このように、つい最近まで業績低迷に喘いできたマツダが、一気に過去最高益を計上し、円安効果が一段落した15年3月期も過去最高益を更新する見通しを示すまでに回復した背景には、「モノ造り革新」という、単なる製造現場の「カイゼン」を越えた究極の「コンカレントエンジアリング」(設計から製造にいたる全業務を同時並行的に処理することで、量産までの開発プロセスを短期化する手法)への取り組みがあったのだ。
例えば、エンジンのシリンダーブロックなどを機械加工するラインでは、一工程当たり14台の汎用マシニングセンター(MC)が並ぶが、これは「モノ造り革新」前までは専用機の「トランスファーマシン」で加工していたのを、汎用機による「フレキシブル生産」に切り替えたからである。専用機はひとつの部品を素早く製造する「大量生産」には適しているが、「変種変量」への対応は弱いと判断して変えたためだ。
この「変種変量生産」を実現するため、エンジンの設計構造の一つで冷却水が通る穴の部分に「セミクローズド」と「オープンデッキ」の2方式があったものを後者に、同様に「ベアリングブロック」と「ロアブロック」の2方式も後者にそれぞれ統一した。設計の初期段階から構造と工程をワンセットで考えることで、共通化しなければならない製品のハードポイントを最小化したのだ。これにより、搬送基準や加工基準も統一化でき、同じラインで複数の商品が流せるようになった。
一方で、各社が共通化している「ボアピッチ(隣り合うシリンダー同士の中心間距離)」は、性能追求のために排気量の大きさによって変えることにした。要はマツダの「モノ造り革新」とは、固定要素と変動要素を、設計と工場が一体になって明確にし、車の特色を失わず、かつ性能を下げずに固定要素を増やすことで、生産の効率性を高めていく考えなのである。だから単純な部品の共通化とは違う。
同時にこれは、車格や排気量の違いを超えて各ユニットの基本コンセプトを共通化して標準構造にし、相似形の設計にすることで少ない投資で多様な商品を生み出していく発想でもある。一例としては、エンジン制御系のソフトウエアも177種類あったものを原則1種類までに減らして大幅に開発期間を短縮した。
マツダの「モノ造り革新」の仕組みを因数分解していくと、製品構造に関して相似形や共通化の設計を推進する「コモンアーキテクチャー構想」と、高効率かつ柔軟に生産現場が対応する「フレキシブル生産構想」に分けられる。