「PS5(編注:ソニー『PlayStation 5』)配達員にパクられました。さらには代わりの物を送ってもらえずPS5は無かったことになりました。」
今年5月23日、こんな衝撃的なツイートが話題になった。このツイートの投稿者は「amazon.co.jp(アマゾン)」で注文したのだが、ネット上ではアマゾンの配達システムへの懸念もささやかれる事態となった。だが、実際のところ配達員が商品を盗むということはありうるのだろうか。
アマゾン側のシステム不備の有無などについて、アマゾン出品者へのコンサルティングを手掛けるアグザルファ株式会社の辻光洋氏に話を聞いた。
アマゾンが個人事業主と契約するサービス「アマゾンフレックス」
まず、アマゾンにおける配達業者にはどのような種類があるのか。
「やはり多いのはヤマト、日本郵便、デリバリープロバイダです。デリバリープロバイダとはアマゾンと提携をしている地域限定の配送業者のことで、最近ではこのデリバリープロバイダによる配送割合も増えてきています。現在アマゾンは、全国で9社の配送業者と契約していると公表しています」(辻氏)
今回の事件を起こしたのは個人事業主の配達員だとみられているが、個人事業主もこの9社のひとつなのだろうか。
「いえ、おそらくですが、今述べた業者とはまた別の業態である『アマゾンフレックス』というシステムを利用した、個人事業主の配達員だったのではないでしょうか。『アマゾンフレックス』とは、国内では2019年に正式にスタートした業態で、軽貨物車や電動自転車を持っている個人事業主とアマゾンが直接業務委託契約を結び、荷物を配送するというもの。“アマゾン版のウーバー”といえばわかりやすいでしょう。
私の知る限り、この業態以外でアマゾンが個人事業主と手を組んでいる事例はないので、今回のトラブルの原因が個人事業主であるとするならば、十中八九、この『アマゾンフレックス』で契約していると思います。ただ前提として、今回のトラブルに関して実際にどういう問題が起こったのかはアマゾン側が開示しておらず、開示する義務もないということを念頭に置き、私としてはあくまで予測としてお話ししているということをご理解ください」(辻氏)
こういった話を聞くと、「アマゾンフレックス」の個人事業主の配送を避けたいと思う方もいるだろうが、辻氏によると「残念ながら消費者側は選べない」のだという。
「確かに[t1] こういった謎の紛失問題が出てくると、消費者視点では“大手業者を選べば安心だ”と思うでしょう。ですがアマゾン側からすると、消費者からの依頼が大手のみに集中しすぎるといった状況になると、配達効率を悪化させる恐れも出るわけです」(辻氏)
配達員が盗んだのではない? その可能性が限りなく低いといえる理由
今回被害にあったツイート投稿者は、「PS5」を受け取っていないにもかかわらずアマゾン上で「配達完了」の連絡を受けた。アマゾンに問い合わせたところ、「配達を行った個人事業主の配送員は、所定の手順を踏まず、配達完了と処理をしている状況であることがわかりました」との返事があったそうだが、これはどういうことなのか。
「アマゾンに確認を取ったところ、『配達完了』のステータスになるには、配達後に次のような二つの手順が必要になるとのことでした。一つめは、置き配の場合、商品を置いた場所の写真を必ず撮り、アマゾンと消費者に送ること。二つめは、配達員の持っている端末からアマゾン側に配達完了の連絡を行うこと。
アマゾン側の返答である『所定の手順を踏まず』という一文から察するに、写真撮影を行なっていなかったということが、個人事業主の配達員が犯したミスなのではないかと推察できます」(辻氏)
では、Twitterで語られているような「配達員が商品を持ち去った」というわけではなく、そもそも正確に届けられていなかった可能性もありそうだ。
「そうですね。配達員が商品を持ち去ったというのは、考えづらいでしょう。根拠としては、商品に直接届け先伝票を貼ったような商品でない限り、アマゾンではほぼすべての商品をダンボール梱包しており、外側に貼る伝票にすら商品の内容は書かないルールになっているからです。基本的には、配達員は商品の中身が何かを知るすべがない、ということになります。
そもそも商品を盗むのは犯罪であることはいうまでもなく、置き配で紛失があった場合、配達員が疑われるリスクも高いので、そういった背景を踏まえると中身もわからず犯行に及ぶとは考えづらい。ですからあくまで私の推測ではありますが、配達員が違う家に届けてしまい、それを誤配先の住人がしめしめと自分のものにしてしまった――というのが真相かもしれませんね」(辻氏)
では、アマゾン側の「配達完了」までのシステムに不備はなかったのだろうか。
「事件後に被害者がアマゾンから説明されたという内容によれば、『配達業者が現場に到着したかどうかはアマゾンでは調べられない』とのことでした。この返答は一見すると無責任に感じるかもしれませんが、アマゾンに限らず配達業者全般において、配達員が現場に行ったかどうかという問題は、究極的には“配達員本人にしかわからない”ものだと思います。ですから、そうした視点で考えるとアマゾン側にこれを根拠にシステム不備だと非難をするのは、少々酷かなと思います。
ただアマゾンにも、どこの配達先にどの配達業者が向かっているということを把握するシステムはすでにあり、こうした情報は細かくアマゾンのデータベースに保管されているため、今後は改善されていくかもしれません」(辻氏)
今回の件では、最終的に再配達ではなく返金対応となったそうだ。再配達不可の理由としてアマゾンは「セキュリティ上お客様のアカウントを勝手に操作し、当サイト側で注文するということができないため」と説明したということだが、納得しがたい印象も受ける。
「それには私も違和感を覚えました。おそらくアマゾン側としては、PS5が人気商品ということもありますが、在庫がない状態から商品を再入荷して再送するということは社のルール的にやっていない、ということを説明したかったのでしょう。被害者からすればいささか納得しづらい理由ではありますが、アマゾンとしても都度対応していくことは難しいことも理解できます」(辻氏)
配達の確実性を上げる画期的なシステムが生まれるまでは、消費者側は不確実性をある程度許容しなければならないのだろうか。