27日放送の報道番組『news every.』(日本テレビ系)は、通販サイト「Amazon.co.jp(アマゾン)」の荷物を配達するドライバーに密着。アマゾンがアプリを通じてドライバーに指示する内容があまりに過酷だとして話題となっている。
『news every.』は、大手運送会社の下請け会社と契約する配達ドライバーの男性の1日に密着。男性は朝、アマゾンジャパンが提供するスマホアプリを立ち上げ、その日に配達する荷物の個数と配達ルートを確認。この日は午前便が118個、午後便は109個で合計227件。朝8時台から夜8時台まで計12時間働き、日当は約2万円。1個あたり3分で配達していく必要があった。
運送業界関係者はいう。
「この男性が使っているのかはわからないが、アマゾンの荷物を個人事業主が配達する『Amazon Flex(アマゾン・フレックス)』のアプリは、時間内に配達しきれなかったり遅配が重なるとシステム的に評価を下げられ、一定の評価以下になるとアカウントが停止されて働けなくなる。なのでドライバーは無理をしてでも配りきろうとするので、危険な運転が誘発されて事故につながる。Uber EATS(ウーバーイーツ)の場合は、配達員がアプリで1件ごとに引き受けるかどうかを選べるが、アマゾンの配達員は1日あたりの個数が決められるし、制限時間に対して荷物の個数がハンパなく多いので、ウーバーより危険という印象。
アマゾンは『働く人が働く時間を選べる』と謳っているが、事実上は業務時間を指示しているとも受け取れるので、今後、法的な面で見直しが必要になる局面が出てくるのでは」
4月からトラックドライバーやバス運転手など自動車運転者にも働き方改革関連法に基づいた時間外労働の上限規制が適用され、時間外労働の上限が年間960時間未満に制限されたが、この男性は4月以降、配送する荷物が以前より約30個増えたという。
「要は残業規制が厳しくなって企業は自社の社員ドライバーを長時間働かせられなくなったので、その代わりに個人事業主を働かせているということ。個人事業主であれば、いくら残業させてもいいというわけではないが、契約書の書面上は勤務時間を定めないなど抜け道を使えば、個人事業主をめぐる上限規制違反が闇に埋もれてしまう。荷物の個数は増える一方なのに残業規制がかかれば、こうした結果が招かれることは誰もがわかっていたこと」(同)
当サイトは2月9日付記事『アマゾン配達員が悲惨…1時間に30件配達、アルゴリズムで評価され契約解除』でアマゾン配達員の待遇・労働環境の問題点を報じていたが、以下に再掲載する。
――以下、再掲載――
「Amazon.co.jp(アマゾン)」の荷物を個人事業主が配達する仕組み「Amazon Flex(アマゾン・フレックス)」。アマゾンジャパンと業務委託契約を結ぶ20代の男性ドライバーが労働組合「Amazon Flex ユニオン」(総合サポートユニオン内)を結成し、1月16日、アマゾンに団体交渉を申し入れた。男性は同日の会見で「1時間に20個以上の荷物を配送しないといけないオファーが多い」「休憩を取る時間がなく、トイレを我慢したり、信号待ちの間におにぎりを食べて食事を済ますこともある」などと過酷な労働実態を告白。配達用車両の購入費や燃料費、各種保険料などはドライバーの自己負担となっているという。また、配達する荷物量や報酬、ドライバーに対する評価はアマゾンによるアルゴリズムで決められる。アマゾンはアマゾン・フレックスの配達員募集にあたり「働く日時を自由に選び、自分のペースで報酬を得る」とアピールしているが、その労働環境は厳しいようだ。
アマゾンは日本でサービスを開始して以降、ヤマト運輸などの宅配便事業者に配送を委託していたが、2017年にヤマトが荷物の取扱数を制限。アマゾンは配送の手段を多様化させ、各エリアの中小配送事業者を「デリバリープロバイダ」と呼び組織化する取り組みを開始。22年には地元の商店や中小企業などが配達する「Amazon Hub デリバリーパートナープログラム」を開始した。
