の食べ物」として親しまれているが、近年の価格上昇、健康志向の高まりや消費者の高齢化に伴うサシの多い肉の需要減退などを受け、日本人の和牛離れが進んでいるという。背景には何があるのか。また、実際に外食業界では牛肉の取り扱い減少などは起きているのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 精肉のなかでも豚肉や鶏肉などと比較して牛肉の価格は高い。なかでも和牛は高級食材に位置付けられ、東京都内のあるスーパーでは「切り落とし」は100gあたり399円(税抜)、「牛肩ロース」は649円、「牛ヒレステーキ」は1080円となっている(8月23日時点)。

「国産牛肉のスーパー店頭価格は、概ね豚肉の2~3倍、鶏肉の3倍といった水準。ここ数年は値上がり傾向が続いていることもあり、以前と比べて“だいぶ高くなった”という印象を消費者に持たれている。輸入牛肉も高く、少し前までは、お客さんが牛肉を手に取って値札を見て、それを棚に戻して豚肉を買うといった光景がみられたが、今ではお客さんは牛肉の棚の前で値段が高いことを確認するだけで、手に取ることすらしなくなった。なので、おそらく全国のスーパー全体でみれば取り扱う量は以前と比べて減っているのではないか。

 もともと精肉の売れ筋は国産品でも安い鶏肉、次に豚肉という感じで、和牛はたくさん売れる商品ではなかった。ここ数年で消費者の間で『わざわざ高い牛肉を食べなくても、鶏肉や豚肉で十分』という認識が広まった印象もあり、スーパーとしては廃棄の手間もあるため、高くて売れない生鮮品を扱う理由はないということになる」(大手小売チェーン関係者)

 国内需要減退の兆候がみられるなか、生産量は増えている。15日付「日本経済新聞」記事によれば、和牛のと畜頭数は6月まで18カ月連続で前年実績を超えた。しかし需要減退を受けて、肥育用の子牛市場における「黒毛和種」の取引平均価格(6月時点)は前年同月比で下落したという。

サシが多い和牛が選ばれにくく

 和牛離れの要因としては価格以外の点もあるようだ。和牛といえばサシ(白い脂肪が網の目のように入っている状態)が多い点が特徴だが、近年の健康志向の高まりに加え、少子高齢化で消費者の高齢化が進む影響でサシが多い和牛が選ばれにくくなっているとも指摘されている。SNS上では以下のような声もみられる。

<和牛は美味いけど脂が多いから敬遠してる>

<三十路には同じサーロインでもアメリカ牛の方が食べやすい>

<老人→身体的に和牛を食べられない 若者→経済的に和牛を食べられない>

<脂身を食べられる若い人は給料が低くてそもそも買えない 給料が上がってきて買えるようになったら今度は身体が脂を受け付けない>

失われたプレミアム感

 では、外食業界では牛肉離れは起きているのだろうか。飲食プロデューサーで南インド料理専門店「エリックサウス」総料理長の稲田俊輔氏はいう。

「和牛は押しも押されもせぬプレミアム食材であり、『高くてもちょっと贅沢なものを食べたい』という消費者ニーズを満たす商品として飲食店にとっても魅力的な食材といえます。特に日本各地の生産地近くでは、ご当地メニュー的にもよく扱われています。

 ただし近年では、そこにかつてほどのステータスはなくなりつつあるという印象もあります。昔であれば肉料理の代表格といえば、すき焼きであり、和牛はそこには欠かせないものでした。しかし時代を追うごとに、日本人にとっての肉の楽しみ方は多様化していき、今や、すき焼きは特別に人気の高い料理というわけでもありません。

 他の肉類、特に仕入れ価格の安い鶏肉は飲食店にとっては利益商品であり、次々とヒットメニューが開発されてきました。また牛肉カテゴリーの中だけで見ても、脂肪の少ない輸入の赤身肉が、価格の安さだけではないヘルシー感や『通っぽさ』で、人気がすっかり定着しています。逆に和牛は高級であることの証でもある霜降りの脂が、かえってマイナスイメージに取られることも、かつてより増えている印象です。

 コロナ以降さまざまな食材の仕入れ価格が大幅に上昇しましたが、我々飲食店側の体感としては、そのなかで和牛の仕入れ価格は比較的上がり幅が小さく、直近は特に安定しています。相対的に以前より少し扱いやすくなったともいえるかもしれません。しかし前述の通り、そこにはかつてのような圧倒的プレミアム感はもうないのかもしれません。

 和牛の霜降り肉に関して、主に中高年層から『おいしいけれど量は食べられない』という声は昔からよく聞きます。日本全体の高齢化でそう感じている層がますます増えているということもあるかもしれません。かといって今の若い層は、和牛に特別なプレミアム感も持っていません。和牛は今後、『霜降り信仰』に頼らない、新たなブランディングが必要なのかもしれませんね。高級焼肉店でいわゆる希少部位が『サシはほどほど』という謳い文句で人気を得ているのは、ひとつのヒントになりそうな気がします」

牛肉の輸出量は増加

 一方、牛肉の輸出量は増えている。財務省「貿易統計」によれば、2023年の牛肉輸出量は前年比113%の8421t、輸出金額は同111%の569億7700万円となっている。

「特に中国では人気が高く、輸出量の約半分は中国向け。ここ10年ほど海外でも『WAGYU』として認知度が高まりつつあるが、輸出量はまだそこまで大きくはない。逆にいうと伸びしろが大きいので、時間はかかるかもしれないが海外市場を意識した品種改良などにも取り組んでいけば、産業として成長が見込めるかもしれない」(全国紙記者)

(文=Business Journal編集部、協力=稲田俊輔/「エリックサウス」総料理長)

稲田俊輔/「エリックサウス」総料理長

稲田俊輔/「エリックサウス」総料理長

料理人・飲食店プロデューサー。鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。和食、ビストロ、インド料理など、幅広いジャンルの飲食店の展開に尽力する。2011年、東京駅八重洲地下街に南インド料理店「エリックサウス」を開店。現在は全店のメニュー監修やレシピ開発を中心に、業態開発や店舗プロデュースを手掛けている。近著は『食いしん坊のお悩み相談』(リトル・モア)。

Twitter:@inadashunsuke

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