再建計画案は官僚答弁以上のわかりにくさ
7月3日夕方、ルネサスは構造改革の骨子を発表した。これまでメディアが先走って報じてきたが、会社側は沈黙を守ってきた。公式の見解を初めて述べたわけだが、会見に参加した記者は「結局は何も決まっていないのでは」と首をひねる。
ルネサス再生のカギは、最大10工場ともいわれる再編対象の工場の内、いくつの工場を閉鎖せずに売却できるかという点だ。外資系アナリストは「会見ではこれが難航しそうなことが浮き彫りになった」と語る。
会見では「売却」「閉鎖」という言葉は一切用いられなかったという。資料や説明では「生産能力を縮小し、運営。但し、事業計画に従い譲渡または集約を検討」という文言を使用。官僚答弁も顔負けのわかりづらさだ。ルネサス関係者は「売り先や労働組合と完全に合意できていないことが背景にある」と囁く。
売却話が詰まっていないのは、マスコミ報道からも明らかだ。具体的な工場売却話が浮上したのが6月30日。29日の取締役会を受け、各社が報じ始めたわけだが、これがフライング気味の記事が多い。朝日新聞や時事通信社は大々的に「高知工場を売却」と書いたものの、会見ではこれを否定。事情に詳しい関係者は「高知工場は一部を住友電気工業に貸している。マスコミは間違いなく売れるとみて飛ばし記事を書いたのだろうが、住友は買収を拒否しており、売却交渉は難航している」という。
また、主力の鶴岡工場(山形県鶴岡市)の売却交渉も暗礁に乗り上げている。半導体受託製造最大手の台湾TSMCと話を進めてきたが、台湾メディアの報道によると、TSMCのモリス・チャン会長が「ルネサスの生産工場は買収しない」と明言したという。本音ではなく、交渉術のひとつではとの見方もあるが、いずれにせよ難航していることは事実。「鶴岡は売却対象となっている工場内では最先端の工場。一番売りやすいとも見られていただけに、鶴岡が売れないとなると他も厳しい」(外資系半導体幹部)との声もある。
特に10工場の内の8工場が、組立などを手がける「後工程」工場であり、半導体業界では人件費が安い東南アジアなどへの移管が進んでおり、売却先を見つけること自体難しい。売却のあてが外れれば、現在描く再建計画の頓挫は避けられない。
「融資打ち切りの可能性あり」(金融筋)
第二のハードルは財務の問題だ。今回の工場再編をめぐっては、手持ち資金の少なさが露呈した。リストラ原資がなく、NEC、日立製作所、三菱電機の大株主3社に泣きついたが、自らが経営危機のNECが難色を示したため、一筋縄で行かなかったのは周知の通りだ。