「Amazon.co.jp(アマゾン)」の荷物を個人事業主が配達する仕組み「Amazon Flex(アマゾン・フレックス)」。アマゾンジャパンと業務委託契約を結ぶ20代の男性ドライバーが労働組合「Amazon Flex ユニオン」を結成し、16日、アマゾンに団体交渉を申し入れた。男性は同日の会見で「1時間に20個以上の荷物を配送しないといけないオファーが多い」「休憩を取る時間がなく、トイレを我慢したり、信号待ちの間におにぎりを食べて食事を済ますこともある」などと過酷な労働実態を告白。配達用車両の購入費や燃料費、各種保険料などはドライバーの自己負担となっており、経費を差し引くと実質的な手取り収入は最低賃金ほどになるという。また、配達する荷物量や報酬、ドライバーに対する評価はアマゾンによるアルゴリズムで決められ、労災保険もかけられていない。アマゾンはアマゾン・フレックスの配達員募集にあたり「働く日時を自由に選び、自分のペースで報酬を得る」とアピールしているが、その労働環境は厳しいようだ。
アマゾンは日本でサービスを開始して以降、ヤマト運輸などの宅配便事業者に配送を委託していたが、2017年にヤマトが荷物の取扱数を制限。アマゾンは配送の手段を多様化させ、各エリアの中小配送事業者を「デリバリープロバイダ」と呼び組織化する取り組みを開始。22年には地元の商店や中小企業などが配達する「Amazon Hub デリバリーパートナープログラム」を開始した。
加えて、アマゾンが直接、個人事業主に配達を委託するアマゾン・フレックスも19年に開始。黒ナンバーの軽貨物車や軽乗用車を所有する個人事業主が専用アプリに登録し、配達を行う。ドライバーはアプリでオファーされている各エリアの配達ブロック(時間帯と報酬が提示)のなかから選択して予約し、指定された配送ステーションなどで荷物をピックアップして車両に積み込み、アプリで表示されるルートを参照して荷物を配達。報酬は週1回、支払われる。
男性によれば、報酬は1時間あたり約1600円であり、経費を差し引くと手取り収入は最低賃金を若干上回る程度。また、報酬や荷物量、ドライバーへの評価がアルゴリズムによって決められ、評価が低いとアプリのアカウントが停止され事実上の解雇となってしまうという。こうした実情を踏まえ、男性は以下の点を要求してアマゾンに団体交渉を申し入れている。
・Amazon Flexのオファー報酬を全国一律1時間あたり2500円以上に引き上げること
・荷量に適正な上限を設けること、及び荷量、オファーの内容そしてアカウント停止など労働条件に関わるアルゴリズムおよびその決定方法を開示すること
・すべてのAmazon Flex配送ドライバーを労災保険に加入させる
高いスキルが必要
物流業界関係者はいう。
「最近では大手宅配業者の作業服を着ていない人が、軽貨物車で住戸を回って荷物を配達する光景は珍しくなくなったが、インターフォン越しに『アマゾンです』と言われれば、アマゾン・フレックスのドライバーである可能性がある。1日あたり200個ほど配達するというケースはザラで、1時間あたりに換算すると20個以上になる。効率的に回る配達ルートを組み立てるなど高いスキルが必要とされ、想像以上に大変な仕事だといえる。
Uber Eats(ウーバーイーツ)もアマゾンもそうだが、運営会社側は単発で仕事を委託している個人事業主について『自社の従業員、労働者ではない』というスタンスだったが、ギグワーカーの労働環境・条件の問題が表面化するなか、潮目が変わりつつある。これは時代の変化としかいいようがない」
ウーバーイーツなどのデリバリーサービスの配達員をはじめ、運営会社と雇用契約を結ばず単発で仕事を受託するギグワーカーが増加するなか、こうした事業主を労働者とみなす動きが出始めている。昨年にはアマゾンから荷物配送を委託された業者と契約する個人事業主が業務中に負傷した事案について、横須賀労働基準監督署が労災認定し、画期的な判断だとして注目された。
当サイトは23年7月17日付記事『アマゾン・フレックス配送員の過酷な労働…休みなしで200個配り日給1万円台』でアマゾン・フレックスの配達ドライバーの労働実態を報じていたが、以下に改めて再掲載する(一部抜粋)。
※以下、数字・肩書・時間表記等は掲載当時のまま
――以下、再掲載――
個人事業主として配送業を行える、ネット通販「Amazon.co.jp(アマゾン)」の「アマゾン・フレックス」。専用アプリに登録した個人が、アプリで決められた荷物を届けて報酬を受け取るというサービス。働く時間や場所は自分の裁量で決められるため「自由度の高い働き方」という魅力はあるものの、一部ネット上では「休みなしで働いて日給15000円…昼食も食べる時間もない」「配送量と報酬の割が合わないと感じる」などのコメントが寄せられている。他にも「社保なし、車代・任意保険・ガソリン代は自費なので、結局そんなにもらえない」「時間効率を上げたいがために雑な運転になり、事故率が高くなっている印象」といったネガティブな声が。
では、アマゾン・フレックスは個人事業主にとって労力に見合う働き方といえるのだろうか。物流ジャーナリストの坂田良平氏に聞いた。
アマゾン・フレックス配送員は基本的に誰でも始められる
はじめにアマゾン・フレックスの仕組みについて整理しておこう。
