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『水ダウ』演出家が企画の番組、出演者に麻酔薬を投与…麻酔科学会が抗議声明

文=Business Journal編集部、協力=上昌広/医師、医療ガバナンス研究所理事長
『水ダウ』演出家が企画の番組、出演者に麻酔薬を投与…麻酔科学会が抗議声明の画像1
「Amazon Prime Video」より

 人気バラエティ番組『水曜日のダウンタウン』の演出などで知られるTBSの藤井健太郎氏が企画・演出・プロデューサーを手掛ける『Kentaro Fujii’s KILLAH KUTS(キラーカッツ)」(Amazon Prime Video)が今月、配信開始された。そのなかで、誰かに殺されて意識を失う間際に犯人の手がかりを書き残すダイイングメッセージを手掛かりに刑事が犯人を特定できるのかを検証するために、芸人に実際に静脈麻酔薬「プロポフォール」を投与するという企画が行われた。これに対し⽇本麻酔科学会が「⽣命に危険を及ぼす可能性があります」「麻酔薬の安全な使⽤に対する信頼を損なうことを深く憂慮しております」などと非難する声明を発表する事態となっている。また、現在は医療現場で麻酔薬の不足が深刻化しており、モラルを問う声もある。

『KILLAH KUTS』は「どの企画も基本的には地上波で表現することが難しかったモノ」(藤井氏によるメディア向けコメント)を実現化するという触れ込みで、今月に配信がスタート。芸人同士が防犯グッズ・スタンガンを持って1対1で真剣勝負を行う「スポーツ・スタンガン」(エピソード1)や、街行く人に政治信条を聞いて「右寄り」と言われたら右折、「左寄り」と言われたら左折しなくてはいけない「右翼左翼レース」(エピソード3)などが配信。

 なかでも問題となっているのがエピソード2の「麻酔ダイイングメッセージ」だ。ベッドに横になった芸人に対し、看護師に扮した女性がナイフで刺すという演技を行い、芸人は横に置かれた紙にその看護師の特徴を記述。その間、医師が芸人に実際にプロポフォールを投与するという内容。芸人は紙に書く途中で朦朧状態になる。番組冒頭では

「当番組における麻酔の投与は胃カメラ検査を目的とし 医師による監修のもと安全性に配慮した上で 通常の検査で行われる方法と同様に実施しております」

という告知が表示され、番組内でも「実際に胃カメラ検査を実施」「検査のついでにロケを行わせていただきました」などと字幕が入っている。

「不適切な使⽤を避けるよう強く要請いたします」

 このシーンに対して⽇本麻酔科学会は「静脈麻酔薬プロポフォールの不適切使⽤について」と題する声明を発表。以下のように抗議している。

「これらの薬剤は呼吸抑制のリスクを伴うため、必ず⼈⼯呼吸管理が可能な環境で使⽤される必要があります。この点については、マイケル・ジャクソン⽒の死亡事故などでも広く知られているように、適切な医療管理が⾏われない場合、⽣命に危険を及ぼす可能性があります」

「⽇本麻酔科学会は、このような誤った使⽤を強く非難し、麻酔科医ならびに関連する医療従事者には、厳格なガイドラインに従って静脈麻酔薬を適切に管理し、いかなる場合にも不適切な使⽤を避けるよう強く要請いたします」

出演者にどこまでリスクを説明し、同意を得ていたか

  出演者を意図的に朦朧状態にするという目的でプロポフォールを使用する危険性について、医師で特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長、上昌広氏はいう。

「プロポフォールは、全身麻酔や鎮静に用いられる注射剤である。医師でなければ投与できない。今回のケースは何が問題だったのか。日本麻酔科学会が指摘したように、プロポフォールは呼吸抑制のリスクを伴うため、人工呼吸管理など救命措置ができる環境で使用すべきである。確かに、その通りだが、全ての薬には副作用がある。重要なのは、その定量的な評価だ。私は理想論に過ぎるように思う。それは、プロポフォールが一部の医療現場で汎用されているからだ。今回の番組は内視鏡クリニックを舞台にしているようだ。おそらく内視鏡の専門医が監修したのだろう。内視鏡検査の現場では、この薬剤が日常的に利用されている。2017年に発表された『内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第2版)』においてプロポフォールの使用に言及され、一定のコンセンサスが確立している。全ての内視鏡クリニックに人工呼吸管理の体制は整備されていない。プロポフォールは、慣れた医師が使った場合、基本的に安全な薬剤だ。ただ、一定のリスクはある。今回の問題は、出演者にどこまでリスクを説明し、同意を得ていたかだ。

 そして、彼らが、どこまでリスクを許容するかだ。病気の治療が目的の患者は、副作用について一定のリスクを許容せざるをえない。患者ではない、今回の出演者の場合、果たしてどうだったろうか。リアリティを追求すること、他のタレントとの競争に勝ち抜くことなど、様々な要因が影響しているだろう。そのあたりは部外者ではわからない。私は、今回の日本麻酔科学会の対応は大人気ないと感じている。規範論を持ち出して断罪しても、関係者は納得しない。現場に寄り添った対応ができなかったのだろうか」

今の風潮的には許されないレベル

 今回の企画内容について、キー局バラエティ番組関係者はいう。

「同じバラエティの人間からするとギリギリ許されてもよいのではないかと感じてしまうし、医師の監修を受けてクリニック内で収録が行われたということなので基本的には安全性が担保されているとは考えられるものの、今の風潮的には許されないレベルだろう。番組内では、あくまで胃カメラ検査のついでにロケを行ったと説明されているが、明らかに“ロケが主”なので、この説明は世間的には納得されない。

 また、現在は医療現場における麻酔薬の不足が問題となっているなか、お笑い番組のために不必要に麻酔薬が使用されているという批判も出るのは仕方がない。総合的にみると、今回は少しやり過ぎたという印象を受ける」

(文=Business Journal編集部、協力=上昌広/医師、医療ガバナンス研究所理事長)

上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長

上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
医療ガバナンス研究所

Twitter:@KamiMasahiro

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