台湾当局の決定はシャープには大誤算だった。1株550円の出資で669億円を得る計画は幻となった。シャープと鴻海は出資条件の早急な見直しを迫られている。価格を見直して再申請を行い、承認を得なければ鴻海はシャープに出資できない。同委員会の権限は絶大だ。
こうした最中、シャープと鴻海の双方は出資見直しの協議に入ったことを明らかにし、8月10日までに「提携関係を維持する」を骨子とした共同声明を発表することになっていたが、この発表も8月末にズレ込んだ。出資に関する細目が決まらなければ共同声明は出せない。
シャープ側が考えていたシナリオは2つだ。1つは、当初予定の調達金額669億円を据え置き、1株当たりの取得価格をシャープの株価の実態に合わせて引き下げる。市場では鴻海がシャープ株式を207円で引き受けるとの観測が出ていたが、シャープの株価の下落スピードはそれよりも早く、8月15日に一時、164円をつけた。38年ぶりの歴史的な安さだ。このシナリオだと予定の資金は確保できるが、出資比率が3倍以上になり鴻海が完全にシャープの経営権を握ることになる。
もう1つは出資比率9.9%を据え置いて、1株当たりの取得価格を引き下げる案。鴻海に完全に支配されること嫌っているシャープの現経営陣は、出資比率9.9%を動かしたくない。だが、株価の実態に合わせるとシャープが鴻海から受け取る資金は3分の1以下に激減する。
ところが鴻海側から投げ返されてきたボールは20%の出資だった。取得価格も時価に近い200円前後に引き下げるよう要求している。20%なら当然、役員の派遣ということになろう。
シャープは鴻海から出資を仰ぐほか、液晶パネルの在庫の圧縮や手持ち不動産売却などで計4000億円の財務改善を図ることにしていた。頼みの綱の鴻海からの資金導入のメドが立たないと、今後、資金繰りは極めて深刻になる。
資金繰りを見ておこう。06年に液晶の増産を目的とした設備投資資金を得るために発行した転換社債2000億円の償還期限が、13年9月末にくる。3600億円のCP(コマーシャルペーパー)の返済もある。5000億円規模の資金の借り換えが必要になるといわれている。そうでなくても、6月末時点の有利子負債は1兆2500億円、現預金はわずか2176億円である。
もともとシャープの主力銀行は旧富士銀行。その流れをみずほコーポレート銀行が引き継いだ。並行主力の三菱東京UFJは、00年半ば以降、シャープの業容の拡大にあわせて取引を拡大してきた。