システム障害が原因で、ほぼすべてのチルド食品(冷蔵食品)が約2カ月にわたり出荷停止になるという異例の事態に見舞われている江崎グリコ。スーパーでは同社の人気商品「プッチンプリン」が陳列されていた棚に他社メーカーのプリンが並べられる店舗も出ているが、出荷が再開されたとしても、再び棚を取り戻すことはできるのか。もしくは、そのまま棚を奪われてしまうのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
グリコは業務システムについて、独SAPのクラウド型ERP「SAP S/4HANA」を使って構築した新システムへ切り替えるプロジェクトを推進してきた。旧システムからの切替を行っていた4月3日、障害が発生し、一部業務が停止。その後、一部商品の出荷が停止となり再開されたが、「プッチンプリン」「カフェオーレ」「アーモンド効果」をはじめとする大半のチルド食品は再び出荷停止に。さらにキリンビバレッジから販売を受託している果汁飲料「トロピカーナ」や野菜飲料の出荷も停止するなど、影響は他社にも拡大している。
これによりグリコが被る損失は大きい。同社は5月、24年12月期連結決算見通しについて、売上高は従来予想を150億円下回る3360億円(前期比1%増)に、純利益は従来予想を40億円下回る110億円(前期比22%減)に下方修正すると発表した。ダメージはこれだけではない。4月22日付「日経クロステック」記事によれば、プロジェクトの当初の完了予定は22年12月であったが延期され1年以上の遅れとなり、投資額は当初の予定金額の1.6倍にも膨れ上がっているという。
「プロジェクトの主幹ベンダであるデロイト トーマツ コンサルティングのプロジェクトマネジメント能力に懐疑的な見方も広まっている。プロジェクトが終了した段階で、グリコが一連の損失についてデロイトに損害賠償を求めることになるのでは」(大手SIer社員)
出荷再開後は従来どおり陳列か
グリコにとっては不穏な動きも出始めている。一部スーパーではプッチンプリンの棚が他メーカーのプリンに“侵食”され始めているというのだ。一般的にスーパーにおいて、商品の出荷停止などでその陳列スペースが空いた場合、どのような対応がとられるのか。流通ジャーナリストの西川立一氏はいう。
「売れ筋の商品が品切れになって『品切れ中』という掲示がなされて棚が空いているというケースはしばしばみられますが、異物混入など商品自体の問題ではなく、システム障害が原因でこれだけ長い期間、出荷停止になるという事態は異例です。一般的にスーパーの棚割りは1年うち春と秋に見直しが行われ、そこに向けてメーカー各社は新商品を投入するなどしてスーパー本部に営業をかけていきます。近年では小売企業は利益率の高いプライベートブランド(PB)商品の販売スペースを増やし、ナショナルブランドの陳列スペースが減少傾向にあるため、同一カテゴリーで3番手くらいの商品でもはじき出されることもあり、メーカー各社による棚の獲得争いは熾烈化しています。
今回の件でいえば、プッチンプリンはリピート客が多い人気商品なので、スーパーとしても代わりに別の商品を入荷してプッチンプリンの棚に並べるというのはリスクがあります。なので、たとえば隣のスペースに陳列していた商品を、空いたスペースの前方に一時的に置くなどして“適度に埋める”といった対応が多いのではないでしょうか」
気になるのが、プッチンプリンが出荷再開後に従来の棚に並べられるのかという点だ。
「出荷停止中の同一カテゴリーの他社商品の売上データなどを見て判断されるでしょう。もし仮にプリン売り場の売上全体が大きく下がっていれば、プッチンプリンがなかったことが原因と考えられるので、これまでどおり棚を確保できるでしょう。要はその商品が売れ筋商品かどうかが重要であり、プッチンプリンほどの人気商品であれば復活を望むお客さんの声も強いでしょうから、出荷が再開すればこれまでどおり陳列されるのではないでしょうか」(西川氏)
もっとも、今後は似たようなケースが増える可能性があるという。
「昨年、大手スーパー・西友で9~10月にかけ約1カ月にわたり障害が続き、店舗の一部の棚で欠品が続くという事態が起きました。メーカー、小売店のIT化が進み、大規模なシステム更新・導入作業に伴って障害が生じてしまうというのは致し方ない面もあります。それを想定してあらかじめ代替手段を確保しておくといった取り組みが重要になってくるでしょう」
(文=Business Journal編集部、協力=西川立一/流通ジャーナリスト)