「食べログ離れ」どころか売上は毎年20%成長…徹底したアプリ改善と店舗支援

●この記事のポイント
・食べログ、月間PV数は23億を超え、年間売上は約330億円と過去最高を更新
・オンボーディングチームが店舗に対し、ネット予約の初期設定や操作方法のレクチャーなど手厚いサポートを実施
・アプリのコンテンツを充実させ、UIの改善を積み重ねることで多くのユーザーを獲得
数年前からメディアやインターネット上では「若者の食べログ離れ」が進んでいるといわれているが、「食べログ」を運営するカカクコムの発表によれば、サイトの月間ページビュー(PV)数は23億を超え、年間売上は約330億円(25年3月期実績)と、現在も同事業の売上は対前年比で約20%増の成長を続け、過去最高を更新しているという。では、なぜ「食べログ離れ」などといわれるのか、そして、事業が順調に成長している理由はなんなのか。「食べログ」事業を総括するカカクコム上級執行役員・鴻池拓氏に話を聞いた。
●目次
――数字ベースでは好調なのになぜ「若者の食べログ離れ」と言われたのでしょうか。
鴻池氏 以前から我々のサービスは、対象を若い方に絞った場合、弱い部分があるんです。例えば学生さんは社会人に比べ、会食やミーティングのためにお店を予約する場面は少ないですよね。また社会人は営業や出張で知らない街に行く機会が多いため、学生さんに比べ「ここにはどんなお店があるのかな?」と検索する場面が多くなります。このため、「20代半ばからよく使うようになった」というユーザーが多いのです。
またユーザーの皆さんが飲食店を探す時にインスタグラムやGoogleマップを使うなど、以前よりお店探しの手段が多様化しており、それらが「食べログ離れ」と言われる原因になったのかもしれません。しかし食べログが使われなくなったということではなく、インスタやGoogleマップなどと食べログは併用されている状況だと考えています。
――口コミの評価に関し、信頼性を問う声もありました。
鴻池氏 当然ですが、特定の業界やお店だけ評価を変えるようなことはありません。我々は参考になるコンテンツを提供できているかどうかを重視しており、その観点で算出方法を改善しています。例えば点数は単純平均ではありません。初めて投稿した方より、100件、1000件と口コミを投稿して下さるような外食経験が豊富な方の評価のほうが影響度は大きくなります。
――確かに私も、★3.7以上は神、★3.5あれば「おいしい!」、★3.2~3.3なら「ちゃんとおいしい」か「好みがわかれる店かも?」といった形で参考にしています。ただしなぜかラーメン屋さんの評価が高くなりがち、とも思っているのですが?
鴻池氏 食べログは影響度を持つユーザーからより多くの高い評価が集まることで、点数が上がる仕組みになっています。ラーメン屋さんは気軽に行ける価格帯でファンも多いため、口コミの件数が増えやすく、その結果として評価が付きやすいということはあるかもしれません。
――なるほど。いずれにせよ「食べログ離れ」はないということですか。
鴻池氏 サービス利用者はブラウザベースで1億人を超え、なかでもアプリユーザー数は毎年10%以上、ネット予約人数に至っては毎年30%以上伸びています。
スタッフが全国のお店に手厚いサポートを実施
――では逆に、ユーザー数も業績も伸びている理由は。
鴻池氏 様々な要因がありますが、中でも大きいのは、食べログでネット予約できるお店が増えたことです。
私たちは2020年頃から、サイトやアプリからシームレスに予約がとれるお店を増やすため努力を重ねてきました。例えばシステムはお店に無料で提供し、手数料はネット予約をした上で実際にご来店いただいたお客様の人数に応じていただいています。これならお店にリスクはありません。
さらに、導入時にはスタッフが全国のお店に手厚いサポートを実施しています。
――飲食店の経営者の中には、IT機器を扱うのが苦手な方も多いでしょうからね。
鴻池氏 飲食店さんがDXを不安に感じるのは、オペレーションが可能かどうかなんです。そこで当社は「オンボーディングチーム」が1時間以上かけ、お店の方と一緒にネット予約の初期設定を行い、操作方法のレクチャーまでさせて頂く、といった手厚いサポートを1軒1軒徹底しています。
