米プロバスケットボール(NBA)、ロサンゼルス・レイカーズの八村塁が、日本バスケットボール協会(JBA)をたて続けに公然と批判し、物議を醸している。批判の矛先は主に、JBAの運営方針や強化体制、監督人事に向けられている。八村は日本代表でプレーしたいとの思いを強調しつつも、現在、男子日本代表の指揮を執るトム・ホーバス監督の下での代表入りについては拒否する構えで、JBAに対しても不信感をあらわにしており、事実上の決別宣言と受け取る向きも多い。一方で、スポーツ新聞記者の間からは八村のほうに問題があるとの指摘も上がっている。
NBAで活躍を続けるレイカーズの八村塁が、JBAとの溝を明らかにしたのは11月14日(現地時間13日)だった。
「日本代表としてずっとやってきてて、日本代表のやり方というか、そういうところがあまり僕としてはうれしくないところがあって。僕もNBAでやっているなかで、子どもたちのためとか、日本のバスケを強くするためにやっている。けど、日本代表のなかでその目的ではなく、お金の目的があるような気がする」
JBAが、日本バスケを強くすることよりも利益優先になっているのではないかと、運営方針に疑問を投げかけたのだ。続けて、監督人事についても「男子のことがわかっている、プロとしてもコーチをやったことがある、代表にふさわしい人になってほしかった」と、トム・ホーバス監督を日本代表監督にはふさわしくないと批判し、物議を醸すことになった。
今年行われたパリ五輪において、3戦3敗で2大会連続となる1次リーグ敗退、出場12チーム中11位に終わり、2028年のロサンゼルス五輪に向けて強化が求められるなか、日本のエースとなるべき人物が公然と代表監督と協会を批判したわけで、その発言は見過ごせない。
JBAは八村に寄り添う姿勢を見せるが、八村は不信感あらわ
この八村の発言を受けてJBAの渡邊信治事務総長は20日、「重く受け止めている。我々のなかでミスコミュニケーションがあり、負担をかけてしまった」と謝罪した。スポーツ新聞の記者は、この渡邊事務総長の発言を「異例」だと驚きを持って受け止める。
「一般的に、一アスリートが監督や所属団体の批判をすれば、厳重注意や罰金、追放処分といった重い処罰の対象となります。ましてや、不祥事などの指摘ではなく、監督の資質を問う発言や協会の強化体制への疑問は、内部で処理すべき問題といえ、マスコミの前で公に発言したことは明らかに不適切です。JBAへの不信感が強いことの裏返しともいえますが、事務総長は謝罪することでJBA側に非があるとの姿勢を示し、八村に対して歩み寄った格好です。それだけ、JBAは八村を代表チームにおける大事なピースだと認識しているということでしょう」
しかし、渡邊事務総長の発言を受けても、八村は批判を続ける。24日、自身は代表でプレーはしたいとしつつ、「僕は勝ちたいからやっている。日本のバスケのためを思って言っているだけ。そういう(強化より利益優先の)方針で行っている日本代表ではプレーしたくありません」と語り、事実上の代表との決別宣言をした。
さらにホーバス監督について、「世界のレベルの練習の仕方ではないし、ミーティングもそうだし、フィルムのやり方も世界レベルではないんじゃないかなと思う」と、指導方法が世界レベルではないとの見解を示した。続けて、女子日本代表を率いて実績を残したとはいえ、男子プロの指導歴がないことを疑問視し、続投を決めたJBAに対しても不信感をあらわにした。
渡邊事務総長に対しても、「正直、本当のことを言っていない」と非難する。「僕にコミュニケーションは何もなかったし、パブリック(公の場)にそうやって嘘をつくのはよくないんじゃないか」と述べ、「プレーヤーファーストという精神は、あまり僕は見られない。自分たちの利益になることを先にやって、そのお金を何に使っているか、僕はわからない」とあらためてJBAの利益優先体質を厳しく糾弾した。この八村の発言に対しても、前出の記者は疑問視する。
「確かに八村は世界トップのリーグにおいてプレーをしていますが、そこで得たことを代表に還元すればいいのであって、日本代表で行われている練習やミーティングがNBAと異なるからといって、『ホーバス監督は世界レベルではない』と批判するのはお門違いでしょう。NBAに比べて日本の遅れている部分があるのは間違いありませんが、チームの中で話し合うべき内容です。
バスケは高い実力を持った選手が一人入るだけで得点力や守備力が大きく上がるものですが、それでもチームスポーツなので連携は欠かせません。八村が代表チームに入った際、得点力は上がりましたが、独りよがりなプレーが随所に見られ、浮いた感もありました。
つまり、八村の指摘する内容自体は間違っていないのでしょうが、その方法が間違っており、独りよがりになっているといえます。監督の指導方法に納得がいかないのであれば、練習中に話し合うべきですし、ミーティング方法に疑問があれば、その場で話すべきです。ましてや、監督としての資質をメディアの前で否定するというのは人格否定にも通じるもので、いわば“モラハラ”です。プロのアスリートが取るべき対応としては不適切だったと言わざるを得ません」
Business Journal編集部はJBAに、八村の発言をどのように受け止めているか、またお金の使い方が不透明との指摘について説明を求めているが、これまでのところ回答はなく、公式見解としても「追加のコメント発表、メディア対応等の予定はありません」と発表しているため、返答が得られる見込みは低いが、返答があれば追記する。
JBAは「ホーバス監督のもとでロサンゼルス五輪に向けて進んでいく決定が変わることはない」と発表し、八村の発言に人事や強化方針が左右されないことを示唆している。再び八村が日本代表でプレーすることはないのかもしれない。
(文=Business Journal編集部)