ルネサスの12年3月末時点の手元資金は、1319億円と月商の2カ月分弱。1年前の半分以下だ。1年以内に返済期限が来る有利子負債は2107億円。赤尾泰社長は「通常のオペレーションについては、手元現金や(取引銀行との融資設定枠である)コミットメントラインなどがあり、どこかのタイミングで困ってしまうというようなことはない」と強調する。
だが、金融筋は「営業黒字への転換が早期に見いだせなければ、融資を打ち切る可能性も捨てきれない」と語る。再建策は急場しのぎにすぎず、安定運行が難しければ、再び資金面の難局に直面する。第一のハードルに挙げた工場の売却がまとまらなければ、閉鎖せざるを得ず、早期退職の人数も膨らむ。現在、予定している資金のやりくりでは到底回らなくなる。
3年前に自ら埋めた時限爆弾
第三の課題は安定操業に向けたコア事業の競争力だ。ルネサスは売り上げの約3分の1を占め、複数の機能をワンチップにしたシステムLSI事業を本体から切り捨て、家電や車の制御に使うマイコンに資源を集中させる考えだ。だがこの枠組みには、「システムLSIを他社と事業統合させることで、分社化させなければならない」という大きなハードルがある。すでに難航しており、枠組み自体が画餅に終わる可能性もあるが、このハードルさえ乗り越えれば、ルネサスは再起することができるのであろうか?
現在、マイコン市場でルネサスが占めるシェアは約3割、車載に限れば4割超である。いずれも世界首位だが、競合や取引先の話を総合すると、“きわめて厳しい”現状が浮かび上がる。特にネックとなるのは、ルネサスが強みをもつ「自動車向け」だという。あるアナリストは、こう囁く。
「3年前に受注した『時限爆弾』が爆発する。採算割れした自動車向けを、大量に生産・供給しなくてはいけない」
また、競合の外資系半導体メーカー関係者も「ルネサスは10年4月の新会社発足前後に、採算を度外視してシェア重視で受注していた。当社はとてもではないが受注を受けられない、安い価格レベル」と語る。自動車向け部品は、受注から開発・生産まで3年程度かかる。過去に後先を考えないで受注したツケが、構造改革で大ナタをふるっている今、重くのしかかってくるのだ。