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牛丼3社、大幅値上げの「犯人」…中国に牛肉を奪われる、日本の経済力低下の象徴

文=編集部
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吉野家の「ねぎだく牛丼」

 デフレ時代の象徴のような存在だった牛丼業界が転換点を迎えた。牛丼大手3社が2021年秋から相次いで値上げに踏み切ったからだ。

 松屋フーズは21年9月28日、関東以外で販売していた「牛めし(並盛)」を320円から60円アップし380円に改定した(税込、以下同)。吉野家は店内が提供する「牛丼(並盛)」を387円から39円引き上げて426円と7年ぶりに値上げした。ゼンショーホールディングス傘下のすき家は12月23日、「牛丼(並盛)」の価格を350円から400円に引き上げた。「並盛」の値上げは15年4月以来、6年8カ月ぶりだ。

 原材料である牛肉価格の高騰が背景にある。新型コロナウイルス禍で生産地の人手不足が強まったほか、経済再開が早い米国や中国で需要が急拡大した。牛丼店が使用する米国産バラ肉(ショートプレート)の卸値(冷凍品、大口需要家渡し)が、21年秋には1キロ1075円前後と、20年夏の安値から2倍近い水準に跳ね上がった。

 外食産業で使う食材は輸入依存度が高く、円安の進行も強い逆風だ。足元の為替レートは1ドル=114円台と、20年末から11円円安に振れている。“悪い円安”で食材料の購入費用が膨らむため、牛丼3社は一斉に値上げに踏み切った。

ミートショック

 世界的に食肉需給が逼迫している。特に鶏や牛肉だ。コンビニエンスストアのクリスマスチキンはタイ産の鶏肉を使っているが、チキンの確保が大変だった。

 タイの鶏肉工場の労働者にはカンボジアからの移民が多いが、タイ人は食肉工場を敬遠して人手不足になっている。食肉工場は世界的に労働者の賃金が安い。人手の確保がそれだけ難しくなっている。タイの工場では鶏の唐揚げなど冷凍食品は、製造の自動化が進んでいるが、鶏をさばくのはいまだに人海戦術なのだという。

 そのため、コロナが落ち着いても食肉価格は下がらないとの見方が強い。東南アジアでも経済が発展すれば職業の選択肢が増える。先進国と同じで食肉工場で働く人が他の業種に流出する。構造的な人手不足が価格を高止まりさせる。

 中国人の食文化の変化も影響を及ぼしている。中国人はこれまで豚や羊を多く食べていたが、ここ数年、牛肉の消費が増えている。中国の牛肉需要も輸入に頼っている。中国は牛の部位や規格を細かく指定しない。部位に細かい注文を出す日本に売るより楽だ。

 ミートショックのあおりを受けていないのは国産を守ってきたところ。国産鶏だけを使っている日本ケンタッキー・フライド・チキンのクリスマス商戦は例年より予約開始を前年より前倒しし、他社の需要を積極的に取り込んでいた。クリスマス商戦のミートショックは我々にいろいろなことを教えてくれる。

年明け早々から値上げラッシュ

 年明け早々から、小麦粉製品や食用油など、家庭向けの食品の値上げが相次いだ。コロナ禍で落ち込んだ経済活動の回復に伴う世界的な需要の増加で原材料が高騰。物流費も上昇し、多くの食品メーカーが「自助努力は限界」として末端価格に転嫁した。

 山崎製パンは1月1日から食パンと菓子パンの出荷価格を平均7.3%上げた。日清フーズは1月4日から小麦粉製品を3~6%、ミックス粉製品を4~6%値上げした。政府が輸入小麦を民間に売り渡す価格を21年10月に改定し、半年前に比べ19%上げた影響だ。日本は小麦の9割を輸入に頼るだけに影響は大きく、麺類を値上げするメーカーが続出した。

 食用油では、J-オイルミルズが2月1日から菜種油製品を1キログラム当たり40円以上値上げする。食用油は21年に4回値上げされており、菜種油はさらに値上げとなる。食用油の価格上昇は他の食品にも波及する。キユーピーは3月1日、21年7月に続きマヨネーズの小売価格を上げる。カルビーは1月31日以降、ポテトチップスの価格を上げた。食品は、空前の値上げラッシュに突入した。

 企業物価の高騰が続いていて、21年12月の企業物価指数は前年同月比8.5%の上昇と、過去2番目の伸びだった。前年同月を上回るのは10カ月連続で、上昇の波は幅広い品目に及んでいる。

キユーピーは減益で株価が下落

 キユーピーは1月11日、22年11月期の連結営業利益が前期比7%減の260億円になる見通しだと発表した。7日時点の市場予想平均(QUICKコンセンサス)は292億円で、これを下回ったことから株が売られた。翌1月12日は前日終値から9%安の2262円まで下落する場面があった。1月14日の終値は2256円。

 海外での成長や外食需要の回復を背景に22年11月期の売上高は前期比2%増の4150億円を予想する。ただし、主原料の価格高騰や販売管理費の増加が響き、利益は営業利益段階から減少する見通しだ。純利益は13%減の157億円になる見通し。キユーピーは原材料を充分に価格に転嫁できていないと投資家は判断し、持ち株を売りに出したようだ。老舗の食品メーカーでも価格転嫁できないところは一段と苦しくなる。

「日経ビジネス」(日経BP社/21年12月20日号)は、「貧しいニッポン 安売り経済から脱却せよ」を特集した。そのなかで住宅設備機器・建材メーカー大手、LIXILの瀬戸欣哉社長兼最高経営責任者(CEO)はこう提言している。

<「最終目的はみんな、もしくは日本という共同体が幸せになるということ。最終的に賃金を上げなくてはならない。だが、コスト削減ばかり考えていると上げられない。そういう『窮乏化政策』ではなくて、価値あるモノを作って価値のあるモノを買える人を増やさないといけない」>

 多くの日本企業にとって、安値でシェアを大きくして成長するという事業モデルが典型的な成功の原体験だ。高い値段でモノを売って利益を創出するより、安くつくって利益を捻出する稼ぎ方だ。そうした企業行動が積み重なって生まれたのが「貧しいニッポン」だ。日本人の賃金は過去20年ほとんど上がっていない。米国や韓国では同じ20年間でそれぞれ賃金が25.3%、43.5%上昇している。そんな日本を今、エネルギーや原材料価格の高騰が直撃。足元で進む為替の円安が日本企業や個人の購買力を一段と押し下げ、状況はもっと厳しいものになる。

 食品の値上がりは、消費者の財布のひもを固くする。消費マインドが冷え、景気の回復を遅らせる可能性が高い。消費者が手にする商品やサービスの価格の上昇は、回復が遅れる日本経済の足かせになりかねない。簡単に「値上げは悪ではない」と言い切れるほど単純な話ではないのである。

(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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