紙パックの先へ―食の未来を支えるテトラパック、その知られざる挑戦

あなたが最後に牛乳パックを手にしたとき、その背後にどれだけの技術や社会課題解決の努力が詰まっているか、考えたことがあるだろうか。
“社会に価値を還元する”という原点から──食の未来と循環型社会を支える存在へ
学校給食で親しまれた三角パック──その象徴的な存在として知られるテトラパックだが、今から70年以上前にスウェーデンで創業して以来、世界160か国以上で食品加工から包装、流通までを支える「食の社会インフラ企業」へと進化している。
脱炭素、食品ロス削減、食の安全保障。これら地球規模の課題に、私たちの知らぬ間に着実に取り組んできたのが、テトラパックだ。
「一般には私たちは紙パックの会社として知られていますが、私たちの事業はそれだけにとどまりません。食品が安全に、効率的に消費者に届くまでの全工程を設計し、支えることが私たちの真の役割です。創業者ルーベン・ラウジングの時代から、私たちは“社会にコスト以上の価値を還元する”ことを理念としてきました。それは、再生可能な紙資源を活用し、人々がどこでも安全に食品にアクセスできるようにすること。いまもその理念を守り、進化させています」
日本市場に挑む、グローバル経営者の視点

昨年10月、新たに日本と韓国市場の代表取締役社長に就任したニルス・ホウゴー氏は、デンマークを皮切りに、北欧、中東、スイスなど多様な地域で食品における様々な課題解決に挑んできたグローバルリーダーだ。
日本市場については「非常に成熟した市場であり、品質、精密さ、効率性といった点で世界でも学ぶべき存在。私たちが目指す“食品の安全性と入手しやすさ”の実現に向け、多くのヒントがある」と語る。
今年、生誕130年を迎えた創業者ルーベン・ラウジングの理念を受け継ぎ、日本でも「社会的価値をもたらす食の仕組み」を築こうとしている。
食の“裏側”に潜む環境負荷と経済価値
食の安全保障は、農業や小売だけで語られるものではない。実は、食品システム全体の温室効果ガス排出の約18%、経済的付加価値の最大40%が、加工・包装・貯蔵・輸送・流通といった“隠れた中間層”に集中している。
「興味深いことに、食品システムの環境負荷や経済価値の多くは、実は農場と店舗までの間にある工程に集中しています。この見えにくい部分こそ、私たちが責任を持って取り組むべき領域だと考えています」(ホウゴー氏)
つまり、私たちが気づかぬ間に、食品を「長持ちさせるために加工する」「安全に届ける」「無駄なく流通させる」過程こそが、環境負荷と経済価値の両面でカギを握っているのだ。
「食品が食卓に届くまでには、普段は意識されにくい多くの工程があります。加工・包装・流通といったプロセスが、食品の安全性や品質を支えているのです。私たちは、この“裏側”を支える存在でありたいと考えています」(同)
紙パックの製造にとどまらず、食品を加工、充填、包装し、安全な状態で世界中に届ける──それこそが、テトラパックの使命だ。
だからこそ、同社は日本市場においても包装資材の提供にとどまらず、食品システム全体の効率化と持続可能性の実現に取り組んでいる。
ロングライフ牛乳が切り拓く、持続可能な流通の未来
その一つの挑戦が、ロングライフ牛乳だ。日本市場では、「牛乳=冷蔵保存」という認識が強く根付いており、常温保存可能なロングライフ牛乳は、長らく消費者にとってなじみの薄い存在だった。
「日本では牛乳は冷蔵するものという認識が強く根付いています。しかし、UHT(超高温殺菌)と無菌充填、紙・ポリエチレン・アルミ箔で構成された6層構造の紙容器によって、光や酸素から内容物を守り、6~12カ月の常温保存が可能なのです。消費者の認知拡大には、まだ時間がかかるかもしれません」(同)
だが、ホウゴー氏は、日本市場の“意外な事実”にも言及する。
「実は、日本でロングライフ牛乳はすでに流通しているのですが、消費者の認識に配慮して、冷蔵売り場で販売されているケースが多いのです。消費者は常温保存可能であることに気づいていないかもしれませんが、流通面ではすでに効率化が進んでいるのです」(同)
