しかし海外はもっと先を進んでいます。そこには「海外の新規市場を獲得する能力の差」が存在しています。例えば、日本からEUへのブリ類輸出は500トン程度ということで、ある団体は多額の予算を持っていても、「そんな小さな市場を獲りにいってどうするのか」というようなコメントをしています。確かに「既存」市場は500トン程度ですが、そこには「なぜ500トンにとどまっているのか」という分析はなく、その状況をどのような方法によって変えることができるのか、という戦略もありません。これでは海外勢と勝負になりません。世界のサーモン市場を支配しているのはノルウェーですが、その司令塔であるNSC(ノルウェー水産物審議会)の水準から見ると、残念ながら子供と大人くらいの力量の差が存在します。
NSCの場合、獲得を目指す市場を徹底的に分析します。実際に世界中の現場に入りヒアリングしつつ、アンケートをしたり統計処理(計量経済分析)をしてみたり、ありとあらゆる最新のマーケティング手法を用いて分析し、その結果得られた「改善点」を改善して、さらに自ら商談につながる機会をしかけて市場を切り開いていきます。つまり、マーケティング戦略に根本的な違いがあるのです。彼らはそうやって、この十数年の間に、サーモンの輸出量を0から137万トンにまで伸ばしたのです。
●ジェネリックマーケティングの必要性
日本の場合は残念ながら今のところ、前述した団体の姿勢に見られるように、個別の企業にだけリスクをとらせるかたちになってしまっています。つまり、世界市場獲得をバックアップすべき組織が、最初からそれをやるつもりがない、表向きは「やる」といいながら「やらない」のです。そういった人々には、本来は業界の未来を背負って取り組むべき、商品カテゴリ全体の需要を上げるために行うマーケティング、いわゆるジェネリックマーケティングをお任せすることはできません。リスクを背負うという意思がないので、養殖会社や水産加工会社と命運を共にする覚悟は生まれようがありません。
それに対して、ノルウェーの場合は自国にそもそも市場がないので、「やらない」という選択肢がありません。常に「どうやったら世界市場を得られるか」という問いへの答えを求めることになります。それゆえ、担当者は必死になって競争し、本物の情報を集め、最新のマーケティング手法を駆使し、「正しい答え」に到達するのです。担当者に強いマーケティング・インセンティブが存在し、情報戦で確実に勝ちを取りにいくのです。