ホテル“らしからぬ”発想と立地を生かしたサービス
福岡県福岡市の「アンカーホテル博多」では、「カップルプラン・サイコロで6が出ればタダ」というサービスを導入している。平日のみのペア宿泊限定サービスだが、チェックイン時にジャンボサイコロを振り、出目によって割引するというもの。出目が6の場合6000円引きになり、ルーム料金が実質無料となる。ベースとなる宿泊料金は最寄り繁華街の相場通りながら、一気に無料になるチャンスがあり、少なくとも1000円は必ず安くなるというのが嬉しいサービスだ。
東京都北区の「ホテルメッツ田端」は東北新幹線、秋田新幹線、上越新幹線などを見下ろせる立地から、新幹線マニア垂涎のサービスとして「トレインビュープラン」を設けている。単純に部屋から新幹線を眺められるというだけでなく、鉄道車両模型「Bトレインショーティー」や「Nゲージダイキャストスケールモデル」、国鉄寝台列車で使用していた「エ」マーク入り浴衣を特典にするなど、宿泊者用のプレゼントも充実。また、ライティングチェアに新幹線「あさま」「MAX1階席」などのシートと同じ生地を使用した部屋もあり、鉄道好きにはたまらないだろう。
同じく鉄道系サービスを実施しているのが、東京都千代田区にある「秋葉原ワシントンホテル」。「クハネ1304・鉄道ルームプラン」と銘打ち、総延長30メートル、同時に4路線の操作が可能なジオラマが部屋で楽しめるというサービスが注目を集めている。鉄道カフェ「バー銀座パノラマ」オーナー・鈴木邦夫氏監修、鉄道ジオラマ製作会社・ディディエフ作製の最強タッグによって生まれたという鉄道ジオラマは、ファンならば操縦してみたくなること請け合いだ。
「ホテルメッツ田端」「秋葉原ワシントンホテル」の両ホテルは、都心の相場からすると若干高めながら、付加価値に惹かれて利用するファンは多いという。
地域の特色を生かしたサービスを提供しているのは、長野県岡谷市の「岡谷市天王森・ビジネスホテル湊屋」。毎年6月中旬の期間限定だが「ホタル鑑賞送迎プラン」というサービスを実施している。ホタルの名所で“東日本一”といわれる「松尾峡ほたる童謡公園」までの送迎付きというから、仕事の疲れも吹き飛ぶヒーリング効果がありそうだ。
ビジネスホテルとカプセルホテルの融合
近年では個室の形状に変化を加えたホテルもある。大阪市御堂筋難波の1号店からスタートし、現在主要な都市に5店舗を構え、羽田空港第1ターミナル内にも展開するホテル「ファーストキャビン」もその一つ。同社広報企画の大和田雅子さんに話を聞いた。
「当ホテルのコンセプトは、飛行機の『ファーストクラス』です。専有面積は小さめですが、テレビなど必要なものがコンパクトにまとめてあり、ラグジュアリーな快適空間を演出しております。キャビンは『ファーストクラス』と『ビジネスクラス』に分かれており、前者で4.4平米、後者で2.5平米です。そして好評を得ているのが1時間800円から利用可能な『デイユース』です。忙しいビジネスパーソンの方々のお昼寝需要などに応えたサービスになっております」
リーズナブルで、仕事中の一休みとして1~2時間利用するのに便利だ。
「稼働率は、現在1号店の御堂筋難波店で90%、羽田ターミナル店もそれに並びます。1号店は2009年4月に開業し、当初は50%を切る時期もありましたが、日中利用のニーズと当ホテルの見込みが合致しまして、現在は高稼働率を維持しています。ホテル業界の進化に伴い、価格設定なども常に見直しをしています」(同)
デザイン性の高いウッディーでシックな室内は、女性客の琴線にも触れ、従来の男性客中心のホテルとは違い、女性の社会進出にも心強い味方になっているそうだ。
乱立しているビジネスホテルにおいて、他社との差別化を図ることが顧客獲得のファクターなのではないだろうか。宿泊料金を安くするという安易な差別化ではなく、プラスアルファの付加価値を付けた進化系ビジネスホテルの需要は、ますます高まっていきそうだ。
(文=東賢志/A4studio)