実際、長期で常温保存可能なロングライフ牛乳が物流や販売の効率化、さらには食品ロス削減に大きく貢献している。冷蔵インフラの維持にかかるエネルギー負荷も小さく、特に地方や農村部など物流の効率化が課題となる地域では、ロングライフ牛乳が持つ常温保存性が、社会インフラの一部としても重要な役割を果たす。
「私たちは、安全性と品質を担保しながら、消費者にとって便利で持続可能な製品を届けたい。ロングライフ牛乳は、将来の持続可能な食品流通を支える重要な選択肢の一つだと考えています」(同)
こうした視点でテトラパックは、日本でも食の流通課題に挑戦していく。日本市場は、品質や精密さ、効率性において世界でもトップクラスの成熟した市場だ。
「2024年問題」への新たなアプローチ
一方で、食品加工や包装、流通といった“目に見えにくい”プロセスに対する社会的な理解や、長期常温保存を可能にする技術への受容は、まだ十分に広がっていない。
「日本は非常に品質基準が高い市場です。しかし同時に、冷蔵保存へのこだわりなど、文化的な側面から新しい流通モデルの導入には課題もあります。それでも私たちは、日本から多くを学び、日本の社会課題解決にも貢献できると信じています」(同)
特に、2024年4月から施行されたトラックドライバーの労働時間規制、いわゆる「2024年問題」は、日本の物流業界に深刻な影響を与えている。ドライバー不足と相まって、冷蔵輸送に依存した従来の食品流通モデルは限界を迎えつつある。
「チルド製品は製造から配達まで時間的制約が厳しく、ドライバーにも負担をかけています。常温流通なら製造期間にも余裕ができ、船便や鉄道など輸送手段の選択肢も広がります。また、チルド製品がクレートでの輸送を必要とするのに対し、常温製品はパレット輸送が可能で、大幅な効率化が図れるのです」(同)
こうした物流効率化は、環境負荷の削減にも直結する。冷蔵車両の運行減少によるエネルギー消費削減、輸送回数の削減によるCO2排出量削減など、従来の「ドライバーを増やす」「輸送効率を上げる」といった発想とは異なる、2024年問題への新しいアプローチといえる。
テトラパックが提案するのは、物流業界だけでなく食品・飲料業界も含めた構造的な解決策だ。単なる製品提供にとどまらず、企業・自治体・NGO団体などと共創し、労働力不足やサステナビリティなどの社会課題を同時に解決する道筋を描いている。
万博で示す、循環型社会の実例

こうした挑戦を社会に伝える場として、テトラパックが参加しているのが、現在開催中の大阪・関西万博だ。デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデンの北欧5カ国が共同で出展する「北欧パビリオン」に、テトラパックはプラチナスポンサーとして参画している。
「万博は、私たちの取り組みを具体的な形で示す貴重な機会です。私たちは北欧の企業とともに、グリーントランジション、ライフスタイルとウェルビーイング、モビリティとコネクティビティといった社会の重要なテーマに向き合い、新しい価値を発信しています。そして日本でも多様なパートナーと連携し、強靭な食品システムの構築や資源循環を通じた持続可能な社会づくりに向けた取り組みを発信しています」(同)
北欧パビリオン内で提供されているボトルドウォーターは、使用済みのアルミ付き紙パックの古紙を使用した再生段ボールに梱包されたうえで出荷・輸送されている。また、会場内で回収された使用済みの紙パックについては、大阪・関西万博の協賛者であるリサイクル事業者によって再資源化され、大阪・関西万博の会場内でトイレットペーパーとして使用される。このように、日本国内で進めてきた紙資源のリサイクルの実例を、実際の社会インフラとして可視化している。
たとえば、私たちがリサイクルに出した紙パックがトイレットペーパーや段ボールに生まれ変わり、また社会で役立っていく──そんな小さな循環の積み重ねも、未来の社会を支える「共創」のひとつなのだ。
食品や容器の“裏側”で、こうした企業やパートナーたちが静かに動いていたことに気づいたとき、社会課題の解決は決して遠い話ではなく、私たちの日々の暮らしとつながっていることを実感するだろう。
