津賀氏は1979年、大阪大学基礎工学部卒業後にパナソニックに入社し、技術本部無線研究所(当時)の音声認識グループに配属された。経営トップに駆け上がる出発点になったのは、次世代DVDの規格統一争いで勝利したこと。パナソニック、ソニー、オランダのフィリップスなどはBD(ブルーレイ・ディスク)陣営で、東芝のHD-DVD陣営と真っ向から対立していた。BDは「記憶容量は大きいが高コスト」、HD-DVDは「容量はBDに劣るが安価」。津賀氏はBD陣営を代表して東芝と交渉した。規格統一交渉は決裂したが、ハリウッドの映画産業がBDを支持したことから、商品化で先行していた東芝のHD-DVDは結局、全面撤退に追い込まれた。標準規格づくりはソニーやフィリップスが得意としていたが、規格統一交渉は津賀氏が最後まで主導した。津賀氏はこの時「顧客目線の重要性」を痛感した。大容量化は顧客ニーズに合っていると信じて強気の姿勢を崩さず、妥協せず東芝に勝利した。これ以降、津賀氏は「顧客目線」に徹底的にこだわるようになったといわれている。
その後、津賀氏はパナソニックの社長の登竜門であるAVCネットワークス社の社長を務めたが、津賀氏の強みは技術者で同社の本流の事業を経験しており、同社の事業に“土地勘”がある点だ。
そんな低迷からの脱却が見えつつあるパナソニックに対し、ソニーは14年3月期、13年10月、14年2月、同5月と3度にわたる下方修正の末、売上高7兆7672億円、純利益1283億円の赤字を計上し、さらなるリストラを発表するなど業績回復の兆しが見えない。
ソニーの平井一夫社長兼最高経営責任者(CEO)は84年にCBS・ソニーに入社後、ソニー・コンピュータエンタテインメントに転籍して、主にゲーム機プレイステーションの販売に従事した。前任CEOのハワード・ストリンガー氏に認められ、後任に指名されたわけだが、技術者でなくソニー本体の出身でもなく、同社の本流であるエレクトロニクス事業を経験したことがない。こうした点が、パナソニックの津賀氏と異なる点だ。
●際立つパナソニックとソニーの差
津賀氏はトップセールスでも成果を挙げている。14年2月、フルハイビジョンの4倍の解像度を持つ4Kに対応した世界初の法人向けタブレット端末をトヨタ自動車グループに納入することに成功した。津賀氏がトヨタの豊田章男社長に直接売り込み、成約にこぎ着けた。独フォルクスワーゲンなどへのタブレット端末のトップセールスも進めている。さらに建設会社や医療機関、化粧品の販売店などをユーザーと想定し、業務用タブレットの世界市場でのシェアを15年に5割に引き上げる計画だ。こうした果敢なトップセールスが平井氏には欠けている、との指摘もある。
また、パナソニックは12年度の業績不振を受けて、13年度に組合員の賞与を2割カットしたが、業績が急回復し13年4~12月期の純利益が過去最高になったため、カット額の半分を14年4月支給の給与に上乗せして返した。対象は同社本体と一部のグループ会社の社員6万人で、総額100億円を「経営協力感謝金」の名目で支給した。単純計算で1人当たり17万円前後だ。社員に利益を還元することにより、「社員の士気は向上しつつある」(同社社員)という。さらに管理職についても年俸の1割をカットしたが、その4分の1を戻す。
一方、ソニーは13年度の赤字決算を受け、14年度の一時金を基本給の3.85カ月とし、現行の報酬体系になった04年度以降で過去最低となった13年度の3.6カ月をわずかに上回るにとどまった。ソニー社員からは「働いても報われない」との声も漏れる。
さまざまな面で、パナソニックとソニーの差が広がりつつある。
(文=編集部)