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アマゾン、週5日出社を義務化…日本で「在宅勤務終了→出社勤務に回帰」拡大

文=Business Journal編集部、協力=小久保重信/ニューズフロントLLPパートナー
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「amazon.co.jp」より

 米アマゾン・ドット・コムは世界の従業員について週5日出社を義務付けることを発表した。コロナ禍を受け在宅勤務やハイブリッド型勤務を導入する企業が増えていたが、海外・国内の企業では出社勤務に回帰する動きも出始めている。今回のアマゾンの決断の背景には何があるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 アマゾンは昨年2月にオフィス勤務の事務系・技術系の社員について週3日以上、出社を義務付ける「RTO(Return to Office)」を発表。社内ではこれに反発する動きが強まり、同年5月にはシアトル本社前で社員による大規模なストライキが行われたが、同年7月には社員にハブオフィス近辺への引っ越しか退職かを選択するよう求めていることも公となった。そして今回、同社は週5日出社を義務付けることを発表したが、背景には何があるのか。ニューズフロントLLPのパートナーの小久保重信氏はいう。

「アマゾンのアンディ・ジャシーCEOによる従業員宛てのメモや海外メディア報道を見る限り、経営陣は社員の働き方や組織をコロナ前の状態に戻したいと考えているようです。従業員宛のメモでは『協調・一心同体の必要性』『発明や難しい問題の解決には対面が必要』『対面によってインスピレーションが湧く』という旨が強調されており、社内に怠惰な風潮が目立ってきているため引き締めを行おうという意図があるのだと思われます。

 もう一つの目的が組織構造の簡素化です。アマゾンはコロナによる巣ごもり需要の増大に対応するために2019年から21年にかけて従業員数を約80万人から約160万人に倍増させ、オフィス従業員を約20万人から約38万人に増やしました。そこに巣ごもり需要の減退が襲い、同社は創業以来最大の人員削減を行い、現在は約153万人程度にまで減らしましたが、大量採用の弊害で中間管理職的なマネジャーが多すぎるという問題を抱えています。たとえば、会議の前の事前会議、そのまた事前会議が開かれるといった事態も起き、意思決定まで時間がかかり過ぎるようになってしまいました。経営陣としてはコロナ前の状態に戻すため、マネジャーと現場担当者の人数の比率について前者の比率を15%引き下げようとしています。

 このほか、従業員が官僚主義的なルールや無駄な業務プロセスを見つけた場合には経営陣に直接報告できる窓口も設置しています」

過度に業務効率化を追求する姿勢

 アマゾンは過度に業務効率化を追求する姿勢で知られている。アマゾン倉庫では従業員によるスキャナーの利用履歴をデータとして保管・分析し、従業員の評価や教育、業務効率の向上などに活用しているが、フランスの情報保護機関(CNIL)は今年1月、過度な監視システムを導入するなど一般データ保護規則(GDPR)違反があるとして、同社に罰金3200万ユーロ(約51億5000万円、当時)を課すことを決定した。CNILは、アマゾンのデータ保管期間が1カ月もの長期になっている点についてGDPRに違反していると判断。また、

・スキャンの間隔が1.25秒以下になるとエラーが表示される
・10分間スキャンしないと、動作していないとみなされる
・1~10分間のスキャン中断は「遅延」とみなされる

という措置についてもGDPRに違反していると判断した。

 また、2月7日付「BUSINESS INSIDER」記事によれば、社内には、同僚との業績比較や将来発揮することが期待される潜在能力などの観点から従業員を評価するための評価プロセスを記したガイドが存在し、「フォルテ(Forte)」と呼ばれる従業員評価が年1回実施され、そこで給与が決まるという。各部門のマネジャーには、所属する社員全体のうちで評価が低い下位数%の社員を退職させる「悔やまれない退職率」の割り当てや、各業績等級に一定割合の従業員をランク付けすることなどが課されているという。

出社勤務のメリット

 アマゾンの動きを受け、週5日出社の義務化は他の米IT企業でも広がっていくのか。前出・小久保氏はいう。

「米国のスタートアップなどではリモート勤務が多いようです。また、米国の大手IT企業としては、たとえばグーグルやメタは週3日出社の形態をとっていますが、アマゾンは他の大手ITとは異なり、物流施設など従業員の出社が必要な部門を数多く抱えており、その意味で現時点では他社とは一線を画す動きとなっています。また、アマゾンの経営陣は従業員によるストや労働争議が多いことに苦慮していますが、現場勤務が必須である倉庫従業員が週数日の出社だけでよいオフィス従業員に不公平感を抱かないようするという目的もあるかもしれません」

 一方、国内では在宅勤務から出社勤務に戻す動きが広まりつつあるという。大手IT企業の人事部門管理職は言う。

「在宅勤務を継続してほしいという声がある一方、出社勤務のメリットを改めて認識して『出社したい』『メンバーを出社させたい』という声が強まっているのも事実です。やはり同じチームや部署のメンバーがオフィスにいて、すぐに対面で話し合えるというのは、業務効率的に非常にメリットが大きい。どうしても自宅だとだらけてしまったり仕事をする気が起きないので、出社したほうが気持ち的にメリハリが生じて仕事がはかどるという人も少なくない。また、在宅勤務ばかりだと仕事をサボる社員も一定数存在するので、管理職としては部下たちが出社してくれたほうが安心という面もあるだろう」

アマゾン、人員削減の動き

 米アマゾン・ドット・コムは23年までに約2万7000人の削減を行い、今年に入って以降も会員向け動画配信サービス「Amazon Prime Video(アマゾン・プライム・ビデオ)」や映画・配信番組の製作スタジオで数百人、ゲーム実況配信サービス「Twitch(ツイッチ)」で500人強、薬局部門「Amazon Pharmacy」とヘルスケア部門「One Medical」で数百人を解雇した。

 アマゾンのみならず、人員解雇の波は米国IT企業全体で広がっている。2022年以降、フェイスブックを保有するメタは1万1000人以上、マイクロソフトは約1万人、ネットフリックスは約450人を削減すると発表。X(旧Twitter)は22年10月にイーロン・マスク氏による買収後、解雇された人も含め全社員の約8割にあたる6000人以上が退職したとされる。

(文=Business Journal編集部、協力=小久保重信/ニューズフロントLLPパートナー)

小久保重信/ニューズフロントLLPパートナー

小久保重信/ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、JBpress『IT最前線』や日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」で解説記事を執筆中。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。
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Twitter:@skokubo

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