なぜ中小企業の生産性は上がらないのか。調査データが示す停滞の正体と、BPaaSという現実解

2025年12月17日、国内最大級のビジネスチャット「Chatwork」や、業務プロセス代行サービス「タクシタ」などのBPaaS事業を展開する株式会社kubellは、「中小企業の生産性向上の課題と、解決策となるBPaaSの最新動向」に関する調査結果を発表しました。
今回の調査は、中小企業の経営者や管理職、バックオフィス担当者約1,000名に対して実施したもの。中小企業が抱える生産性向上に対する課題と、それに対する現状の各社の動きを明らかにした上で、打ち手となりうるBPaaSの現在地点や今後の展望などが語られました。
『株式会社kubell「2025年12月 中小企業のデジタル化に関するアンケート調査」』より
調査期間:2025年11月17日~2025年11月19日、有効回答数:1,093サンプル
なぜ日本の生産性は伸び悩んでいるのか
株式会社kubellのピープルディビジョン ブランドエクスペリエンスユニット長、時田あゆみ氏がまず語ったのは、日本における「生産性の伸び悩み」という社会的課題です。
時田氏は、
「少子高齢化が進む日本が国際競争力を上げるためには、労働生産性の向上が必須であるにもかかわらず、労働人口の68.8%を占める中小企業における労働生産性が伸び悩んでいる」
と、指摘しました。
生産性向上の障壁になっているものとは

中小企業の生産性向上が進まない障壁についてのアンケートでは、
・「人手不足・採用難」41.0%
・「デジタル(IT)が使いこなせる人材・スキルの不足」30.9%
・「常に多忙で業務改善に割く時間がない」23.3%
など、そもそも人材や工数が不足していることを挙げる企業が多く見られました。
現在の社内フローの属人化やデジタルへの非対応などを障壁として挙げる企業もあり、工数不足などが影響してか、社内での業務整備がなかなか進まない様子も見て取れます。
そもそも、社内に「システム担当者はいない(社外・兼務もいない)」と回答した企業は全体の27.5%に上り、デジタルツールやAIの活用での生産性向上を目指す動きが出づらい状況といえます。

実際に、生産性向上のための現在の取り組みに関しては、
「仕事の簡略化・不要な手続きの廃止」37.7%
「働き方の見直し・改善」36.3%
と、新たなツールの導入などではなく、現在の業務内容の見直しに留まっている印象です。
中小企業のデジタル化ツール導入、なぜ進まない?
それでは、中小企業では、生産性向上に寄与しうるデジタル化ツールの導入はどれほど進んでいるのでしょうか。

中小企業においては、大企業の多くがすでに導入している「生成AI」の導入に関しても15.5%に留まっています。導入検討すらしていない企業がほとんどです。

デジタル化ツールに関する認知度も高くなく、昨今耳にすることが多いツールに関しても、「聞いたことがない・知らない・わからない」とする回答が、
・「DX」30.7%
・「生成AI」8.7%
・「SaaS」55.2%
となりました。「聞いたことはあるが、意味は知らない」と回答した割合を含めると「生成AI」で30%以上、「DX」においても50%以上を占めます。

一方で、デジタル化への着手を行ったことがないわけではなく、「デジタル化に着手した際に失敗した経験がある(いずれかの失敗の回答を選択した)」と回答した企業が57.5%いることがわかりました。
失敗の内容や理由に関しては、
・「利用が一部の人だけにとどまり、全社展開できなかった」34.2%
・「期待した効果が得られなかった」27.5%
。「社員の抵抗が強く、運用が定着しなかった」16.9%
など、ツールを導入したにもかかわらず、十分な活用がなされなかったという理由が多く挙がっています。
BPO導入のハードルが高い理由

中小企業におけるBPOやアウトソーシングの導入に関しては、デジタル化ツールよりもさらにハードルが高く、導入は100人未満企業ではいずれも10%を切っています。BPOは、企業ごとの業務フローをそのままアウトソースするためコストが上がりやすく、中小企業にとってはハードルが高いソリューションといえるでしょう。

