証券会社が大口の取引先に増資情報をもらす、インサイダー取引問題の続出を受け、増資公表日の売買高が、直前1カ月の平均に比べてどれだけ増加したかを東京証券取引所が調査した。2009年以降に公募増資した東証1部上場企業で、増資発表日に取引が急増した事例が21社あった。取引量が普段の5倍以上に膨らんだ例もあり、東証はインサイダー取引が常態化していた疑いがあるとみて、証券取引等監視委員会などと実態の解明を進めるという。
市場関係者が今、注視しているのが全日本空輸(ANA)の公募増資である。公募増資発表直前の出来高(=取引量)があまりにも異常だったからだ。
ANAは7月3日の取引終了後、最大2110億円の公募増資を実施すると発表した。米ボーイングの省燃費飛行機、「787型機」の購入やアジアで航空会社をM&A(合併・買収)する資金に充てる。
公募増資発表前の同社の出来高は奇妙奇天烈だった。まるで事前に公募情報が漏れていたかのような動きを示していた。6月には、1日の商いが1000万株前後で推移していたが、6月29日に、突然1595万株に膨れた。週明けの7月2日は2404万株に増え、7月3日に一気に1億427万株を記録したのである。6月に比べて、増加率は実に10倍。公募増資の発表は、いうまでもないが、3日の取引が終えた後である。
主幹事は野村證券、ゴールドマン・サックス証券、JPモルガン証券。市場関係者に衝撃を与えたのは、主幹事が野村證券だったことだ。公募増資を巡っては、証券会社が事前に情報を漏らすインサイダーが次々に発覚、野村は国際石油開発帝石、みずほフィナンシャルグループ、東京電力の公募増資情報を事前に漏洩させたことを公式に認めていた。
「まさか」と思いながらも、事前に公募増資の情報が漏れたとしか考えられない出来高の動きに市場&投資家は不信を募らせたのである。
永田町も強い関心を示した。民主党の財政金融部門資本市場・企業統治改革ワーキングチーム(WT)は、公募増資に関する情報が決議前に流れた場合の、取引所における売買の扱いを(どうするかを)、今後の検討課題として挙げた。
ANAの公募増資の情報の流れをトレースしておこう。7月3日、NHKが正午のニュースでANAの大型増資実施の可能性を報道。放送直後、ANAは「当社が発表したものではない」と、通り一遍のコメントを出したが、東証がANAの株式の売買を停止しなかったため、NHKの報道を受け、株価は午後の取引で急落。前日比31円安の193円で終えた。