「アマゾン・フレックスを始めるためには軽自動車(軽バンが中心だが、現在は軽乗用車でも可能)を自身で用意することになりますが、法律上営業用ナンバーを取らなければなりません。ただ手続きは簡単で、陸運局に行き30分程度で許可が取れます。なおかつ軽バンは、新車で150~200万円くらい、中古だと最低10万円ほどで購入可能なので、独立して一国一城の主になりたいと考える人にとっては非常に始めやすいといえるでしょう。
アマゾンは現在、荷物を配達するチャンネルが3つあります。まず1つ目は運送業者に依頼する方法で、ヤマト運輸などの宅配便事業者や協力運送会社に頼むケースです。2つ目はアマゾン・ハブというサービスで、個人商店などにアマゾンからまとめて荷物を届け、そこから届けてもらおうという仕組み(自転車や徒歩で配るイメージ)が始まっています。イメージとしては、個人商店や飲食店などの店主や従業員などが休憩時間中に配達のアルバイトをする感じです。そして今回のアマゾン・フレックスとは貨物軽自動車運送の個人事業主で、登録するだけで配達の仕事ができる業務委託の形です。アマゾンは経営戦略として、お客様に荷物を届ける方法を3つに分け、配達リソースを分散し確保すると同時に、配達コスト上昇といったリスクを分散させているのです」(坂田氏)
現在のアマゾン・フレックス配送員の待遇は、始まった当初から変わっているという。
「アマゾン・フレックスが始まった当初は1つ配送したら160円で、日給換算すると2万6000円近く稼げていました。余談ですが、初期はアマゾンで使える商品券を1カ月4万円もらえるということもあったそうです。ところがこれは一時的な人集めの方法にすぎず、2年半前くらいから日給制になり、1日あたり200個くらいという事実上のノルマが課されるようなってきました」(同)
素人には甘くない配送業界
アマゾン・フレックスに対し、SNS上では「労働環境が過酷」「1日の配達件数が多すぎる」といった声も寄せられている。
「200個配って日給1万8000円。8時間で配るとすると、1時間で25個、1個あたり3分以内に配達する計算になります。これは、かなり無理がある数字です。私はかつて引っ越し業者のトラックドライバーでした。引っ越しドライバーとしてはスキルが高いと自負していましたが、退職後に少しだけ宅配のアルバイトをした際、全然目標を達成できませんでした。そもそも個人宅への配達の仕事自体が、素人にとって大変だと思います。
アマゾン・フレックスはドライバーにアプリをインストールさせることで、荷物の配達状況を管理しています。カーナビのような機能が付いており、配達ルートまで指定されるので、『管理され続けているようだ』『個人事業主としての自由がない』などと感じ、嫌がる人もいるようです」(同)
ドライバーの事故率や運転の質はどのような状況なのだろうか。
「一般論として、運転というのは精神的な要因に大きく左右されます。もちろん、寝不足や二日酔いといった状態はよくありません。一部の大手運送会社では心に悩みを抱えている従業員をチェックすることで、事故対策を図り始めているところもあります。
対してアマゾン・フレックスのドライバーは個人事業主なので、体調管理や精神的な面はすべて自己管理です。運送会社の鉄則として、ドライバーにプレッシャーをかけてはならないにもかかわらず、アマゾンは平気で過酷な状況を与えてしまっている印象です」(同)
時給にしておよそ1650円?
では、アマゾン・フレックスは素人にとってハードルが高い働き方なのだろうか。
「『始めるのは簡単だが、生き残るのは難しい世界』といえるでしょう。誰でもできる仕事ではなく、経験とそこから得た知恵がないと効率よく仕事をこなすことができません。ましてや個人事業主として働きたいと考える人のなかには、『組織のなかに入って枠にハマるのが嫌』な人もいるかもしれません。ところが、徹底的にアプリに管理されて昼食すら満足に取れない状況が、『果たして精神的に受け入れられますか?』という話になります」(同)
アマゾン・フレックスの公式サイトによれば、時給にしておよそ1650円もらえるとの記載もあったが、実際の給与体系はどのようになっているのだろうか。
「アマゾン・フレックスの最新の報酬形態については詳しく把握していませんが、歩合制ではなく、配達する個数とスケジュールはアプリが指定するというかたちになっていたはずです」(同)
会社員よりハードなアマゾン・フレックス
ここまでの話を振り返ると、アマゾン・フレックスは「割に合う仕事」といえないのではないだろうか。
「結局、その人が『何を求めるか』という話になると思います。運送会社のドライバーをやっていれば、日常点検はドライバーが行うものの、トラックのリース契約や自動車保険の加入、メンテナンスは会社でやってくれるので、ドライバーはドライバーとしての仕事に集中できます。
一方の個人事業主は、すべての雑務をすべてやらなければなりません。結局雑務を行ううえで必要な手間や経費を考えると、会社員として普通に給料をもらったほうが得だと考える人がいても不思議ではありません。一方、組織のしがらみから解放され1人で働くことが精神的に楽だということで、企業勤めを辞めて軽貨物自動車運送事業者になった人もいます。
また『稼ぐぞ』という気持ちで始めても、日給制なのでどこまでも稼げるわけではありません。アマゾン・フレックスの配送員をやりながら、いくつか職の掛け持ちをしている人もいます」(同)
どのような働き方でもメリット・デメリットは必ずついて回るもの。アマゾン・フレックスを始めようか迷っている人は、「仕事をするうえで何が重要か」を明確にしてから考えるといいのかもしれない。