加えて、アマゾンが直接、個人事業主に配達を委託するアマゾン・フレックスも19年に開始。黒ナンバーの軽貨物車や軽乗用車を所有する個人事業主が専用アプリに登録し、配達を行う。ドライバーはアプリでオファーされている各エリアの配達ブロック(時間帯と報酬が提示)のなかから選択して予約し、指定された配送ステーションなどで荷物をピックアップして車両に積み込み、アプリで表示されるルートを参照して荷物を配達。報酬は週1回、支払われる。
東北地方で働く男性によれば、報酬は1時間あたり約1600円であり、経費を差し引くと手取り収入は多くはない。また、報酬や荷物量、ドライバーへの評価がアルゴリズムによって決められ、評価が低いとアプリのアカウントが停止され事実上の解雇となってしまうという。こうした実情を踏まえ、男性は以下の点などを要求してアマゾンに団体交渉を申し入れている。
・Amazon Flexのオファー報酬を全国一律1時間あたり2500円以上に引き上げること
・荷量に適正な上限を設けること、及び荷量、オファーの内容そしてアカウント停止など労働条件に関わるアルゴリズムおよびその決定方法を開示すること
基準があいまいな評価
1月24日、Amazon Flex ユニオンは組合説明会を開き、アマゾン・フレックスで荷物を配送する個人事業主のドライバー約15人が出席した。総合サポートユニオン共同代表の青木耕太郎氏は「業務量が過大であることを指摘する意見が多かった」と語る。
アマゾンジャパンによると、軽貨物車ならば1時間に最大1886円、軽乗用車なら1時間に最大1650円の報酬を得られ、「1週間程度の配達で最大9万4300円も可能」という。この業務内容や報酬額を額面通りに受け取れば、ユニオンが結成されるような問題をはらんでいるようには見えないが、いくつかの問題が潜んでいる。
まずは業務量である。青木氏によると「1日の配達時間帯は5~8時間で、配達件数は1時間にあたり20~30件」という。20件なら3分間に1件、30件なら2分間に1件を配達しないと完了できない計算だが、多くのドライバーが直面しているのは、トイレに行く時間すら確保できないという問題だけではない。青木氏は実情を説明する。
「たとえば山間部や、住居が数十キロメートルの広範囲に点在するような地方、都心部でも道幅が狭くて軽貨物車が通れない一角、あるいは配達先がタワーマンションに集中しているなど、配達効率の悪いブロックを指定された場合、1日で完了できないケースが出てくる」
ドライバーの配送状況は配送センターがリアルタイムで管理しているため、当日内に未配達が発生しそうな場合は、「レスキュー」というサポート要員に連絡を入れ、担当ドライバーに合流させて、分担する荷物を受け取ったレスキューが配達する。
ただ、常時レスキューを手配できるとは限らず、その場合は未配という扱いになる。ドライバーの勤務評価は下がり、評価が一定基準を下回ると「アカウント停止」となり事実上の契約解除に至る。青木氏は「原則として指定の時間内に配達が完了しなければ未配という扱いになるが、たとえば配達時間を30分程度オーバーして完了したような場合、当日内に完了したと見なされることもあるが、それは担当者の裁量による」と指摘する。基準があいまいなのだ。
ドライバーの評価やアカウント停止を行うのは配送センターのアルゴリズムだが、その仕組みが開示されていないため、評価方法を知らないままに業務に従事するという不透明な状況に置かれている。しかも「配達を完了したにもかかわらず、アルリズムで未配と取り扱われていた例もあった」(青木氏)。アルゴリズムの正確性も問われている。
ガソリン価格の高騰もドライバーを追い詰めている。ガソリン代はドライバーの自己負担なので、所有車の減価償却費とともに報酬から差し引くと、報酬が労働の負荷の重さに見合っているとはいえない。とくに配送センターの少ない地域では、おのずと移動距離が長くなり、それだけガソリン代の負担も増えてしまう。
こうした問題の解決に向けて、Amazon Flex ユニオンはアマゾンジャパンに対して前述した事項を求め団体交渉を申し入れている。