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話題のNetflix『マッド・ユニコーン』に見る、活況を呈すタイのスタートアップ環境の最前線と課題

2025.08.03 2025.08.02 11:41 企業
話題のNetflix『マッド・ユニコーン』に見る、活況を呈すタイのスタートアップ環境の最前線と課題の画像1
Netflix『マッド・ユニコーン』

●この記事のポイント
・Netflixで配信中のタイのドラマ『マッド・ユニコーン』が話題
・モデルのスタートアップ、フラッシュ・エクスプレスはタイ初のユニコーン企業といわれる存在
・タイのベンチャー・スタートアップ環境は、政府の「Thailand 4.0」戦略やデジタル経済の急速な成長に支えられ活発化

 動画配信サイト「Netflix(ネットフリックス)」で配信中のタイのドラマ『マッド・ユニコーン』が話題を呼んでいる。主人公のサンティは辺境の衰退する村で中国系の両親の家庭で育ち、貧困を脱出するためにタイの首都・バンコクに出て、成長が目覚ましい宅配事業での成功を賭けて「サンダー・エクスプレス」というスタートアップを起業。天才的なプログラマーや財務担当などの仲間の力を得ながら、激しい生存競争が繰り広げられる同市場で、競合他社からの妨害行為や取引先企業からの裏切りなど次々に降りかかる難題に悪戦苦闘。成功に向けて邁進(まいしん)するというストーリーだ。日本では5月に配信がスタートし、間もなく日本でも企業経営者などから絶賛の声が寄せられるなど話題に。実はこのドラマには、モデルとなる実在の企業がある。その企業とは、コムサン・リー氏が2017年に創業した物流スタートアップ、Flash Express(フラッシュ・エクスプレス)。競合他社を大きく下回る低価格の配送料やDX化による効率化で急成長し、タイ初のユニコーン企業(創業10年以上で企業評価額10億ドル以上)といわれる存在に。現在では約1万人の従業員を抱える大企業となっている。そんなフラッシュ・エクスプレスとは、どのような企業なのか。また、タイのスタートアップをめぐる状況はどうなっているのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

AIやロボットを活用した自動化にも注力

 フラッシュ・エクスプレスが急成長を遂げた理由について、愛宕山総合会計事務所タイ現地法人、Asset & Accounting Advisors の溝口陽平氏はいう。

「フラッシュ・エクスプレスは2017年に設立されたタイ発の物流スタートアップで、全国77県をカバーする宅配ネットワークを持ち、365日無休で集荷・配達を行っています。個人・法人向けに低価格でサービスを提供し、AIやロボットを活用した自動化にも注力。小口配送に加え、大型荷物、倉庫管理、金融サービスなども展開し、ワンストップの物流ソリューションを実現しています。競合他社との差別化として、無料集荷、高額補償制度、広範な自社インフラが強みです。 

 筆者はタイのECプラットフォームをしばしば利用しますが、最近はタイ郵便局やKerry Expressという主流の中にフラッシュ・エクスプレスが加わったという肌感覚です。料金の手頃さや配達スピードは魅力ですが、荷物の取り扱いに関してはやや粗さを感じる場面もあり、今後の改善に期待したいところです」

規制環境の不確実性といった重要な課題

 現在、タイのベンチャーやスタートアップを取り巻く環境はどのような状況なのか。タイのビジネス界は、新興企業が次々と立ち上がるような活性化された状況なのか。

「タイのベンチャー・スタートアップ環境は、政府の『Thailand 4.0』戦略やデジタル経済の急速な成長に支えられ活発化しています。特にAI、サステナビリティ技術、フィンテック分野が成長を牽引しており、現在は約2,100社のスタートアップが存在しています。なかでもフラッシュ・エクスプレスやAscend Moneyなど、複数のユニコーン企業も誕生しています。

 しかし、このような成長の裏側には高度な技術人材の不足、ミドル~レイトステージにおける資金調達の困難さ、そして規制環境の不確実性といった重要な課題が存在します。なかでも規制環境の不確実性は、投資家や外資系企業にとって最も深刻なリスクの一つとされています。

 具体例として、タイでは2022年に嗜好用大麻が合法化され、国内外から数千万~数億バーツ規模の投資が一気に流入しました。しかし2025年現在、政府は再び大麻を違法薬物として規制対象に戻す方針を正式に打ち出しており、すでに事業を展開している企業にとっては大きな打撃となっています。健康や青少年保護といった建前の一方で、政争や利権争いが方針転換の背景にあるとの見方もあり、法制度や規制の予測可能性に疑問符が付く状況です。

 このように、タイには投資家や起業家が将来の見通しを立てにくくなるような不透明な要素が依然として存在しています。これらの課題を克服し、人材育成、資金調達環境の整備、そして規制の透明性・安定性の確保を進めることが、タイがASEAN地域のデジタル経済ハブとしての地位をさらに確立するための鍵となるでしょう」(溝口氏)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=溝口陽平/Asset & Accounting Advisors)