●ブリがEU市場でシェアが低い理由
なお、前述したブリがEU市場でまだ低いシェアしか獲得できていない理由は、すでにわかっています。
1つ目は、EUの衛生基準「EUHACCP」は国内の行政組織による認定になるのですが、それが世界的に見て異常なまで厳しい時代が続いてきたためであり、EUHACCPを取得してEUへブリを輸出できる企業は、ほんの数社しか存在しません。昨年この方向は大きく変わったものの、これが最大の理由であり、検疫関係の事項について日本とEUの間で十分に整理できているとは言い難い状況です。
2つ目の理由は、品質維持の問題です。ブリは国際市場で評価の高い魚種である一方、生鮮であろうと冷凍であろうとメト化(酸化=血合いの部分が黄緑色に変色する)の問題があり、これをクリアするにはさまざまな技術を使わなければいけません。ちなみに、技術確立の目処はすでに立っています。
3つ目の問題は、EU市場の分析をノルウェーのNSC並みに徹底的に行っていないので、マーケティングが可能になるだけの情報を得ていませんし、分析できていない点です。
そして、これら3つの問題は、日本の能力をもってすれば十分に解決できるにもかかわらず、なぜ解決されていないのかというと、まさに「ジェネリック=商品カテゴリ全体」になっていないからです。個別企業がばらばらに自前の人とお金、時間を使っているので、いつまでも解決できないのです。大学や資材メーカーなどが持つR&D(研究・開発)機能、養殖・加工業者の垂直連携、既存市場でシェアを拡大しようとするようなフォロワー戦略ではなく、市場を開拓するリーダー戦略など、一企業ではできないことに取り組まなければいけないのです。500トンの市場規模を1万トンにまで伸ばすためにはジェネリックマーケティングが必要ですが、そのためには「マーケティングの結果に責任を持つ」組織が、事業として命運をかけて取り組む必要があります。結果が出ないのであれば、ビジネスとしてはなんの価値もありません。
なお、ニュージーランドやオーストラリアは、ノルウェーのジェネリックマーケティングの手法をしっかり習得しています。「ブリが売れる」とみると、ブリの近縁種を「イエローテイル(ブリ)」として生産し、EUや北米に大々的に輸出しています。その量はすでに日本の輸出量の数倍に達しています。日本で生産されるブリのほうが柔らかく、においも少なく、脂肪含有量も多いため、EUや北米での市場評価は高いのですが、「ブリの代用品」が普及しているといえます。これは、市場は存在してもなんらかの「入りにくい課題」があると見るべきであり、その課題の解決方法を得た国が、その市場を得るのだという単純な事実を示しています。筆者は現在、養殖魚を海外に輸出するためのジェネリックマーケティング実施に向けた活動を行っていますが、事業として日本が世界に勝てるものにしたいと思っています。
(文=有路昌彦/近畿大学農学部准教授)