注文した覚えのない商品が家に届いた――。今、通販サイト「amazon.co.jp」(アマゾン)では、そうしたプチトラブルが多発中だという。なぜだろうと注文履歴を遡ってみると、その原因が発覚する。実は、過去に同商品を買った際に、通常購入ではなく、間違えて「定期おトク便」になってしまっていたというケースが頻発しているのだ。
アマゾンでは、例えば日用品や飲食物といった商品は、「定期おトク便」を選択して購入できるようになっている場合がある。「定期おトク便」に設定すると、定期的に商品が届き、通常よりも低い単価で購入することができるのだ。
しかし消費者が注意深く設定を確認せずに、「定期おトク便」のまま商品を購入してしまうと、注文した覚えのない商品が家に届くというプチトラブルが起こってしまうのである。
なぜ、こうしたミスが多発するのだろうか。その疑問とシステムの問題点について、ITジャーナリスト・三上洋氏に話を聞いた。
悪質な「定期おトク便」システム、見えにくい落とし穴
多くの消費者が間違えて「定期おトク便」を選んでしまうのは、一体なぜだろうか。
「問題となる原因は2つあります。
ひとつ目に、商品ページの作りです。一般的には、商品を通常購入するか定期購入するかは、それぞれ別の商品ページを用意して消費者に選ばせるのが一般的でしょう。しかし、アマゾンではひとつの商品ページ内において、通常購入にするか『定期おトク便』にするか選択させる仕様になっています。
2つ目に、その商品ページ内で、『定期おトク便』の選択がデフォルト設定になってしまっていることです。『定期おトク便』の対象商品になっているものは、いつもの感覚でクリックを進めてしまうと、気づかないまま『定期おトク便』として購入してしまいます。
しかも定期便の間隔もデフォルトで勝手に設定してあるので、『2カ月に1ケース』などの頻度が自動で選ばれています。そうした背景から、定期購入したことに気がつかずに商品が配送されてくるという現象が起きてしまうんです」(三上氏)
問題点はそれだけではないという。
「さらに、通常の感覚では定期購入するべきではない品物まで『定期おトク便』に設定されている事例もあるんです。例えばゲームコントローラーやブレスレット、枕などがそれに該当しますね」(三上氏)
なるほど、確かにティッシュやシャンプーといった消耗品ならまだしも、明らかに定期購入しないような品物も「定期おトク便」設定になっているというのは違和感を覚える。かなりあくどい設定のようにも感じるが、やはりそこには企業側の“悪意”があると三上氏は話す。
「もちろん、きちんと商品ページを確認して買い進めれば、『定期おトク便』であることは明記されてあるわけです。ですから騙しているわけでも詐欺でもない。ですが、アマゾンは2、3クリックで簡単に商品を買える設計になっていますよね。そういった、“安心してポチれる仕組み”を利用して、消費者が望まない消費行動に導いているという“悪意”がアマゾン側にはあるといえるわけです。こうしたケースはここ数年で問題になっている『ダークパターン』と呼ばれるもので、アメリカでは訴訟問題に発展しています」(三上氏)
「ダークパターン」とは?
ダークパターンには具体的にどういった事例があるのか。
「例えばネットで商品を購入する際に、楽天市場などはメールマガジンの受信設定が自動選択になっています。ほかには、解約ボタンは薄く小さいのに、継続や加入のボタンは大きく目立つようにしてあるといったサイトもありますね。
さらに悪質のものだと、noindex(ノーインデックス)といって解約のページがグーグルの検索に引っかからなくなる設定にしているサイトもあります。携帯電話キャリアのNTTドコモとKDDIがそれを行っていたことが今年1月に発覚し、総務省から指導が入りました。
そういったデザインや手続きに過度な変化を加えて消費者を騙し、操ることで消費者にとって不利なものにし、サイト側の利益になるように誘導する手法全般をダークパターンと呼びます」(三上氏)
そういったダークパターンは、アメリカでは日本以上に社会問題になっているそうだ。
「アマゾンプライムを解約するために、10~20回ほどクリックさせられた末にページ内の隅っこに解約ボタンがある――そういった作りになっているとして、アマゾンは今年1月にアメリカの消費者団体から提訴されています。まだ世界レベルで問題視されているわけではありませんが、アメリカ・カリフォルニア州では法改正によって強い規制がなされ、ダークパターンについて本格的な検討が始まっていますね」(三上氏)
「定期おトク便」がダークパターンとして規制されない理由
三上氏の解説を聞く限り、アマゾンの「定期おトク便」の設定もダークパターンに該当するように思えるが――。
「『定期おトク便』の設定も十分ダークパターンと呼べるでしょう。ただ、それ自体に違法性はないんです。“初期設定になっている”というだけで、『定期便』であることはきちんと明記してありますからね。私の知る限りでは、日本ではこの手のダークパターンに対するなんらかの規制をするようなガイドラインや法律はありません。ですからそういう意味では『定期おトク便』の設定は問題ないのです」(三上氏)
そうはいっても、消費者目線に立つと腹立たしい。自主規制という形でアマゾンはこの設定を改善するつもりはないのだろうか。
「特にないと思います。例えば“初回無料の化粧品を買わせておいて、よくよく見ると6カ月で10万円の代金でした”といった詐欺のような売り方に対しては、消費者庁も強く規制しています。ですが、『定期おトク便』に関してはそうした誤認表示ではないし、法律にも触れていないということで、表示方法を変える動きも今のところはみられません。
誤認表示ではないという意味では、これから法規制が整っていくことも考えにくいです。法律に触れていない部分なので、ダークパターンについて社会的論議が進まないとアマゾンも現状のままなのではないでしょうか」(三上氏)
そんな現状を鑑みて、三上氏は消費者庁などの対応に期待したいという。
「現状で間違って商品が届いて困っている人も多いと思いますので、今後は消費者庁がある程度指導していくなり、ガイドラインを作るなりしてもらいたいですね。『定期おトク便』は法律に抵触する部分ではないので、ガイドラインで呼びかけるべきところです。あるいは、国の予算の支援を受ける第三者団体を作って、ダークパターンを使っている会社に名指しで改善を呼びかけるようなやり方でもいいかもしれません。
ただ、そもそも定期購入で商品単価を安くするという手法は、さまざまなサイトで行われていることです。そのなかでダークパターンを使っている会社はアマゾンだけではないですから、ポチる前に各自でよく確認してから購入することが大切。自分自身でダークパターンに引っかからないように自衛していくことが一番大事なことだと思います」(三上氏)
確かに通販サイトへの過信は禁物なのかもしれない。購入する前に、自身が望んでいない条件に設定されていないかどうかは、自身でよく確認すべきところだろう。
(文=二階堂銀河/A4studio)