こうして予約がとれるお店が増えると、ユーザーは「食べログならそのまま予約できる」と使ってくれるようになり、ユーザーが増えれば、「うちにも導入したい」と言って下さる飲食店さんが増えます。そんな、いいスパイラルに入っているのです。
――コロナの頃から将来を見越して実施した戦略が当たった、ということですね。
鴻池氏 はい。食べログを便利に使っていただくためには、いかに基本的なことをちゃんとやるかが大切なんです。コンテンツが充実し、UI(ユーザーインターフェース)が使いやすく、アプリも速く動く……こういったことの積み重ねで多くの方にご利用いただけている、という今があります。
また、お店選びの参考になる口コミを多数集めることにも努力を重ねています。例えば口コミを投稿して下さる方のための「食べログレビュアーアワード」や、口コミ投稿すると最大1万ポイントが当たるキャンペーンの実施などが挙げられます。
一つひとつの口コミを確認するなど運用には非常に注力
――他の口コミメディアと比較して、口コミの質の違い、というものはあるのでしょうか。
鴻池氏 当社の口コミには満足した内容も不満足だった内容も、両方掲載していますが、「誹謗中傷」は掲載されないという特徴があります。なかには「それ(誹謗中傷)も含めて読みたい」というユーザーもいますが、見て不愉快になることがないよう、一つひとつの口コミを確認するなど運用には非常に注力しています。その点に安心感を持つユーザーも多いんです。
――そういった細やかな対応は「Googleマップ」のようなグローバル企業のサービスにはない特徴ですね。
鴻池氏 加えて、詳しいレビューを書かれる方が多いのです、口コミを見ていただければ感じられると思いますが、純粋に「素敵な体験を伝えたい」という方が多く、お店の歴史や雰囲気、料理についての細やかな情報、お写真など、読む人にとって参考になる情報をお寄せくださっています。
参考になる口コミを書くとフォロワーがついたりいいねが送られたり、といったことがあるため、レビュアーの方たちのモチベーションも高いのかな、と感じます。
――では最後に、今後、実施していきたいことは。
鴻池氏 インバウンド対応をより充実させていきたいですね。食べログ多言語版では、英語、中国語の簡体字・繁体字、韓国語でインバウンド予約が可能です。また食べログの店舗会員向けに、「インバウンド向けモバイルメニュー」というサービスも実施しています。来店した訪日外国人のお客様がスマートフォンで専用QRを読み取ると、外国語に翻訳されたメニューを閲覧できるもので、店舗会員であれば無料でご利用いただけます。一般的に使われている翻訳アプリも便利ですが、当社のサービスは飲食店での利用に特化しているため翻訳の精度が高く、お店の方からも「助かったよ」と高く評価されているんですよ。
――飲食店さんとお客さんを繋ぐインフラのようなものですね。
鴻池氏 加えて将来は、お子様連れで来店できるかどうか、バリアフリーへの対応状況はどうか、あるいは文化や宗教、健康上の理由から特定の食材を避けたい方への情報などもお伝えしたいと思っています。現在は、情報の正確性をどのように精査すべきか答えを探っている段階ですが、今後はこういった社会的に必要とされるサービスも充実させていきたいと考えています。
点数を算出するアルゴリズムの詳細を公開していない理由
記者の調べだが、「食べログ離れ」を指摘する記事は具体的な数字が乏しい。ネガティブな記事には一定数のファンがいるため、閲覧数を稼ぐことができる。そしてWEBメディアは、テレビの視聴率同様、閲覧数を稼ぐことで収益が上がる。故にメディアのなかには「叩ける弱者(反論してこない企業や著名人)」を探しているところもある。またXなどSNSのコメントを利用すれば取材に費用もかからない。イコール、制作費が少なく、多くの読者に読まれるコスパが良い記事をつくれるのだ。
ちなみに食べログは点数の算出基準について公開しているが、点数を算出するアルゴリズムの詳細が公開していない。その理由について食べログは、公開することによって不正に対策をする業者や店舗が出てくることを防ぐためだと説明している。
(取材/文=夏目幸明/経済ジャーナリスト)