なんと山崎会長、近藤社長の両氏に、退任を促す手紙を送りつけたのだ。トーハンは書籍流通の合理化・システム化に後れをとり、昨年、取引書店数でライバル・日本出版販売(日販)に抜かれ、なおかつ業績は今年3月期まで6年連続で売り上げ高前年割れを続けている。上滝氏はこうした事態を招いた自らの“老害”を棚に上げ、山崎、近藤両氏に責めを負わせ、辞めさせようとしたのだ。
後任社長には、昨年9月から文藝春秋の平尾隆弘社長とともに相談役を務める、ポプラ社の坂井宏先社長を置こうとしているというのである。
坂井氏といえば、第5回ポプラ社小説大賞に俳優・水嶋ヒロを受賞させ、物議をかもしたり、昨年はフィギュアスケートの浅田真央選手のエッセー本を発売するにあたり、彼女の母親の死を利用しようとしたとして、批判を浴びた人物。ポプラ社社員によれば、「どんなに些細なことでも、自分が決めないと気がすまない人」と評判はいまいち。
やり手との評もあるが、
「取次会社という各出版社と等距離であるべき会社のトップに、いち出版社の、それも大株主でもない会社の社長が就任するのは問題だ」
との声が、トーハン社内はもちろん、株主である大手出版社をはじめとする各出版社、書店から湧き上がったのは当然である。結局、坂井氏が身を退くかたちで、この1件は収まった。
しかし、これまで上滝氏に頭を押さえられ続けてきた山崎・近藤両氏は反発を強め、上滝氏側と人事に関する綱引きが繰り広げられ、結局、上滝・山崎両氏は取締役を退任することとなった。
近藤社長は副社長に降格、新社長には、元副社長で6年前から顧問に退いていた藤井武彦氏(旧三和銀行出身)が就くことで、決着を見た。
野間講談社社長の反発
上場企業の社長が、特に落ち度もないのに1期2年で副社長に降格させられるなど、前代未聞。しかも前出の老舗出版社幹部は、こう語る。
「藤井さんはもう現役を退いて6年。悠々自適の生活を送っていた人が、突然マウンドに上げられて投げろといわれても、できるわけがない。藤井政権も長くは持たないのではないか?」
講談社の野間社長も、当然そうしたことは認識しているはずだ。「筋の通らない話だ」として反発を強め、今回の監査役就任拒否に至ったというわけである。
こうした一連のトーハンの混乱には、同社売り上げ高の6分の1を握る、セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長(トーハン元副会長、現取締役)の意向が強く働いているといわれる。一説によれば、「鈴木氏がイエスと言わなければ、トーハンでは何も決まらない」との声さえ聞かれる。鈴木氏と上滝氏は、鈴木氏がイトーヨーカ堂に転職する前のトーハン社員時代から親しく、今回の一連の人事も、鈴木氏の了解の下に行なわれたとの見方が根強い。
トーハン・セブン&アイ連合 vs 野間氏率いる出版社連合
鈴木氏は、次男の康弘氏が社長を務めるセブン&アイホールディングス傘下のネット通販会社・セブンネットショッピング(元・イー・ショッピング・ブックス)とトーハンの連携強化を狙っているとの説もある。加えて、トーハンは「電子書籍の取次サービスを行う」と発表したこともある。