スマートフォン(スマホ)の登場により、消費者は家でも移動中でもリアルな店舗とネットの違いを意識することなく購買行動に移ることができるようになった。小売り業者はネットとリアルを行ったり来たりする消費者の行動に即応しなければならなくなった。セブン&アイHDは、コンビニのセブン-イレブン、スーパーのイトーヨーカ堂、百貨店のそごう・西武などグループ全社で扱う約300万点の商品の注文をネットで受け付け、近くのコンビニで受け取れるようにする。さらにコンビニ店員が注文者の自宅まで配達するサービスも想定している。
セブン&アイはインターネットによる物販やサービスの売り上げを、現在の約1500億円から7倍の1兆円規模に引き上げる計画だ。約1000億円を投下して、グループで扱っている全商品をスマホで注文できるシステムを構築する。このオムニチャネル戦略を担うのが康弘氏だ。
康弘氏は1987年、武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部電気工学科卒業後、富士通に入社。ソフトバンクに転職し、孫正義CEOのもとでEC(電子商取引)事業の立ち上げに携わった。99年8月、ソフトバンク、セブン-イレブン、トーハン、ヤフーの合弁会社として設立されたネット上での書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックスの社長に就任した。その後、同社はセブンネットショッピングに商号を変更し、3月のグループ再編で親会社のセブン&アイ・ネットメディアに吸収された。
スマホ普及の追い風を受け、ネット通販の市場規模は16兆円と高い成長を続ける中、セブンネットショッピングはアマゾン、楽天の2強の前に大苦戦中だった。そこでセブン&アイHDはグループ各社がバラバラに行っていたネットショッピングサイトをセブンネットショッピングに集約し、グループのネット通販の中核会社とした。そしてネット通販強化策の第2弾が、オムニチャネル事業の推進だった。
●“ポスト鈴木”の最有力候補
そんなセブン&アイHD傘下の主要企業、総合スーパーのイトーヨーカ堂は、戸井和久取締役兼常務執行役員が5月15日付で社長兼COO(最高執行責任者)に昇格する人事を固めた。亀井淳社長兼COOは顧問に退き、鈴木敏文氏は会長兼CEOに留任。戸井氏は敏文氏が宣言した「GMS(総合スーパー)の大改革」を担う。16年2月期末までに正社員を半減し、パート化比率を90%に高める荒業に挑戦する。現在、物流業界で進む非正規社員の正社員化の動きとは真逆である。
セブン&アイHDの今後の最大の焦点は、敏文氏の去就だ。コンビニの生みの親として同社に大きな影響力を持つ敏文氏も81歳になることもあり、敏文氏の後継者は、セブン-イレブン・ジャパンの井阪隆一社長でほぼ固まっているといわれている。