2050年ネットゼロに向けて──容器におけるライフサイクル全体で描く循環の未来
日本市場では、包装資材メーカーというイメージが強いテトラパック。だからこそ、食の安全保障や循環型社会づくりといった“大きな視点”を示すことで、同社の本質的な役割を社会に問いかけているのだ。
こうした循環型社会への取り組みは、リサイクルだけではない。テトラパックの紙容器は、約70%が原紙で、再生可能資源である木から作られている。原紙は持続可能な森林管理を認証するFSC®(森林管理協議会)認証を取得しており、適切に管理された森林やそのほかの管理された供給源からの木材を原料として使用している。
さらに、キャップやラミネートなどには、植物由来のプラスチック(サトウキビ由来のポリエチレン)が採用可能で、化石燃料由来の資源への依存を低減。これらの素材はサプライヤーと協働しながら、カーボンフットプリント削減も実現してきた。
近年では、紙ベースのバリア素材の開発も進み、将来的には「完全に再生可能資源で構成された紙容器」の実現を目指している。
包装そのものだけでなく、使用後のリサイクルや再生可能素材の活用も含めて「循環の仕組み」を製品の一部と考えているのだ。
「私たちは、グローバル全体で2050年までにバリューチェーン全体で温室効果ガス排出量ネットゼロを目標に掲げています。目標達成に向けた取り組みの一つとして、年間約1億ユーロ(約160億円)の研究開発投資の多くを、紙容器の素材構造の簡素化、再生可能資源使用率の向上、リサイクルの改善などに注いでいます。素材開発だけでなく、リサイクルインフラ支援や再生プロセスの改善まで、容器のライフサイクル全体で環境負荷を下げる努力が求められているのです」(同)
日本で60年、これからの共創に向けて
こうしたグローバルな挑戦を重ねてきたテトラパックだが、日本市場ではすでに60年以上の長い歴史がある。
「日本市場では、私たちの紙パック製品はすでに多くの方にご利用いただいています。しかし、食品加工や流通、リサイクルといった“見えにくい領域”における貢献は、まだ十分に知られていないと感じています」(同)
これからのテトラパックが目指すのは、包装資材メーカーとしてだけではなく、「食の安全性」「環境配慮」「社会インフラ」という視点から、食品システム全体を支える存在となることだ。
「私たちは、1962年に日本で創業を開始して以来、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを推進してきました。これからも、日本の食品・飲料業界が抱える社会課題の解決に向け、食品・飲料メーカー様、自治体、NGO団体など、さまざまなパートナーと共創したいと考えています。未来の世代のために、持続可能な食の仕組みを築いていくこと。それが私たちの使命です」(同)
社会課題に挑むことは、特別なことではなく、企業として果たすべき当然の責任なのだ。テトラパックは、その当たり前を迷うことなく実践している。外資系企業でありながら、長きにわたって日本の食品産業を支えてきた同社。だが今回のインタビューで明らかになったのは、実は「包装容器の会社」という認識を大きく超えた存在だということだ。
驚くべきは、社会課題解決への取り組みが、経営戦略や企業アピールの一環ではなく、創業者の理念を受け継ぎ、今もなお変わらぬ企業DNAとして息づいていることだろう。多くの企業が持続可能性を「新たな取り組み」として掲げる中、テトラパックにとってそれは当然すぎる日常なのだ。
食の裏側で続く静かな挑戦は、やがて私たちの食卓に、安全と持続可能性という確かな未来を届けるだろう。
次にコンビニで飲料のパックを手に取ったとき、少し立ち止まって考えてみてほしい。その小さなパックに込められた技術と、2024年問題や環境課題への挑戦を。私たちの何気ない選択が、実は未来の食卓を支える力になっているかもしれない。
(取材・文=昼間たかし/ルポライター、著作家)
※本稿はPR記事です。





