その前触れは8月3日にあった。台湾証券取引所で「条件見直しに合意した」と発表。5日には郭台銘(テリー・ゴー)董事長自らが台湾のテレビ番組で出資条件の見直しは「シャープ側から提案があったもので、片山幹雄会長と町田勝彦前会長(現・相談役)から鴻海はシャープ(との資本提携)から撤退してもよいと言われた」と爆弾発言をした。一方シャープは8月初旬の時点では「出資条件の見直しに合意した事実はない」と否定。両社の不協和音が表面化した。
みずほコーポレート銀行と三菱東京UFJ銀行は、早ければ8月中に行う600億円超のつなぎ融資の条件として「鴻海との資本提携の成立」を求めており、シャープは出資比率の引き上げを受け入れざるを得ないところにまで追い込まれた。
シャープは主力2行に追加リストラ策を近く提示する見通しだ。複写機やエアコン、発光ダイオード(LED)照明など、事業の売却と資産の圧縮が柱となる。売却の候補となっている事業に関して京セラ、大和ハウス工業、ダイキン工業などが関心を示している。結局シャープは液晶パネルと携帯電話と、プラズマクラスターの技術を使った一部白物家電の会社になるわけだ。国内での液晶テレビ組み立て生産からも撤退する方針だ。
加えて、スマートフォン(高性能携帯電話)向け液晶パネルを作る亀山工場(三重県亀山市)を別会社に分離する案もある。亀山工場を本体から分離して他社から出資を受け入れる。亀山工場は第1、第2工場があり、最新鋭の中小型液晶パネルを生産している。大型液晶パネルを生産している大阪・堺工場が鴻海の出資を受け入れて共同運営に移行したのと同じ方式を踏襲する。
鴻海は3月27日、シャープの新株を1株当たり550円で引き受け、発行済み株式の9.9%を握る契約を結んだ。総額669億円の払込期限は来年3月末までとなっていた。
同社は6月下旬、シャープ株を550円で購入した場合、2012年4-6月期で「64億台湾ドル(168億円)の含み損が出る」との試算を公表した。郭董事長は「短期的なシャープ株の下落は気にしない」としてきたが、そうも言っていられないお家の事情が発生した。
台湾経済部投資審議委員会は、外国企業が関与するすべての合併・買収案件を審査する。鴻海はシャープに出資する前に同委員会の承認を得る必要がある。実際、同委員会は8月3日、鴻海の投資申請を、いったん差し戻していたのだ。1株550円の価格が高過ぎるというのがその理由とされる。これで事態は急変した。