ユニクロ柳井正の農耕民族経営 同じことの繰り返し&精緻化で同一事業領域を深掘り
ファストリが14年8月期の業績予想として発表している内訳を次に掲げます。
事業別 売り上げ予想 対前年比
国内ユニクロ事業 7,150億円 +4.6%
海外ユニクロ事業 4,000億円 +59.2%
グローバルブランド事業 2,530億円 +22.7%
合計 1兆3680億円 +19.9%
表から、現在の基幹事業である国内ユニクロ事業が成長限界に近づいてきていると見ることができます。ここから20年までの6年の間で総売り上げ5兆円を達成するためには、海外ユニクロ事業とグローバルブランド事業の2つのカテゴリーでの大飛躍が必要となります。
グローバルブランド事業は海外におけるM&Aが一番てっとり早い、というかそれしかないわけです。大型案件であったJクルー社買収には頓挫したようですが、今後いくつもの案件が出てくるでしょう。
ちなみに柳井氏自身は米国での事業展開について、次のように語っています。
「今までは(欧州の存在感が大きい)大西洋の時代だが、今からは太平洋。中国からインド、南米まで含め、すごい経済圏になる。(要となる米国は)我々が世界一のアパレル製造小売業になるなら、絶対に無視できない市場だ。(売上高は)1兆円くらいないといけない」(14年3月27日、米ニューヨークでの共同記者会見)
●柳井氏の農耕民族経営
いずれにせよ、5兆円を目標として意欲的に事業拡大を続けている柳井経営は、ドメイン的には同じ領域の中での展開です。ファストリ・グループの今までの成長は、展開地域がグローバルになり、複数ブランドの所有だったり、他社のブランドや流通力を買収したり、というようなことにより実現されてきましたが、事業領域的には集中して衣料および関連流通業の領域にとどまっています。
柳井氏の経営の特徴はつまり、衣料事業というカテゴリーの中で独自のビジネス・モデルを構築し、それを徹底的に精緻化して磨き込んできたところにあるのです。
「ビジネス・モデル」というのは「独自な仕事のやり方の合わせ技」と言い換えることができますが、柳井氏が実現したビジネス・モデルには次のような合わせ技があります。
(1)ユニクロというブランド・ショップを始めて、それを多店舗展開してチェーン化をした。
(2)ファストリにより有名となったSPA(製造小売り)方式の本格的な導入
(3)中国での大量委託製造とそのコントロール(サプライ・チェーン・マネジメントの確立)
(3)新素材開発のため、東レとの戦略的で本格的な提携
(4)対面販売でなく、顧客が自分で選んで会計を済ませるセルフ方式の徹底
(5)「使った後でも返品自由」などの、顧客との信頼感醸成策
そして確立したこれらのビジネス・モデルを地域的に、あるいは他社を買収したりして拡大しようとしています。これは、同じことを繰り返し、その精度を年々上げていこう、そして同じ土地で実現していこうという、農業の方法論と通じるところがあると思います。
経営コンサルタント、MBA経営代表取締役。20年以上にわたり外資4社及び日系2社で社長を歴任。業態・規模にかかわらず、不調業績をすべて回復させ「企業再生経営者」と評される。実践的な経営戦略の立案指導が専門。「戦略カードとシナリオ・ライティング」で各自が戦略を創る「経営者ブートキャンプ第9期」が5月後半から開講。1949年生まれ。学習院大学修士。米国サンダーバードMBA、元同校准教授・日本同窓会長。法政大学博士課程(経営学)。国際経営戦略研究学会員。著書に 『本当に使える戦略の立て方 5つのステップ』、『本当に使える経営戦略・使えない経営戦略』(共にぱる出版)、『あなたの会社は部長がつぶす!』(フォレスト出版)、『MBA社長の実践 社会人勉強心得帖』(プレジデント社)、『MBA社長のロジカルマネジメント-私の方法』(講談社)ほか多数。
「有限会社MBA経営 公式サイト」
http://senryaku.p1.bindsite.jp/
「山田修の戦略ブログ」
http://yamadaosamu.blogspot.com/