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デロイト、グリコに加えユニ・チャームでもシステム障害…ベンダ能力に疑問も

文=Business Journal編集部
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デロイト トーマツ コンサルティングが入居する丸の内二重橋ビル(「Wikipedia」より/Kakidai)

 5月30日付「ダイヤモンド・オンライン」記事は、ユニ・チャームで一部商品の納品遅延を起こしているシステム障害について、システム更新作業の主幹事ベンダが外資系のデロイト トーマツ コンサルティングであると報じている。デロイトは4月初めに障害が発生した江崎グリコのシステム更改作業でも主幹事ベンダを務めており、外資系ベンダを起用するリスクがにわかに注目されつつある。業界関係者の見解を交え追ってみたい。

 ユニ・チャームは5月16日、一部商品について注文集中による出荷が遅延している旨をアナウンスしていたが、27日付「日経クロステック」記事によれば、ゴールデンウイークに実施した基幹システムの更新で新基幹システムと物流システムの接続でデータ連係に不具合が生じたという。

 システム障害による出荷トラブルといえば、江崎グリコも4月初めに障害が発生し、大半のチルド食品の出荷再開時期がいまだに未定という事態が続いている。グリコは業務システムについて、独SAPのクラウド型ERP「SAP S/4HANA」を使って構築した新システムへ切り替えるプロジェクトを推進してきた。旧システムからの切り替えを行っていた4月3日、障害が発生し、一部業務が停止。その後、一部停止となっていた商品の出荷が再開されたが、「プッチンプリン」「カフェオーレ」「アーモンド効果」をはじめとする大半のチルド食品は再び出荷停止に。さらにキリンビバレッジから販売を受託している果汁飲料「トロピカーナ」や野菜飲料の出荷も停止するなど、影響は他社にも拡大している。当初、出荷再開について5月中旬としていたが、5月1日には出荷再開時期は未定だと発表。障害の原因特定は進んでいるが解消に時間がかかっているという。

 長期にわたる出荷停止により、グリコの業績は悪化する。同社は5月8日、24年12月期連結決算見通しについて、売上高は従来予想を150億円下回る3360億円(前期比1%増)に、純利益は従来予想を40億円下回る110億円(前期比22%減)に下方修正すると発表した。

 損失はこれだけではない。4月22日付「日経クロステック」記事によれば、プロジェクトの当初の完了予定は22年12月であったが延期され1年以上の遅れとなり、投資額は当初の予定金額の1.6倍にも膨れ上がっているという。

デロイトとアクセンチュアの違い

 そのユニ・チャームとグリコのシステム更改作業で主幹事ベンダを務めているデロイトとはどのような企業なのか。

「ビッグ4」と呼ばれる世界最大の会計事務所4社のうちの1社であるデロイト トウシュ トーマツ リミテッド。世界150カ国以上にメンバーファームが存在するデロイト トーマツ グループを形成し、日本では国内グループ全体の経営を統括するデロイト トーマツ合同会社、監査法人のトーマツ、M&Aや事業再生業務、知財アドバイザリーを手掛けるデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー、デロイト トーマツ税理士法人、DT弁護士法人など約40社が展開されている。

 そのなかで大手コンサルティングファームのデロイト トーマツ コンサルティング(以下、デロイト)は、企業向けのコンサルティングをはじめマーケティング戦略支援、コアビジネスオペレーションズ、テクノロジー戦略からプロセス設計・導入に至るまでの支援など幅広いサービスを展開している。

「ベンダといっても自社でゴリゴリの開発を行うわけではなく、顧客の経営戦略と業務内容に基づき全体のグランドデザインを描くコンサル寄りの立ち位置。主幹ベンダということは全体のプロジェクト管理も任されていると考えられるが、実際の開発業務部分は他の開発会社に委託される形態が多いのではないか。同じ大手外資系コンサルでもアクセンチュアは内部に多数のエンジニアを抱えて自社で開発する割合が高いと聞く」

外資系のプロポーザルは見栄えが良い

 なぜデロイトが主幹事ベンダを務めるプロジェクトで相次いで問題が起きているのか。

「企業が開発案件で主幹事ベンダを選ぶ際は、コンペで複数社から提案を受けるが、国内ベンダに比べて外資系のプロポーザルは非常に見栄えが良く、『ウチに発注すればこんなに素晴らしいシステムと業務フローができますよ』と理想的な完成像が描かれるので、特にITノウハウの低い企業だとコロッと信じ込まされてしまう。だが、各部門の実際の業務フローはかなり複雑になっていたりするので、画にかいたとおりにはいかない。業務フローの見直しは発注元企業側のタスクで、実際のシステム開発作業は別の開発会社のタスクなので、プロジェクト全体がうまくいかないというケースは生じる。

 実際にグリコとユニ・チャームで何が起きていたのかは分からないが、外から見ている限りは典型的なプロジェクト失敗例のように感じる。もっとも、こうした失敗例はデロイトなど外資系ベンダに限らず、国内ベンダでも多く起きるものなので、デロイトだけが特段に何か問題を抱えているというわけではないだろう。システム開発は規模が大きくなればなるほど携わる会社や部署、人間の数は多くなるので、大小含めてトラブルや障害は絶対に起こるもの。さすがにグリコのように多くの商品が数カ月にわたって出荷停止になるというのは異例だが、一定程度、業務に支障が生じる事態は避けられない。もっとも、今回の2社の事例を受けて『デロイトに任せて大丈夫なのか』という評価が広まり、発注に二の足を踏む動きは企業の間で出てくると予想され、それなりにデロイトは影響を受けるのは避けられない」(大手SIer社員)

国内ベンダと外資系ベンダの違い

 外資系ベンダを利用する際には、発注元にも一定水準のITに関するノウハウが求められるという。

「国内ベンダと異なり、一般的に外資系コンサルは自社のやり方でどんどんプロジェクトを進めて、顧客と交わした契約で定めた自社の担当範囲だけに専念する傾向があるため、システム構築の実作業を担う開発会社を含むプロジェクト全体の細かい部分まで、きちんと目配せができていなかった可能性も考えられます」(森井昌克氏/神戸大学大学院工学研究科 特命教授/5月4日付当サイト記事より)

 また、金融機関のシステム部門管理職はいう。

「国内ベンダの場合、契約うんぬんに関係なく、顧客側のタスクであっても気になる点や懸念点などがあると『これって大丈夫ですかね』などと言ってくるケースが多い。それがベンダと発注元の役割分担や責任の線引きを曖昧にしてしまったり、契約で定めた以上のボリュームの作業をベンダがやらされてしまうというマイナス面を生むことがある一方、結果的に“穴を埋めて”トラブル回避につながるという面もある。一方、外資系ベンダ・コンサルは『自分たちの担当範囲はここまで』とドライに線引きをしてくるし、顧客側の事情で問題が生じた場合は『ではプロジェクトを中止します』『追加費用がかかります』と言ってくるので、発注する側の企業にもそれ相応の高いスキルが必要となる。

 今回の件でいえば、あくまで推察だが、デロイト側は『この作業はグリコ側・開発会社側の担当』と考え、グリコ側は『これはデロイト側がやってくれているはず』と考えて“作業の漏れ”が数多く発生した結果、プロジェクトがうまく回っていなかったのではないか」

(文=Business Journal編集部)

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