実際に、BPO導入を検討する場合に重視するポイントとして「料金がリーズナブル」を挙げる企業が半数に上りました。企業規模別に見ると、企業規模が小さいほど料金面を重視する傾向がある一方、300人未満企業においては「顧客サポートの良さ」など、コスト以外の面にも目を向けています。
このように、多くの中小企業が現在の体制や生産性の課題を認識しているにもかかわらず、人材や工数不足をカバーするデジタル化ツールなどの導入を選択肢としていない企業が、まだまだ多い実態があります。BPOなどコストのかかるソリューションは、なお検討が難しいのが実情です。
一方で時田氏は、
「人員の充足度が低い企業ほど、BPOやBPaaSなどに対する導入意向が高い傾向にある。今度の人手不足の打ち手として意識され始めているのではないか」と話しました。
BPOでもSaaSでもない、「BPaaS」という第三の選択肢

中小企業が抱える生産性の課題に対しての、新たなソリューションとして注目されているのがBPaaSです。
BPaaSとはBusiness Process as a Serviceの略。企業ごとのオーダーメイドで業務をアウトソースするBPOとは違い、SaaSなどのオペレーションをアウトソースすることで業務効率化・DX化を図ります。クラウド上でDX人材と業務オペレーションを提供するため、通常のBPOに比べてユーザーの管理コストや費用が低減されます。海外では2018年頃から注目を集め、日本では2023年頃から企業の参入が相次いでいます。
コストの問題からBPOを選択できない中小企業にとって、システムで業務を最適化するSaaSは一見有効なソリューションに見えます。しかし、そもそも中小企業では、SaaS導入の意思決定や使いこなしが困難なケースが多いのです。そのSaaSを活用しながら業務プロセスを巻き取るBPaaSは、「BPOは導入が難しく、SaaSは使いこなせない」というDX市場におけるマジョリティの大きな選択肢となりえます。
Chatworkを起点に広がる、kubellのBPaaS戦略

kubellが展開するBPaaSについては、BPaaS事業を担う株式会社kubellパートナー 代表取締役社長である岡田亮一氏から語られました。
kubellの強みは、95.3万社以上、792万ユーザー(2025年9月末時点)が活用するビジネスチャット「Chatwork」を展開していること。多くの企業が活用するChatworkをインターフェースとすることで、BPaaSという新たなサービスであっても抵抗なく導入することが可能です。kubellパートナーでは、経理・事務・総務・採用など幅広い領域のサポートを担う「タクシタ」や、人事労務などの専門領域を担う「MINAGINE」を主力サービスとし、SaaSと人、AIエージェントの力を掛け合わせて中小企業のノンコアビジネス領域を支えています。
岡田氏は、現在働き方改革が進む運送業での「タクシタ」活用を例に、
「運送業者などではコア業務を担うドライバーに重きが置かれ、管理部門の人員が不足してしまう。Chatworkを活用することで、コミュニケーションの障壁なく業務に伴走ができ、担当者1人分の工数削減を実現できた」と、その成果について話しました。
AIはBPaaSをどう変えるのか

今後のBPaaSの動向について、岡田氏は
「AIの進化により、ユーザーとのコミュニケーションや、チャット内容をベースにした依頼実行などが劇的に向上するのではないか」
と予想しました。これは、ChatGPTなどLLMベースの革新的な技術進化で、AIによる高度な文書解析やタスク実行が可能になるためです。

また今後、BPaaSのオペレーターがAIエージェントを活用することで、オペレーターの生産性も大きく向上すると見込まれています。これにより、kubellではChatworkのユーザー数を活かし、BPaaS事業における顧客数の最大化を目指す方針です。
今後の具体的な活用イメージとして、「チャットのインターフェースにダイレクトにAIエージェントを接続して業務依頼をしたり、コーディネーターエージェントが複数の専門エージェントを束ねることでタスクを完了させたりという仕組みを導入していきたい」
と岡田氏は語り、さらなる生産性の向上に意欲を覗かせました。
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生産性を向上させるためのソリューションを活用するにも、一定のITスキルが必要な時代になっています。kubellではテクノロジーに対して知見を持たないユーザーでもその恩恵を受けられる世界の実現を目指しています。
「BPaaSという仕組みや考え方が浸透していく様子に手応えを感じている。BPaaSを武器にしながら、日本が抱える社会課題に向き合い、解決していきたい」
岡田氏は、そう展望を語りました。
Chatworkを「ヒトとAIが協働するプラットフォーム」へと進化させ、中小企業のDXを一気通貫で支援していく。kubellの挑戦は、すでに動き始めています。






