9月26日付「日経クロステック」記事は、日本通運が基幹システムの開発を委託していた外資系コンサルティング会社・アクセンチュアに対し、開発が失敗・中止となり債務不履行が生じているとして約125億円の損害賠償を求めて提訴したと報じた。外資系コンサル会社がかかわるシステム開発トラブルといえば、デロイト トーマツ コンサルティングが主幹事ベンダを務めた江崎グリコのシステム更改作業で4月初めに障害が発生した事案もクローズアップされているが、背景には何があるのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。
今回の日本通運とアクセンチュアの事例は非常に珍しいものだと大手SIer社員はいう。
「『日経クロステック』記事を読む限り、アクセンチュアは結合テストまで完了して成果物を納品したという見解なのに対し、日本通運は納品されていないという見解で、真っ向から食い違っています。アクセンチュアの主張によれば、日本通運は当初、検収を拒否したとのことですが、考えられるケースとしては、アクセンチュアは不具合だと考えていない部分を日本通運は不具合だと主張し、その点について合意に至らないまま納期を迎え、アクセンチュアは開発は完了したと主張し、日本通運は不具合が改修されていないので完了していないと主張しているというかたちです。部分部分について『これが不具合か、そうではないのか』をめぐり発注側とベンダ側の見解が食い違うというケースは珍しくないですが、大抵はベンダが発注側から言われるままに改修したり、追加費用の契約をして改修したり、改修不要としてそのままにしたりするので、納品が完了したかどうかという点で揉めるということは、あまり聞いたことがありません。
テストフェーズでは通常、発注側とベンダの間でテスト項目や合否の基準を予め決めておくものなので、今回の事案ではその点がどうなっていたのかが気になります。要件定義や基本設計・詳細設計のフェーズで細かい各項目について合意していても、開発が進んでいくなかで発注側とベンダの間で『これは要件になかった追加項目ですよね?』『これは設計で決めた内容と違いますよね?』などと見解の食い違いが生じるもので、生じないプロジェクトなんてないといっていいくらいです。ベンダ側の詰めや確認が甘かったり、発注側が社内の各部門の要件をきちんとまとめきれていなかったりと、さまざまな原因があげられます。発注側のプロジェクトマネージャー(PM)やプロジェクトリーダー(PL)が社内の各部署の要件をしっかりと把握して、現状からの変更も含めてシステムと業務プロセスを策定して社内の合意を得て、それを正しくベンダに伝えるというのは、かなり大変な作業なので、発注側のPMにそのようなスキルがないと、プロジェクトがうまくいかないということになりがちです。
日本企業の場合、メーカーだと製造部門や物流部門、銀行であれば支店や営業部門、物流企業であれば物流部門など、本業の現場の声や力が強いため、システム部門は力関係的に下になりがちなので、社内に言うことを聞かせにくいという点も、システム開発プロジェクトの障害としては結構大きかったりします。システム部門が本体から外出しされてシステム子会社になっていれば、なおさらです。
また、『日経クロステック』記事によれば、テストフェーズでの日本通運による打鍵テストや検収で大量の不具合が見つかったということですが、一般的には開発フェーズで開発と並行して確認作業も行っていくので、テストや検収でそこまで大量の不具合が新たに見つかるということは、あまりありません。なので、もしかすると、プロジェクトのかなり初期の段階からアクセンチュアと日本通運の間でボタンの掛け違いが生じていたのかもしれません」
企業の“コンサル頼み”が加速
外資系ベンダがかかわるシステム開発案件でのトラブルといえば今年、江崎グリコの件が社会的に大きく注目された。グリコは業務システムについて、独SAPのクラウド型ERP「SAP S/4HANA」を使って構築した新システムへ切り替えるプロジェクトを推進。これまで生産・営業・会計など部門ごとで分かれていた古いシステムを統合型システムに置き換えるという大がかりかつ難易度が高い作業だが、旧システムからの切替を行っていた4月3日、障害が発生し、一部業務が停止。「プッチンプリン」「カフェオーレ」「アーモンド効果」をはじめとする大半のチルド食品が出荷停止に追い込まれるという事態に見舞われた。さらにキリンビバレッジから販売を受託している果汁飲料「トロピカーナ」や野菜飲料の出荷も停止するなど、影響は他社にも拡大した。
このシステム更新作業の主幹事ベンダはデロイトだったが、同じくデロイトが主幹事ベンダを務めるユニ・チャームの基幹システム更新でも5月、不具合が生じて一部商品の出荷が遅延するというトラブルが発生した。
そして今回の日本通運の事案も明るみに出たことで、外資系ベンダへの委託のリスクを指摘する向きも広まっている。大手ネット企業社員はいう。
「2000年頃までに数多く構築されたシステムが一斉に更新のタイミングを迎える『2025年の崖』も影響して、システム開発の需要は非常に高まっています。そのため大手SIerや大手コンサル会社に持ち込まれる案件の数が急増しており、特にアクセンチュアやデロイト、PwCといった外資系コンサルはここ数年、人員の採用数を急増させ、高い報酬を提示して大手SIerや一般企業のシステム部門から大量に人材を引き抜いています。加えてシステム開発企業を買収したりもしており、その結果、外資系コンサルにエンジニアやコンサルタントが集中するようになっており、企業の“コンサル頼み”が加速しています。そして大規模な開発ほど、それを引き受けられるベンダは外資系コンサルなど大手ベンダに限られてくるので、多少デロイトやアクセンチュアにとってマイナスのニュースが出たところで“コンサル頼み”の流れは変わらないでしょう」
国内系ベンダと外資系ベンダの違い
過去には大規模システムの開発中止をめぐって発注元企業とベンダが訴訟に発展するケースもあった。
野村ホールディングス(HD)と証券子会社・野村證券は10年、社内業務にパッケージソフトを導入するシステム開発業務を日本IBMに委託したが、作業が大幅に遅延したことから野村は開発を中止すると判断し、13年にIBMに契約解除を伝達。そして同年には野村がIBMを相手取り損害賠償を求めて提訴した一方、IBMも野村に未払い分の報酬が存在するとして約5億6000万円を請求する訴訟を起こし、控訴審判決で野村は約1億1000万円の支払いが命じられた。
テルモは物流管理システム刷新プロジェクトが中止となり、14年に委託先ベンダのアクセンチュアを相手取り38億円の損害賠償を求めて提訴。また、12年に基幹系システムの全面刷新を中止した特許庁は、開発委託先の東芝ソリューション(現・東芝デジタルソリューションズ)とアクセンチュアから開発費と利子あわせて約56億円の返納金の支払いを受けることで合意している。
「国内系のベンダは顧客企業との関係やイメージ悪化による将来的なビジネスへの影響などを考慮して、顧客企業との訴訟を回避しようとする傾向があります。そのため、発注元の企業から無理難題を注文されても、なんだかんだで応じてしまうということは実態として多いです。一方、外資系ベンダは相手企業との間で係争が生じれば裁判をして裁判所に判断を委ねるということを厭わないので、たとえ相手が顧客企業であっても係争となれば徹底的に争ってきます。そこは日本系と外資系の大きな違いです」(大手SIer社員)
(文=Business Journal編集部)